晴れ、時々 婚約破棄
「ペリドット、お前との婚約は破棄させてもらう」
玄関の扉を開くと訪ねてきた男が私の顔を見るなりそう言った。
年の頃は私と同じくらい、身なりはとても立派、イケメンだけど(たぶん)ナルシシスト。
「で、あんた誰?」
とりあえず質問しておく。普通婚約破棄を言い渡されたときの質問がそれなのか、と言いたいだろうが事実どこの誰だか、全く見知らぬ相手なのだから仕方がないでしょう。
だったら少しは慌てろって?
だって慣れっこなのよ。婚約破棄を言い渡されるのは。しかも揃いも揃って見知らぬ相手から。回数が2桁になって数えるのはやめてしまったわよ。そろそろ3桁になるんじゃないかしら?何故そうんなことになっているのかって?しらないわよ。こちらが聞きたいわ。なんで求婚されるというイベントは一度もないのに婚約破棄を言い渡されるイベントが次々発生するの!?
「おいおい、婚約者の顔を忘れたとか言うのか。お前は」
残念ながら私に婚約者はいない。
貧乏男爵の四女(母親は妾)外見は顔躰ともに中の下(鯖込み)趣味と特技は野良仕事(ただし家庭菜園レベル)なので日焼けのせいで化粧ののり悪し。
見た目的にも政略結婚的にも利用価値があると判断する人は居ないだろう。なので両親からも奥様(父親の正妻)からも結婚相手は自分でなんとか見つけれと幼少の頃から何度も言われている。もし婚約の申し入れでもあろうものなら大騒ぎになること間違いなしよ。
そのことを懇切丁寧に説明する。ちなみに家族も使用人も隠れている。慣れたもので面倒事は避けているのだ。お茶すら出てこない。
「だからといって自分の国の第二王子であるボクの顔も知らないのか、お前は」
やっぱりナルちゃんだ、面倒くせぇ。自分事は誰でも知っていた当たり前。そうでなければ気に食わない。そう思っているのよね。この手の輩は。
それにしても今回は大物が来たな。侯爵本人は来たことあるけれど公爵様を通り越して王子様ですか。
「先ほども説明した通り、私は貧乏男爵の四女。しかも母親は妾。貴族の中ではド底辺もいいところ。なので社交界に参加する機会なんて絶無なの。だから王族の顔なんて運が良くても遥か彼方からちらりと見えれば御の字なの」
自分の顔を誰もが知っていて当たり前と思っているナルちゃんは面倒だ。王族と知ってもタメ口以外の言葉づかいをする気力もない。
とにかくお互い結婚する気はなし。もともと婚約なんてなかったのだから手続きも必要ないし後腐れもない。そう説明してお引き取り願おう。
そう思った時、いきなりドアが開かれ見知らぬ男が叫んだ
「ペリドット、お前との婚約は破棄させてもらう!」
またですか。さすがに婚約破棄宣言の鉢合わせははじめてだ。本当に面倒くさい。もう顔も見ないしどこの誰かも確かめない。さすがに王子様より大物ということはないだろう
「あぁ、王子様。彼にも説明しておいて」
思い切り丸投げだ
王子様が厄介事になろうが修羅場に発展しようが、もう知らん
天気も良いことだし、畑でも耕そう。そろそろ大根の種まきにいい頃合いだ。
最後にやってきた男「俺は神様だ。人間と神様が結婚なんてやっぱり間違っている。したがって婚約は破棄だ!」