抗い続ける人の中で、誰かは撃たれる
人々を押し分けるが、思うように進めない。
マーティーと兵士が言い争っている。緊張が徐々に高まっていく。
複数の兵士の銃口が、彼へと向けられるのが見えた。
「通して! 通してください!」
ついに人の壁を越え、彼女の側へ出る。
今にも兵士の銃から弾が飛び出してくるのではないかと、ロキシーには思えた。
「マーティーさん!」
叫びながら彼の前に飛び出した。
名を呼ばれた彼が振り返る。声に反応して、ルーカスもこちらを見た。
銃声がしたのと、ルーカスが叫んだのが、どちらが先かは分からなかった。
ただこの人生においては経験したことがないほどの痛みが体に走り、そのまま濡れた地面に体が落ちた。
体から生温かい血が噴き出しているのを感じる。
ここで死ぬのが運命かしら――。
女王ロクサーナが処刑されたのも十七歳だった。
オリバーは、事故を防いでも病で死んだ。クリフも王位を去った。
ルーカスは弟だったが記憶を失い他人になり、フィンと同じく、人々のために戦っている。
いずれ女王も、その座を追われるのだろうか。
必死に動いたとしても、運命なんて、少しも変わりはしないのかもしれない。
ルーカスが体を支える。彼の両手が血で染まっていて、どうやら自分が撃たれたらしいことまでは分かった。
マーティーは無事なのか。彼もまた側にいて、何かをしきりに言っている。だが周囲の音は、遠かった。
ただ体の痛みと、顔に打ち付けられる大粒の雨、そして死の感覚だけが、まとわりついていた。
だから、目を閉じる刹那、見えたのは幻だったのかもしれない。
目前の光景が信じられないかのように、青ざめた顔をしたレットが、白い煙の昇る拳銃を構える姿は――。
◇◆◇
控えめに言って、最低の事態だった。
戦場さながらの銃声が、あちらこちらで響いていた。武器を隠し持っていた民衆と兵士との間で、交戦となったのだ。
ルーカスは撃たれたロキシーをその騒乱から遠ざけるため、路地裏へと体を抱える。
小さい頃、転んで歩けなくなり、彼女におぶわれたことがあった。
その時からすると考えられないほどに、彼女の体は軽い。
ロキシーはいつも強く、優しさに、何度も甘えてきた。それを今、ひどく恥じた。
(こんな華奢な女の子に、守られてきたなんて――)
戦地で何人もの怪我人が失血で死ぬのを見てきた。最優先事項は血を止めることだが、手が震えて、上手くできない。
「ロキシー、大丈夫だ。助かるから!」
彼女の顔からは血の気が引いている。
だが息はある。引き止め続けなくては。
傷口付近を縛り上げていると、突然体を押しのけられた。
「どいて! そんなに震える手元だと、助かるものも助からないわ!」
鋭い女の声だ。ルーカスはその人物を見て、動けなくなった。
「シャノン……?」
そこにいたのはかつての婚約者、シャノン・ウィルソンだったのだ。
結婚式以来会っていない。とうに地方へ越したものと思っていた。よもやこの中にいたとは知らなかった。
彼女は険しい表情のままルーカスに叫ぶ。
「弾は!?」
「は?」
「体内にあるの!?」
「か、貫通したのが見えた」
シャノンは頷くと、ロキシーに語り掛ける。
「大丈夫よロクサーナさん! ここに優秀な看護師がいるんだから、死なせたりしないわ!」
処置を続けながら、シャノンは言う。
「胸に近い肩を撃たれてるわ。ショックで失神してるのね。内臓の損傷があるかは、医者にみせないとわからない。血が足りなくなれば、輸血をしなくてはいけないかもしれないわ」
「輸血だって?」
聞いたことはある。
だが血が合わないのか、拒絶反応を起こし死ぬことも多いと聞く。
「いざとなったらよ。大丈夫、その前に、何とかしてみせるから」
力強い言葉に、図らずも冷静な頭が戻って来た。
こんなことを、彼女に言うのはおかしなことだ。
それでもシャノンに言った。
「君が、ここにいてくれて、よかった。ありがとう」
「そのセリフは、ロクサーナさんが助かってから言うことね」
シャノンが再び鋭い声を発し、それから二人の間にはロキシーへの呼びかけの他に、会話はなかった。
この時代の輸血は方法としてはありますが、血液型が発見されておらず、また清潔な環境もあまりなく、成功率は低いという設定です。




