祝いの品に囲まれて、女王は従者を蹴り飛ばす
激化する反乱の動きなんてモニカにとっては想定の範囲内で、それを上回る力で押さえつければいいだけだった。
フィン・オースティンが王都にいるのは承知の上だ。モニカが女王となったこの世界でも、彼は王政に疑問を持ち、反乱を率いるのは同じらしい。ロキシーが女王の世界では、反乱は見事革命となる。
部屋で酒を飲みながら、モニカは笑う。
「どうするのかしら、革命の獅子、フィン・オースティンは」
憎たらしいフィン。
「――わたくしは、ロキシーより手ごわいわよ?」
雑草は踏みつぶせ、さざ波など、さらに大きな渦で飲み込んでしまえばいい。
どうせ、死んだら別の世界が始まるだけだ。ならモニカをこけにしたこの世界なんて、滅び去ってしまえばいい。
――だが、まだ足りない。
反乱軍をもっと、突き動かさなければ。争いの火種をまき散らし、地獄の業火でこの世界を包み込むのだ。既に準備は整った。後は火をつければいいだけだから簡単だ。
今は誰も、モニカに歯向かわない。文句を言う人間は、皆解雇したからだ。
あれこれうるさい元老院も静かだ。彼らの戦争続けるべしという意向と、モニカの国よ滅べという復讐心はがっちりと一致していた。
それにもう、クリフもいない。
兵を強制的に集めるのにも、彼は反対の立場を取っていた。あまつさえ、戦争をもやめさせようとしていた。
(愚か者だわ。だから病になったのよ)
モニカがクリフにヒ素を盛るように命じたことに、きっと彼は気がついていた。それだけではない。モニカが実の妹ではないことに、感づいているようなそぶりさえ見せていた。
目障りだった。果てしなく。
だから彼が去ったのは嬉しい。視界に障害物がない景色は、どこまでも自由だった。
モニカの戴冠式は、類を見ないほど豪勢なものだった。金をふんだんに使い、食べきれないほどの料理を来賓に振舞った。
「気分がいいわ」
城の中で、届いた祝いの品を見つめながらモニカは愉悦に浸る。
近しい者は見えすいたおべっかを使い、貧しい者は羨望や恨みがましい目を向ける。
自分に向けられる全ての感情が、心地よかった。
今なら、かつて女王となっていたロキシーの気持ちが分かる。人の上に君臨するというものは、これほどまでに快感であったのか。
笑いがこみあげてくる。
「そろそろ、使者のご対応を」
一人笑っているモニカに、冷静に声をかける者がいた。
「ロイ、分かってるわよ」
ロイ・スタンリーはただ佇んで、にこりともせずにモニカを見る。
角砂糖が乗ったスプーンにアブサンを注ぐ。が、すでに空だ。
「消沈されるお気持ちは分りますが、その酒はあまりよくはない」
「消沈ですって!?」
持っていた瓶を思わずロイめがけて投げた。彼が避けたため、後方の壁に当たって砕け散る。側に控えていたメイドが、慌てて破片を片付け始める。
「誰に向かって口をきいているのよ! 冗談でしょう!? 消沈ですって? どう見たって逆じゃないの! お父様の死に、わたくしが傷ついているとでも言いたいわけ!?」
叱りつけるとロイは頭を深く下げた。
「申し訳ございません」
軽々しく謝る、つくづくつまらない男だ。モニカは彼のつむじを睨みつけた。
「傷ついてないわ、少しも。……わたくしが、あんな男一人死んだくらいで、傷つくはずないじゃないの」
ロイはまだ頭を下げている。
乱れた髪を手櫛で治しながらモニカは笑いかけた。
「ロイ、あなただって、わたくしに冷たい態度を取ると、どうなるかくらい分かっているでしょう? わたくし、レイチェルととても仲良しなのよ? 今度の休日も、一緒にお茶を飲むんだもの」
まだ頭を上げない彼が、どんな表情を浮かべているのかは分からない。ただ体の両脇に添えられた拳が、固く握りしめられるのが見えた。
思わず鼻で笑う。
力が無い者は、そうやってじっと小さく耐えればいい。
力を持つ者は、それを蹴飛ばして歩くから――。
「傍で、その目によく焼き付けておきなさい。奪い尽くすわ、この国を。跡形も残らず搾り取ってやる。
そして皆、最後にはわたくしにひれ伏し許しを請うのよ。どうかお慈悲を女王陛下。わたくしはその首を順番に刈り取ってあげるの」
ケラケラと笑うモニカを、ロイはただ、見つめていた。




