ビヨンドの初任務 その2
ルーフの周りに、拳一握りほどの氷の塊が出現する。
「喰らいなさい!」
ルーフの声と共に、氷がビヨンドとランディに向かって発射される。
「ランディごめん」
「きゃっ!」
ビヨンドは、ランディの足を払い、強制的に即座に伏せさせる。
そして、自分も床に伏せ、飛んできた氷を避ける。
「ほう。新米にしてはやりますね」
感心するルーフ。
「いきなり兵士を凍らせたり、氷を飛ばしてきたり......。厄介な戦宝を持ってるわね......。......それじゃ、次は私の番よ」
ビヨンドがルーフに接近する。
「まだまだ行きますよ!」
更に氷を飛ばすルーフ。
それを避けつつ距離を詰めるビヨンド。
「それなら!」
ビヨンドの足元を狙い、氷を発射する。
だが、ビヨンドは氷を踏み台にし、飛び上がる。
「はあっ!」
体を捻り、回し蹴りをルーフに叩き込もうとする。
「甘い!」
ルーフが手を振り上げる。
すると、床から氷の壁が現れた。
ビヨンドの足が氷の壁に当たる。
壁には傷が少し付くだけで、壊れる気配はなかった。
床に着地しようとするビヨンド。
その隙を、ルーフは見逃さなかった。
ルーフは、氷の壁を消し、ビヨンドの前に姿を現す。
ルーフの顔は、嘲笑うかのような笑顔だった。
「がっ……!」
氷の塊が、ビヨンドの腹に直撃する。
そのまま氷と共に飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ビヨンドちゃん!」
ランディが駆け寄る。
ビヨンドの体を揺するが、ぐったりしていて動かない。
「ふふ。少し休ませてあげますね」
ルーフはそう言うと、凍った兵士の元へ近づく。
そして、指を鳴らすと、氷は一瞬で砕けた。
「はぁ! はぁー!」
閉じ込められて呼吸ができていなかった兵士は、床に手をついて大きく息を吸う。
「人殺しは私の、怪盗の理念に反します。ですから、貴方たちの命は奪わないであげます。しかし、もしこの戦いを邪魔したら……。全員がこの男のような目に遭うと思ってください」
兵士たちは恐怖で震え始める。
見せしめにより、兵士たちの戦意は完全に無くなっていた。
「さて、休めましたか?」
壁に叩きつけられたビヨンドに目を向けるルーフ。
「はぁ……。あっ……!」
腹を抑えつつ、震える足で立ち上がるビヨンド。
「ビヨンドちゃん! もう諦めようよ!」
泣きながらビヨンドの服を掴み、止めようとするランディ。
だが、ビヨンドは手を振り払う。
「大丈夫よ……。私ならまだやれる……!」
苦悶の顔でルーフを睨むビヨンド。
「本当にやれるんですか? フラフラしてますが……」
「ふふ……」
笑うビヨンド。
次の瞬間、ビヨンドが履いている疾風の靴が緑色に輝き始める。
そして、周辺に風を発生させる。
「ビヨンドちゃん!? 使い方わかるの!?」
「ええ……。あいつの休憩時間のおかげで、念じれば能力が発動するってわかったわ……!」
ビヨンドは、力強く床を踏み込む。
すると、ビヨンドの体は矢のようにルーフに向かって飛んでいく。
「なっ……!」
ルーフは、氷の壁で身を守ろうとした。
だが、油断していたため、壁を作るのが遅れてしまった。
ビヨンドは、ルーフの胸に頭からぶつかった。
勢いが強く、ルーフは吹っ飛ばされる。
ビヨンドもここまでの勢いを予想していなかったので、バランスを崩して倒れ込む。
「す、すごいよ! ビヨンドちゃん!」
ルーフに一撃を加え、大盛り上がりのランディ。
「くっ……。不覚……!」
「さて、この靴がある私に勝てるかしら?」
少し余裕が出てきたのか、笑うビヨンド。
ルーフに少しずつ、少しずつ歩み寄っていく。
だが、その慢心により、ビヨンドの足はすくわれた。
ビヨンドが地面に足を付けた瞬間、床が青く輝き始める。
床を見ると、青い魔法陣が描かれていた。
すぐに逃げようとしたが、調子に乗っていたビヨンドは、遅れをとってしまった。
「終わりです……」
ビヨンドの体を分厚い氷が覆う。
そして、先ほどの兵士のように閉じ込められてしまった。
「ふふ......。調子に乗るから、罠に気が付いても逃げられないのです......」
「ビヨンドちゃん!」
ランディが駆け寄る。
氷を殴るが、びくともしない。
「大丈夫ですよ……。懲らしめてるだけですから、後で解除してあげますよ……」
ルーフは、先ほどのビヨンドの攻撃が痛むのか、壁を背に床に座る。
「ルーフさんお願い! 解除してあげて!」
ランディがルーフに泣きつく。
「だから、後で解除すると……」
「お願いします! 私、ビヨンドちゃんが心配で……!」
「……はぁ」
大きなため息を付くルーフ。
渋々指を鳴らすと、ビヨンドを覆っていた氷が破壊される。
「油断したわ……」
顔に手を当て、失態を悔しむビヨンド。
「よかったですね。この子がいなかったら、貴方は死にかけるまで氷の中でしたよ」
立ち上がるルーフ。
そして、更にもう一度指を鳴らすと、入り口の氷の壁が砕け、散り散りになる。
「新米なのにも関わらず、私に一撃を喰らわせたのは見事です。その強さに讃え、疾風の靴はお譲りしましょう」
「ま、まだ勝負は……!」
「勝負は終わりです。それと、貴方はまだ自信過剰すぎる。もう少し警戒することを意識しなさい。……それでは、さようなら」
ルーフの体から吹雪が発生する。
あまりの強さに、腕で顔を隠すビヨンドとランディ。
吹雪が晴れる頃には、ルーフの姿はなかった。
屋敷を脱出した二人は、森で身を潜めつつ休んでいた。
「ビヨンドちゃん無茶しすぎだよ……!」
怒るランディ。
「ごめん、ランディ。心配させちゃって。でもいいじゃない。宝は盗めたんだから」
ビヨンドは、疾風の靴を見ながら言う。
「うまくいったけど……」
「何? 私が無茶したことが、そんなに嫌だった?」
「それもそうだけど……。先輩なのに活躍できなかったなぁって……」
落ち込むランディ。
「あら、活躍してたじゃない」
「え……?」
「だって、私のこと助けてくれたんでしょ?」
「そ、それはそうだけど……。でも、カッコ悪かったでしょ……? 敵にあんなに懇願しちゃって……」
「……ルーフなら助けてくれると見抜いてお願いしたんじゃないの?」
「いや……それは……」
「……まぁ、いいわ。先輩として、後輩を助ける。形はどんなであれ立派だったわよ。ありがとね、ランディ」
ビヨンドは、ランディの頭を撫でる。
「……うん! どういたしまして!」
喜ぶランディ。
「ふふっ。これじゃあ、どっちが先輩かわからないわね……。それじゃ、帰りましょ」
ビヨンドは、立ち上がろうとした。
しかし、足が思い通りに動かなかった。
「どうしたの!?」
「はは……。恐怖が今更……。戦ってた時は気合いが入ってたからわからなかったけど……。私、相当怖がってたみたい……」
授業は優秀なビヨンドだが、任務は今回が初めて。
そして、実戦も初めてである。
しかも、相手はかなり格上の相手だった。
自信があるとはいえ、新米であり、何よりまだ十五歳の少女である。
怖気づいてしまっても仕方がない。
今回はルーフが相手だったから良かったものの、もし、別の怪盗や強力な兵士だったら命を落としていたかもしれない。
未熟な自分の前に、運命的にルーフが現れ、本当に良かったと思うのであった。
それから、ビヨンドたちは学園に戻った。
疾風の靴は、初任務の達成祝いということで、ビヨンドの物となった。
そして、自分の戦いに合うと思ったビヨンドは、疾風の靴を扱うことになったのだ。
「……と、言うわけよ」
「へー。そんなことがあったのねー。しっかし、新米の頃にルーフに挑むなんて、あんた馬鹿ね」
「……仕方ないじゃない。私この国の出身じゃなくて知らなかったんだから」
席を立ち上がるビヨンド。
「これで話は終わり。じゃ、私は用事があるから」
ポケットに手を突っ込みながら歩き始め、ビヨンドは食堂を後にした。




