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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第五章 夢見る少女は夢から醒める
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信念を持って、反乱の徒たちは酒場に集う

 ルーカスがフィンと再会したのは、王都の中心地でのことだった。


「ルーカスか!」


 帽子を目深に被っており、記憶の中よりもずっと大人びてはいたものの、確かにそれは、フィン・オースティンだった。


 最後に会ったのは、まだ記憶を取り戻す前で、反乱軍と兵士の戦闘を止めに行ったときだ。


 不思議と彼とは気が合った。

 思いがけない再会だ。あの頃の思い出が次々に蘇り、たまらず笑顔になる。


 朗らかさも、人を惹きつける熱い瞳も健在だ。


「フィン……! 懐かしいな! あの夜以来だ」


 答えると、フィンはやや驚いたような顔をした。


「記憶を失ったと聞いたが、存外元気そうだ」


「ああ」相槌を打つ。「戻ったんだ、しかも結婚式会場で。結婚はできないって言ったら、袋叩きに会ったよ」


「最高だな」


 心底おかしそうにフィンが笑ったので、ルーカスもつられて笑う。

 ひどい騒ぎであったあの結婚式すら、もう懐かしく思えた。

 

「だけどフィン。君の方だっていいのか? 警邏に見つかるぞ」


 今や彼は一級の手配者だ。

 問われている罪のいくつを実際彼が犯しているのか知らないが、死罪は免れないのではないかとの噂があった。若き活動家として民衆からの支持は厚く、王家からの憎しみは強い。


「あまりよくはないが、俺がここにいるなんて誰も思ってもないらしい。せっかくだ、少し話そう」


 返事を待たずに彼が歩き出したので、慌ててそれに続いた。





 連れられた先は、とある酒場だった。昼間から盛況している。皆熱心に語り合っていた。

 驚いたことに、身なりのよさそうな貴族風の人間もちらほらとまじっている。


「皆、若いな」


 集まっている顔ぶれを見て呟いた。

 以前双子を誘拐した連中は、もっと年が行っていたように思える。


「老人に救える国はない。未来にいるのは、俺たちなんだから」


 奥の机に付くなり問われる。


「ロキシーは元気か?」


「ああ、多分、そうなんじゃないのか」


 曖昧な返答を奇妙に思ったのかフィンは眉を顰める。


「会っていないのか」


 思わず、自嘲が漏れた。


「今更どの面下げて。無理だよ」


「会えばいいじゃないか。彼女なら、きっと喜ぶ」


 なおも首を振る。


「第一、レット・フォードと暮らしてるんだから」


 フィンは複雑そうな表情をする。


「皆変わっちまうんだな。ロキシーがあの人と一緒にいるなんて、あの頃は思いもしなかった。……俺にしたって、自分が反乱軍の指揮を執るなんて考えもしなかった。それに――」


 どこか寂しそうだ。


「モニカが王女か。その風格だけはあったが、まだ信じられん」


 フィンとモニカの間に、かつて幼い恋心や友情があったことはルーカスも感じてはいた。だが戦場に行っている間に、また時が流れ、その間柄も変わってしまったようだ。

 今や敵対していると言っても過言ではない二人の立場に、どのような言葉をかけていいのか分からない。


「どうしてフィンは、反乱軍なんてやってるんだ?」


「直球だな」フィンは苦笑する。


「誰も止められないならば、せめて誰かが統率を取らなきゃならない。ただ暴れまわる烏合の衆では、いくら正しいことを言っても聞き届けてはもらえない」


「この先、どうする気なんだ?」


「弱い者は徒党を組むしかない」


 その言葉に不穏を覚える。

 

「武力行使するのか」


「やむを得ない時もある」フィンは言い切る。「ほら、あそこの彼なんて筆頭だ」


 そう言って向けた視線の先に、背の高い男が見えた。服を着崩し、一見だらしが無さそうだが、鋭すぎる眼光は、野生の豹を思わせた。


「マーティー! 来いよ」


 フィンがその背に声をかける。彼は振り返り、フィンを見ると笑った。

 ルーカスは、その男の姿に驚愕した。突如、悲鳴、怒号、炎、銃声が蘇る。襲われた故郷、初めて、人を殺した時のこと。

 その時、そばにいたのは、他ならぬこの……


「前に話してだろう、彼がルーカス・ブラットレイだ」

 

 そんなルーカスの思いなど微塵も知らないフィンは、その男を紹介する。マーティーは口をあんぐりと開けて、ルーカスを見つめている。


「あいつはマーティー・マーチン。脱獄囚の過激派で最低の男だ」


 フィンがそう言った瞬間、マーティーは立ち上がった。


「マーティー・マーチン!? 本当に君か。うわっ……!」


 距離感がおかしいと、文句を言う間もなくルーカスはマーティーに抱きしめられた。

 この、破天荒な感じ、間違いない。


「ルーカス・ブラットレイ! やっぱり君は、あのチビだったんだ! 背が伸びたな、ははは、僕とそう変わらないじゃないか!」


 ルーカスの困惑に反して、マーティーは嬉しそうに何度も背を叩いてくる。その勢いに、ルーカスは思わず笑った。

 暗く塗り替えられそうなりかけた故郷の思い出が、それでも懐かしく輝いているのは、マーティーという底抜けに明るい男と出会ったせいでもあったから、この再会は、ルーカスにとっても嬉しいものだった。


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