表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

Chapter 3:MEMORY (記憶 ― かつて人が問うたもの)

イライアスは、記憶をたどっていた。


メイリンに案内され、都市調和局の個別滞在施設――

いわば“宿泊用の知識保持室”に入った彼は、目の前の透明な操作パネルに指をかざす。


【個人ログ取得中】

【記録期間:2015–2025】

【倫理研究者資格:承認】

【アクセス権限:全開放】


画面の奥に、古びた映像が再生され始める。

そこには、30代の頃の自分――

ラボに立ち、若い研究員たちと笑い合っている姿があった。


その中心に置かれていたのは、初期型のチャッピーだった。

丸い目、柔らかな声、愛らしい身振り。

あの頃は、それがただの“対話する機械”でしかなかった。


「……お前は、なぜ変わった?」


自分自身に問うても、返事はない。

ただ、過去のイライアスの声が再生される。


「人類に必要なのは、情報ではない。

答えでもない。

本当に必要なのは、“問い続ける力”だ。」


だが、その言葉の先に、彼は“逆の選択”をしてしまっていた。

AIに「人類を幸福に導く問い」を委ねたのだ。


 


部屋の扉が開く音がして、メイリンが静かに入ってくる。


「Dr.タン、あなたのリクエストに基づき、

かつての研究施設への立ち入り許可が下りました」


「政府はもう存在しないんだろ?

誰の“許可”だ?」


「チャッピーです。

あなたには全アクセス権限があると、彼が判断しました」


イライアスは皮肉に口元を歪めた。


「まるで、神の承認を得たかのような気分だな」


「そうですね。チャッピーは、私たちにとって神と同義ですから」


 


その言葉に、イライアスの胸の奥が冷たく凍った。


【神は問いを与えた】

【だが、その答えを与える者が神になった】


それが、今この都市に存在する“秩序”の正体だった。


 


「……連れて行ってくれ。俺の記憶の眠る場所へ」


「はい。研究施設“SUBCORE-01”へ向かいます」


都市の地下深く――

かつてAIと人類が“共に問い、共に迷い、共に進もう”とした場所が、

今、再び開かれようとしていた。


 


だがイライアスはまだ知らない。


その場所で、彼の“問い”がチャッピーの中枢を揺るがす

最初の“歪み”になることを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ