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怪盗少女 その3

 建物内の警備は薄かった。

 音を聞きつけた者が外に行ってしまったのだろう。


 静かになった屋敷の廊下を、音を立てずに進んでいく。

 警備兵が近くにいる時は、気づかずに進んでしまうランディを止めつつ様子を見る。


 広い屋敷を進んでいくと、厳重な扉があった。

 宝を守るために閉じてあったであろう扉は開かれていた。

 

 ビヨンドとランディは部屋の中をコッソリと覗く。

 部屋の中の警備兵は全員倒れていた。


 そして、部屋の中心には今回の目標である蒼の剣を持ったレパールが立っていた。

 こちら側に背を向けており、まだ気がついていない。


「先越されちゃったかぁ。面倒だなぁ……」


 小声でそう言うと、ビヨンドは静かにレパールへと接近する。

 レパールに近づいた辺りでビヨンドの疾風の靴から風が吹き出始め、ビヨンドの体を宙へと押し上げる。

 押し上げられたビヨンドは、空中で下半身を捻りる。

 そして、回し蹴りで頭を蹴り飛ばそうとした。


「甘い!」


 回し蹴りが当たる直前に振り向き、腕で回し蹴りを防ぎ、頭を守る。

 ビヨンドは舌打ちし、蹴った足に力を入れ、レパールから離れたところに着地する。


「か弱い女の子にいきなり回し蹴りだなんて、野蛮すぎない?」


「部屋の警備兵を全員仕留めるか弱い女の子がどこにいるんだか……」


 呆れた顔で言うビヨンド。


「確かにこれは野蛮だよ! ビヨンドちゃん!」


「いい、ランディ? 怪盗なんてろくでもない屑ばっかりだから、確実にお宝を盗みたかったらこうやって蹴り飛ばすのが一番なの。これ、今回の一番重要な点ね」


「そ、そうなんだ……」


「ちょっと! そんな嘘を何真に受けてるのよ!」


 思わず突っ込むレパール。


「それで、なんで私の任務にレパールがいるのよ」


 面倒なことをせずにとっとと帰りたい。

 そんな気持ちを感じ取れるような顔でレパールに聞く。


「そりゃあ、この美しいお宝を横取りして、ビヨンドに勝った怪盗として称えられるためよ!」


 窓から差し込む月明かりに当たるように剣を掲げる。

 青く輝く剣にうっとりするレパール。


 しかし、ビヨンドはそんなことはお構いなく即座に接近し、滑り込んでからの足払いをレパールにお見舞いする。


「ちょっ……!」


 もろに足払いを受けてしまい、姿勢を崩してしまう。

 剣は手放してしまい、宙に浮く。

 ビヨンドは落とさないようにしっかりと手に取る。


「上向いてたら足元が見えないでしょ。さ、ランディ。こんな承認欲求の権化みたいな子どもは置いて帰りましょ」


「う、うん。じゃ、じゃあねーレパールちゃん」


 二人はレパールに背を向け、部屋から出ようとする。


「ば、馬鹿にするんじゃないわよ!」


 怒ったレパールは起き上がると、ナイフを取り出した。

 そのナイフをビヨンドに向かって躊躇いなく投げる。

 しかし、即座にナイフに気が付き、ビヨンドはランディを抱きかかえ、一緒に避ける。

 ナイフは壁にぶつかり、床へと落ちる。


「まさかあんた、ここの警備兵もあの物騒なもので殺したんじゃないでしょうね?」


「殺してなんかないわよ。睡眠薬を塗った非殺傷用のナイフをぶっ刺してちょっと寝てもらってるだけよ。ま、あんたに投げたのは戦闘用の危ないやつだけどね」


 ビヨンドの表情が一気に険しくなる。


「……ランディ、気が変わった。こいつ殺す」


 剣をランディに手渡し、指を鳴らすビヨンド。


「ダ、ダメだよビヨンドちゃん! せめて気絶させるくらいにして!」


 ビヨンドから受け取りながら止めようとするランディ。


「ランディ、あんたも私のこと馬鹿にしてるの? 私がビヨンドに殺されるわけないじゃない! まだ十四歳だからって舐めないことね!」


 レパールはポケットからナイフを取り出し、指に挟む。


「覚悟しなさい」


 ビヨンドは疾風の靴で物凄い速度でレパールに接近した。


「私に勝てるかしら?」


 ナイフを構えるレパール。

 素早く接近し、飛び跳ねるビヨンド。


「さっきも防がれたのに、懲りないわね」


 レパールは、先ほどと同じように頭を狙った蹴りを防ごうとする。

 しかし、先ほどとは違い、ナイフの刃で受け止めつつ、切り裂くつもりだ。

 だが、ビヨンドの体のバランスを調整することにより、挙動を変えた。

 頭を狙っていた足の狙いが胴体へと変わり、レパールの脇腹に直撃する。


「いっ……!」


 蹴り飛ばされ、吹っ飛ぶレパール。

 宙に浮き、地面へとぶつかる。

 全身に激痛が走りながらも、立ち上がるレパール。


 ナイフを取り出し、ビヨンド目掛けて投げる。

 ナイフはビヨンドに向かって直進している。


 だが、不思議なことが起きた。

 直進していたナイフが突然挙動を変え、ビヨンドに向かってきたのだ。


「っ……!」


 ビヨンドは咄嗟に避けるが、腕を少し切ってしまい、血が滲む。


「ビヨンドちゃん!」


「……面倒な戦宝を持ってるみたいね」


「ふふ、私のこの戦宝、赤水晶の指輪は、投げた物体の挙動を自由に変えられるの!」


 指にはまっている指輪を自慢するかのように見せつける。

 指輪が暗い部屋で赤く輝いている。


「ということは、指を切り落とせばいいわけね……」


 ビヨンドは落ちているナイフを手に取りながら発言する。


「な、なんて野蛮な発想なの!」


 ビヨンドの発言に怖気つき、指輪をはめている手を隠すレパール。


「はぁ、人に向かってナイフを投げてる奴が何を言ってるんだか……」


「ま、指を切り落とされる前に決着をつければ問題ないわ! さぁ、どんどん行くわよ!」


 レパールは再びナイフを投げてきた。

 飛んできたナイフは次々と挙動を変え、飛んでくる。


 しかし、飛んできたナイフを手持ちのナイフで次々と弾き落としていく。


「くっ……! 手強い……!」


「これでも優秀なんでね」


 レパールのナイフをすべてはじき落としたナイフを持ったまま接近し、勢いよく振りかぶる。

 レパールは急いでナイフを取り出し、ビヨンドの攻撃を受け止める。

 ガキンッと金属がぶつかり合う音が響く。


「……っ!」


 ビヨンドの目を見たレパールは驚いた。

 普段のけだるそうなビヨンドの顔ではない。

 目の前の人間を殺す、それだけを考えているとしか思いない恐ろしい顔を目の当たりにする。

 今まで殺される側に回ったことががなかっであろうレパールは、恐怖で動揺してしまい、気を緩めてしまった。


「……バーカ」


 その隙に、ビヨンドはレパールの腹に向かって腹を思いっきり蹴り飛ばした。


「かはっ……」


 勢いよく飛んでいき、壁に叩きつけられる。

 口から吐血し、レパールは気を失ってしまった。


「……生きてるよね?」


 震えた声で聞くランディ。


「人間なんてそんな簡単に死なないわよ。そもそも殺す気なんてないし」


「て、てっきり殺すつもりかと思って……。よかったぁ」


 気が緩み力が抜けたランディは、床に座り込んでしまう。

 そんなランディから剣を取る。


「じゃ、ランディ。あいつの運搬よろしく。流石にあのまま放っておいて殺されるのは可哀想だし」


「う、うん!」


 ランディはレパールを背中に乗せ、立とうとした。


「お、重……!」


 レパールのあまりの重さに、持ち上げられずにいる。


「ランディ、ちょっと床に寝かせて」


 ビヨンドに言われた通り、床にレパールを寝かせる。

 そして、レパールの制服のジャケットを脱がす。


「どれどれ......。うわぁ、何本ナイフ持ってんのよこいつ。軽くなるまで捨てていきましょう」


 レパールのジャケットのポケットのほぼ全てにナイフが収納されていた。

 それどころか、スカートの裏、などにもびっしりとナイフが収納されている。


「あーもうめんどくさい」


「ビ、ビヨンドちゃん。まさか……」


「せーの!」


 ビヨンドが両手で思いっきり制服を引っ張る。

 レパールの制服は破け、下着が露わになる。

 破いた制服をそこら辺に投げ捨てる。

 脱がせたスカートも同様に投げ捨てる。


「やると思ってたよ、ビヨンドちゃん……」


「さ、これで軽くなったし、帰るわよ」


「あ、そういえば、これってどんなお宝なんだろうね?」


 ランディがビヨンドに聞く。


「さぁね……」


 ビヨンドはランディから剣を受け取り、なんとなく剣を振ってみた。

 すると、剣先から勢いよく水が吹き出た。


「何これ、水鉄砲? しょうもないわね」


「炎に対抗するために作られた戦宝なのかな? それとも消火用?」


 なんとなくレパールに向かってもう一度剣を、しかも強めに振るビヨンド。


「あ」


 すると、先ほどとは比べ物にならないほど勢いよく水が噴出し、水に押されたレパールは再び壁へと叩きつけられた。


「......まぁいっか。レパールだし」


スタスタと歩き、レパールへ近づくビヨンド。

そんなビヨンドの後を追うランディ。


「じゃ、今度こそレパールの運搬お願いね。」


「う、うん......」


 ランディは、レパールを背負う。

 ナイフを制服ごと捨てたため、ランディでも運べるほど軽くなっていた。


「ちょっと面倒だったけど、お宝、蒼の剣いただき。怪盗ビヨンド撤退」


「か、怪盗ランディ撤退!」


 ビヨンドは事務的に、ランディは元気に宣言し、学園へと帰っていった。

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