ラッティの試練 その1 再戦
ラッティとの訓練後、クタクタになったビヨンドは、訓練場の端に座っていた。
周りの目など気にせずゼーハーと大きく呼吸し、手で汗を拭いながらレパールとラッティの訓練を眺めていた。
「お疲れ様です。よかったらお水をどうぞ」
「あら、気が利くじゃない」
クレナイは水が入った木製のコップを、ビヨンドに手渡した。
コップを受け取ったビヨンドは、中の水を一気に飲み干した。
「おーい! ビヨンドちゃーん!」
突然、訓練所の入り口から声が聞こえてきた。
入口の方を見ると、松葉杖を使って立っているランディの姿があった。
「えへへ、見にきちゃった」
「ランディ!」
疲れていることなど気にもせず立ち上がり、駆け寄るビヨンド。
「ビヨンドちゃん、どんどん強くなってるね! 私も頑張りたいけど......」
布が巻かれている足を見るランディ。
「ランディ。怪我が治るまで辛いと思うけど......」
「ビヨンドちゃん! ランディちゃん!」
二人の会話に割り込んでくるラッティ。
「ランディちゃんが立ちっぱなしだと辛いだろうから、食堂でお話してきたら? お菓子でも食べながらゆっくりお話ししてきなよ」
「え、でもまだ特訓が......」
「いいっていいって。たまにはゆっくり休みなよ」
「じゃ、じゃあ......」
二人は、訓練場を後にし、食堂へと向かった。
食堂にやってきた二人は、あたりを見渡す。
本来この時間帯は授業中であるため、全ての座席が空いていた。
二人は適当に入口近くの席に向かい合うように座った。
「ランディ、足の怪我はまだ治らなさそうなの?」
「結構深く刺さってたみたいで、まだかかるみたい......」
ランディが返事をした後、少しの間沈黙が続いた。
表情は笑顔だが、無理やり笑顔で振る舞っている。
そんな感じの笑顔だった。
周りに置いていかれるのが辛い、悔しいと思っているが、無理して平気なフリをしているのであろう。
「......私、このまま怪盗を目指してていいのかな......?」
「っ......! どうしたの、ランディ......?」
突然の発言に驚くビヨンド。
「だって、優秀でもないし、みんなに迷惑かけるし、怪我までしちゃって......。ラッティさんは立派になれるって言ってくれて、特訓もしてくれるって言ってたけど......」
ランディの笑顔がだんだん曇っていく。
「でも、このままじゃみんなに迷惑かけるだけになっちゃうんじゃないかって思うと……」
ついに涙を流し始めてしまうランディ。
「ランディ......」
「だから、私......。......ごめん、部屋に戻るね......」
「あ、一応部屋まで送......」
「ビヨンドちゃんごめん」
ランディは助けようとするビヨンドを無視し、食堂から出て行ってしまった。
ビヨンドはそんなランディを、ただ眺めることしかできなかった。
それから訓練場に戻ると、ラッティが手を振ってこちらに来るように言ってきた。
ビヨンドはランディのことを考えつつ、スタスタと向かっていった。
そして、ラッティの前にビヨンド、クレナイ、レパールは並ぶ。
「よーしビヨンドちゃんも来たことだし、説明するね」
「説明ってなんですか?」
何も知らないビヨンドが聞く。
「実は特別訓練の一環として、実践訓練もしてもらおうと思うの! ということでこれ!」
ラッティは三枚の紙をポケットから取り出し、ビヨンドたちへ渡す。
ビヨンドは紙に書かれた内容を確認する。
そこには、郊外に建っている豪邸の場所、数日後の日付と二十三時という時刻。
ターゲットである戦宝【虹の弓】。
そして、怪盗ルーフという名。
「怪盗ルーフって......!」
「三人には別の怪盗が狙う場所に乱入して、お宝を奪い取ってもらいます! これが今回の実践訓練だよ!」
「へぇ、面白そうじゃない!」
「ふふ、そうですね......!」
レパールとクレナイはとても張り切っている。
「で、飛躍的な成長を見せるビヨンドちゃんには、有名なルーフと戦ってもらいます! 私並みに強いだろうけど、決して殺人はしない怪盗だからいい練習相手になると思うよ!」
ビヨンドもレパールやクレナイと同じ様に、今回の任務にワクワクしていた。
かつて、新米だった自分を負かした怪盗。
慢心していた自分の心を折り、怪盗として未熟だった自分の意志を変えてくれた怪盗。
そんな怪盗に、再度挑めることを嬉しく思っていた。
「ビヨンドはルーフと戦うの? ふふ、また負けちゃうんじゃないかしら?」
「チッ......。うるさいわね。今度こそ勝てるわよ」
「あれ、ビヨンドちゃんってルーフと戦ったことあるの?」
「実は、初任務の時に......。あの時は負けちゃいましたけど......」
「そうなんだ。でも、今ならきっと勝てると思うよ! だって、私の訓練に着いてこれているんだし! 頑張ってね!」
「はい!」
ビヨンドは元気に返事をした。
それから数日後。
ビヨンドが任務に出かける日の夕方。
ランディは気分転換のために、エリューの町を歩いていた。
松葉杖をカツンカツンとつきながら、街を歩いていく。
松葉杖での歩行に慣れず、数十分ほど歩くと疲れてしまい、広場の噴水の縁に座り込む。
散歩でもすれば気分が晴れるかと思ったが、ランディの気が晴れることはなかった。
「私、ダメダメなのに......。怪我までして、みんなに心配させて......。グスッ......」
人々が行きかう広場で、思い詰めて泣き始めるランディ。
涙をポロポロと流すが、通りかかった人が声をかけることはなかった。
ある一人を除いて。




