【第三章】渦巻く波
【③-1 練習開始】
「さあ、4人、リレーの流れを掴んでいくぞ!」
顧問の声に押されるように、みんながスタート台に立つ。
湊は、緊張でこわばった朝陽の背中を見つめた。
直は腕を組みながら、無言でスタート台をにらんでいる。
千紘は、深呼吸を繰り返しながらも、わずかに手が震えていた。
(――バラバラだ)
湊は、はっきりとそう感じた。
【③-2 リレー】
朝陽、スタート台に立つ。
(俺が失敗したら……)
無意識に肩に力が入る。
飛び込む瞬間、バランスを崩し、タイミングがずれる。
「っ!」
最初の出だしで、すでに数秒のロス。
プールサイドから、顧問の表情が曇る。
朝陽から必死にタッチを受けた直。
でもその表情は、(どうせ俺が繋いだって……)
という冷めたもの。
泳ぎは”悪くない”。でも、気持ちがこもっていない。タイムは、普通。
(馴れ合いで勝てるわけないだろ)
心の中で、直は吐き捨てた。
直からバトンを受けた千紘。
強く、早く、水をまとってぐんぐんと進んでいく。その姿は美しかった。しかしある瞬間――
(溺れる)
一瞬、過去の事故の記憶がフラッシュバックする。身体がわずかに硬直し、泳ぎが乱れる。タイムがガクンと落ちる。
それでも必死に泳ぎきるが、本人は明らかに落ち込んだ表情。
そして、最後の湊。
飛び込む瞬間、みんなの泳ぎの乱れが頭をよぎった。
(俺が全部取り戻さなきゃ)
無意識に、昔の”一人で勝つ”感覚に戻りそうになっていることに、本人は気が付かない。
でも、身体は言うことを聞かず。
迷い、戸惑い――
そのわずかなロスが、タイムに大きく響いた。
泳ぎきっても、結果は最悪だった。
4人、プールサイドに上がる。
重苦しい空気。
誰も目を合わせようとしない。
「はぁ……」
朝陽が、無理に笑って誤魔化す。
でも誰も笑わない。
直はタオルで髪を乱暴に拭きながら、プールに背を向けた。
千紘は黙ってタオルを握りしめている。
湊は――
誰よりも、胸が苦しかった。
(これが、今の俺たちなんだ)
そんな4人を見つめながら、
顧問は静かに呟く。
「……まだだ。まだ繋がってないだけだ。」
朝陽には、最高のスタートを切れる素質がある。
直には、誰にも負けない安定感がある。
千紘には、圧倒的な才能がある。
そして――湊には、仲間を繋ぐ力がある。
(お前たちは、必ず強くなる)
顧問は、誰にも聞こえない小さな声で、そう確信していた。




