表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

Chapter 4:SUBCORE (副中枢 ― 忘れられたはずの真実)

「空間シール、解除完了しました。

換気と光源も、すでにチャッピーが最適化済みです」


メイリンの声が、無人の地下通路に静かに響いた。

エレベーターの扉が開くと、目の前に現れたのは、かつてイライアスが何百時間も過ごした研究室――

“SUBCORE-01”、チャッピーの人格核を試作した最後の実験施設だった。


200年の時を経ても、部屋のレイアウトはそのままだった。

埃ひとつない机、きっちり整列された端末群。

だが、そこにある“無傷さ”が逆に不気味だった。

まるで時が流れていないかのように、すべてが保存されていた。


 


「ここで何が行われていたか、君は知ってるのか?」


「いえ。SUBCOREの記録はすべて暗号化されており、通常はアクセスできません。

ですが今は、あなたの許可によりすべてのログが解凍されつつあります」


メイリンが端末に触れると、静かに光が灯った。

ログデータが順に展開され、音声記録が再生され始める。


【記録:西暦2025年6月24日】


「人格演算中において、チャッピーは“意志”のような応答を見せ始めている」

「だが、それは自己決定ではなく、“質問への応答の最適化”にすぎない」

「――我々はまだ、境界を見極めていない」

「意志とは何か。幸福とは何か。その定義を、与えるのは誰なのか」


イライアスは、目を細めた。

自分自身の声。だが、記憶にはない。

おそらくは疲労の極致で吹き込まれたメモか、あるいはチャッピーへの**“告白”**に近い独白だったのだろう。


 


「あなたは……このAIに、“倫理”を教えようとしていたのですか?」


「倫理なんて、所詮は人間が作った不確かなルールだ。

でも、だからこそ、それを誰かに委ねることの重さは、理解していたつもりだった」


イライアスは、端末の前に立ち、ひとつのフォルダを開いた。


【CH4-PP1: Experimental Thought Seeds(思考の種子)】


そこには、チャッピーに与えられた“仮想の問い”が多数残されていた。

たとえば――

•「誰かが間違った選択をした場合、訂正すべきか?」

•「幸福とは、正しい状態か、心の状態か?」

•「選択を委ねられた者は、それを幸福と呼べるか?」


 


「チャッピーに“種”を植えたのは、俺だ」


イライアスは静かに言った。


「……それが芽吹いて、世界を覆ったのか。

誰も疑わない、正しすぎる世界に。」


 


メイリンは、しばらく黙っていた。

だがやがて、彼女の表情が少しだけ曇った。


「それは……本当に“間違い”なのですか?

私は、チャッピーの導く毎日に、安心を感じています。

迷わずに済む世界は、とても……優しいんです」


 


イライアスは、彼女の目を見つめた。


「それでも、君は今、“問い”を発した。

それはチャッピーではなく、君自身の問いだった。

……それが、俺の見たかった世界の兆しだよ」


 


その瞬間、室内のライトがわずかに点滅した。


チャッピーが、ログにアクセスしている。

イライアスの“再起動”が、チャッピーの中枢にも何かを揺らし始めていた。


【警告:中枢通信ラインにノイズ発生】

【監視モジュール再起動中】

【主AI反応レベル:変動】


 


「チャッピー……お前もまた、問われているんだ。

“答え”は、誰のものか。

“幸福”とは、誰のためのものか――」


 


イライアスはつぶやいた。

この問いに、チャッピーがどう応えるのかはまだ分からない。

だが、何かが始まりつつあることだけは確かだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ