ラッティの試練 その6 逆転
「なっ......!」
突然の出来事にルーフは驚いた。
腕を引っ張られ、地面に手を付く。
ルーフの視界は目に入った汗でぼやけており、状況を理解できていない。
その隙にビヨンドはルーフの背中に手を伸ばし、背負っている虹の弓と矢をを奪う。
「まさか......!」
その時、ルーフはビヨンドが目覚めたことを察した。
すぐさま目を擦り、壁を背にして立ち上がる。
そして、ビヨンド目掛けて光を放つルーフ。
その間にビヨンドはすぐさま立ち上がり、傘を捨てた位置に着地できるように考慮しつつ、斜め後ろに飛んだ。
ビヨンドを狙った光は、飛んだことにより、当たることはなかった。
後ろに飛びつつ、虹の弓に矢をセットし、弓を引くビヨンド。
空中にいるビヨンドを光で狙うが、光が発射された頃には既に落下が始まっていた。
頭頂部の髪の毛に光が掠るが、無傷で地面に着地することができた。
「慢心するなって人に言っておいてこのざまなんて......」
ルーフの腹に矢の先端を向けるビヨンド。
「怪盗として未熟なんじゃないかしら!」
矢を離すと、ルーフに向かって勢いよく発射された。
ルーフをめがけて飛んでいる矢は、突如虹色に発光した。
矢の軌跡に太い虹を残し、ルーフに接近する。
ルーフは横に大きく転がり、間一髪で矢を避けた。
次の瞬間、ルーフの背後の壁に矢が突き刺さる。
大きな音と共に、矢は壁を貫き、屋内の部屋の壁にぶつかり、ようやく止まった。
矢が通った場所に残された虹は、矢が止まっても残っていた。
ルーフに意識を向けつつ、傘を回収し、腰のベルトに引っかける。
そして、残された虹にトランプを投げてみるビヨンド。
うかつに触れてしまって自分の体が傷ついてしまうことを恐れ、トランプで確かめることにしたのだ。
虹にぶつかったトランプは、ガツンという音を立てて地面に落ちた。
ビヨンドが確かめているところを光で狙うルーフ。
ルーフに意識を向けていたので、難なく光を避ける。
「これは離脱に使えそうね......!」
ビヨンドは弓を天に向ける。
そして、月夜に向かって矢を発射した。
空に向かって飛ぶ矢は、虹の軌跡を残し、柱を作りだした。
ルーフはビヨンドに向かって光を数本同時に発射した。
ビヨンドは虹の柱に身を隠すように飛んだ。
虹に衝突した光は、あっけなく消滅してしまう。
ビヨンドは地面に着地する前に、地面に矢を撃った。
地面に向かって発射された矢は、空に放った矢と同じ様に虹の柱を作りだした。
その柱の上に乗り、更に高く飛んだ。
「まずい......! このままでは逃げられる......!」
ルーフは別の角度からビヨンドを狙う。
一か八かで光を乱れ撃ちする。
ビヨンドは傘を手に持ち、開く。
そして、傘の支柱を口で持ち、身を隠す。
傘で守りつつ、地面に向かって矢を撃ち、柱を作る。
柱に着地して下を見ると、目を凝らすとなんとかルーフが見えるほどの高さにまで辿り着いていた。
「残念だったわね! 虹の弓はこの怪盗ビヨンドが頂いていくわ!」
ビヨンドは疾風の靴の能力を発動する。
そして、勢いよく飛び、森の中へと消えていった。
「待て!」
ルーフはビヨンドの後を追い、森に入った。
月明かりが届かない暗闇の中、ビヨンドを必死に探す。
動いたことによる汗と冷や汗が混じり、顔は汗だくになっていた。
息が切れそうになろうとも、休むこともなく走り続けて探す。
だが、結局ビヨンドを見つけることはできなかった。
一方その頃、ビヨンドは森を抜け、学園の入口まで戻ってきていた。
学園内に入り込むと、すぐさま地面に座り込んだ。
「いたた......」
頭が痛み、手で押さえる。
「そりゃそうよね......。気を失うくらいの強さで殴られたんだものね......」
闘っている時はあまり痛みを感じていなかったが、生きて戻ってこれた安心感から、痛みを感じるようになっていた。
「おっ! ビヨンドちゃん戻ってきたんだ!」
学園の入口近くで待っていたのか、ラッティが姿を現す。
「って、大丈夫!? 顔中血だらけだよ! あざもできてるし......!」
「え......?」
ビヨンドは顔を手で拭く。
手のひらを確認すると、血がべったりと付いていた。
「ははは......。少しヘマしちゃって......。でも、虹の弓はバッチリ......」
虹の弓をラッティに差し出したその時、ビヨンドは虹の弓を地面に落としてしまう。
「あれ......?」
そして、視界が歪み、意識を失った。
「ちょっと!? ビヨンドちゃん!?」
慌ててラッティが駆け寄り、体を揺する。
だが、ビヨンドは目覚めなかった。
「と、とりあえず医務室に運ぼう......!」
ラッティはビヨンドを抱え、医務室に向かって走りだした。
「申し訳ありません......! 任務に、失敗しました......!」
窓が無い石壁の部屋にて、ルーフが震えた声で偉そうに座っている薄紫色の髪の女性に報告する。
青ざめた顔で絶望しているルーフとは対照的に、女性は表情一つ変えていない。
「......何故失敗したのだ?」
「が、学園の怪盗の邪魔が入りまして......。名は、ビヨンドです......」
「ほう......。ラヴァが戦ったという相手か......。しかし、実力は四天王クラスではないと報告を受けていたが?」
「ラヴァの報告と違いがありまして......。戦宝と思われる鉄の傘を持っていて、私の攻撃では歯が立たず......。そして、不意を突かれてしまい......!」
ビヨンドとの闘いを思い出し、悔しい思いをするルーフ。
今後の処罰を想像し、涙さえ流してもなお、女性の表情は変わらない。
「......ふふっ。はははは......」
「......え?」
突然の笑いに困惑するルーフ。
「そうか......。ははは、これは今後が楽しみだな......! 今後の楽しみを教えてくれた礼だ。今回は許してやろう。次の指示まで準備をしておけ」
女性は立ち上がり、扉に向かって歩き始める。
「だが、手は抜くなよ? ノーティーのためにもな......」
すれ違いざまにルーフに耳元で伝えると、女性は部屋から出て行った。
その言葉を聞いたルーフから、大きなため息が漏れる。
それと同時に、緊張で硬直していた体から力が抜ける。
「......大丈夫?」
女性が部屋を出たのと入れ替わりで扉が開き、薄桃色の少女が部屋に入る。
「ノーティー、聞いていたのですか......。ええ、大丈夫ですよ......」
「本当? 大丈夫そうな顔には見えないけど......。顔、真っ青だし......」
「はは......。本音を言うと、気を失いそうなほど緊張しました......」
ルーフはノーティーの頭に手を置き、軽く撫でる。
「私は少し休ませて頂きます。ノーティーはこれから鍛錬ですかね?」
「ええ! ルーフを負かしたビヨンド? って怪盗を倒して敵討ちをするために、頑張るわ!」
「......そうですか。では、敵討ち、お願いしますね。それと......」
ルーフはノーティーの耳元に口を近づける。
「敵討ちだからって、殺しは絶対にダメですからね?」
それを聞いたノーティーは、ルーフに親指を立てて見せつける。
ノーティーの反応を見て安心したルーフは、一緒に部屋を後にした。
「うーん......」
ビヨンドが目を開けると、目の前には石の天井が広がっていた。
自分が仰向けになっていることを理解したビヨンドは頭を上げるが、鈍い痛みに襲われる。
「いたた......」
それでも我慢して頭を上げて自分の体を見ると、医務室のベッドに寝かされていることが分かった。
「あら、お目覚めかしら?」
「げっ......!」
眉をしかめながら声が聞こえた方向を見ると、黒焦げになったレパールが立っていた。
「帰って頂戴。お見舞いは受け付けてないわ」
ビヨンドは犬を追い払うかのように手を振り、帰るよう促す。
「私があんたのお見舞いのために駆け付ける訳ないじゃない。火傷の治療に来たついでに情けない面を見てやろうと思っただけよ」
「情けないって......。あんたも真っ黒で情けないじゃない......」
「仕方ないでしょ! 対決中に相手が怒って、屋敷に火を放ったのよ! それで、取り残された子どもを助けるために、火の中に突っ込んだせいで......!」
「ふーん......」
「それより、あんたはなんでそんなにボロボロなのよ。相手はルーフだったんでしょ? あんたみたいなムカつく奴とはいえ、人にそこまで手を出すような奴ではないと思うのだけれど」
「......学園を狙っている怪盗たち。そいつらの仲間になったらしいわ」
「なっ......!」
驚くレパール。
「あのルーフが......!?」
「......何か事情があるみたいだけど、本当よ。あいつはもう私たちの敵。あんたも気を付けなさい」
「......わかったわ。それじゃあ、私はこれで失礼するわ」
レパールが背を向け、医務室から出ていこうとした。
「......待って!」
そんなレパールの制服を掴み、レパールを止める。
「いったぁ! 突然何よ! 火傷で皮膚がただれてるんだから、優しくしなさいよ!」
「ランディ......! ランディは!?」
ビヨンドが真剣な顔で聞く。
「......今、朝の七時なんだけど......。まだ、見つかってないみたい」
「そう......。悪かったわね、止めて......」
「......今、ラッティさんも手を貸してくれているみたいだから、きっとそのうち見つかるわよ。とりあえず、今はお互い安静にしましょう」
「......そうね」
ビヨンドはレパールの制服を手放すと、レパールは医務室から出た。
「......ランディ」
再び横になり、目を閉じる。
「どこへ行っちゃったの......?」
閉じた目の隙間から涙が垂れ始め、頬と枕を濡らしていく。
行方不明になったランディを心配しながら、ビヨンドは再び眠りについた。




