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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第五章 夢見る少女は夢から醒める

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大雨に濡れ、彼は一歩も下がらない

 傘もささずにマーティーを探し回る。 


 人々の抗議の行進はすぐに見つけることができた。だがいくつかの場所に分かれて列をなしているようで、目的の彼の姿は容易に見つけられない。


 ロキシーの胸に嫌なざわつきがあった。

 いつもとは違う、張り詰めた空気が街に満ちていた。


 兵士の数が、明らかに多い。


 人々の抗議活動は重ねて行われてきた。いざこざがあることもあったが、大抵は平和的に終わっている。


 ――違うことがあるとするなら、集まる人々の数が今までとは比べ物にならないということだ。


 それだけフィンに共感する人が増えているということでもあるし、王に不満を持つ人がいるということだ。


「あの! マーティーさんがどこにいるかご存じでしょうか!?」


 列の中の人々に声をかける。数人目で答えがあった。


「最前列で参加していると聞いたよ。手配がかかってるのに、勇気のあることだ」


「馬鹿!」


 思わず叫ぶと、答えた男は目を丸くしていた。


 何が勇気だ。だから兵士が、彼を見つけて撃ったに違いない。それが人々をより強固にし、この国を血で染め上げるのに。無謀でしかないことは、勇気とは違うはずだ。


 その時、列の前方で、激しく怒鳴りあう声が聞こえてきた。

 兵士と民衆が叫びあっている。


 刹那、空気を震わせるような激しい音がした。

 聞き覚えがある。

 銃声だ。


(間に合わなかった……!)


 列に人々が悲鳴を上げ、後方へと逃げていく。

 反してロキシーは、音のした方へと走った。

 

 列の先頭に、見覚えのある男がいた。以前よりも顔に険しさが増しているが、紛れもなくフィンだ。

  

「人は撃たれちゃいない! 威嚇射撃だ!」


 雨に濡れた彼の髪が顔に張り付いていた。

 気にならないかのように、兵士に向けて叫ぶ。


「武装もしない一般市民に銃を向けるとは!」


 だが兵士たちは銃口をこちらへと向けたまま、じりじりと列に迫る。


「くそ!」

 

 彼は毒づき、大勢の人と同様に道を戻り始めた。


「フィン!」


 ようやく近づくことのできたロキシーは、久方ぶりのフィン・オースティンに向けて呼び掛けた。

 驚いた顔で彼は目を向ける。


「ロキシー!? 君もいたのか?」


 再会を喜ぶ時間も惜しい。間髪入れずにロキシーは言った。


「マーティーさんはどこに!? 彼が撃たれるわ!」


「……なんだって?」 


 フィンは眉を顰めつつ、答えた。


「彼はルーカスと一緒に、左方の大通りにいる」


「ル、ルーカスですって!? あの子もあなたの運動にいるの!?」


 動転が隠せないが、気を持ち直す。


「とにかく、彼が撃たれるのを止めないと、前の世界と同じことの繰り返しだわ!」


「どういう意味だ!? おい、ロキシー!」


 不審がる彼の声を背中に受けながら、ロキシーは左方の通りへと細い路地を駆け抜ける。


 そしてついに、彼の姿を見つけた。


 人々の前に立ち、いつか見た瞳と同じく強い眼差しで、銃を向ける兵士の前に立ちはだかっていた。

 近くに、ルーカスの姿もある。彼も同じく、兵への怒りをその目に帯びていた。


 雨がにわかに強くなる。


「僕は引きはしない。撃つなら、撃てばいい。だが撃てば、衝突は免れない」


 静かに言うマーティーに、ロキシーはようやく気がついた。

 勇気でも、無謀でもないのだ。


 虐げられ、ただ一方的に使われて、消耗品のように捨てられていく。

 生まれて、生きて、死ぬ。その一生の間に、どれだけの自由もない人々の、解放に向けた命懸けの戦いだ。


 マーティーが撃たれるのを止めるべく、数時間走り回っていた。だが今、動くことができなかった。


(あの人たちの、燃えるような瞳を、命を懸けた闘争を、わたしのわがままでどうして止められるっていうの?)


 モニカが女王になったこの世界でも、反乱は収まらなかった。


(――わたしだから、首を切られたわけじゃない)


 女王ロクサーナの統治が、革命の波を速めたことは確かだろう。だが、王が誰でも、いずれゆがみは収まらなくなる。

 注ぎ過ぎた水がカップのふちからこぼれるように、虐げられてきた人々の怨念は噴出する。

 ロクサーナだから憎かったわけではない。

 彼らが戦っているのは、この時代そのものだ。弾圧と、不自由と、無力が憎い。

 

(……だけどわたしだって、戦ってきたわ)


 どうにもならない胸の内の悲しみが、あまりにも何もできない自分自身が、いつだって憎くて憎くて嫌いだった。

 だけど自分はどこまで行っても自分で、他の誰にもなれない。望むものはいつだって、身近な人々が、幸せであることだ。


 彼らと自分に違いはない。

 譲れない思いがあって、だから前へと突き動かされるのだ。


 ロキシーは一歩、路地から大通りへと踏み出した。


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