瓦礫の中で、わたしたちは夫婦のふりをする
列車の中で一晩過ごし、朝になり、馬車を拾った。――まさに地獄が通りすぎた後のようだった。
待ち望んだ故郷に着いたロキシーは、そこが本当にあの場所なのか、即座に言い切る自信がなかった。
あの頃風景を埋め尽くしていた小麦の穂も、活気に満ちた農夫たちの姿も、親しい人の家々も跡形もなく、ただ瓦礫の山が灰色の空の下に積まれているだけだ。
ルーカスは故郷が戦地になったと言っただけで、その詳細はついに語らなかった。変わり果てた故郷の姿を思い出したくなかったのかもしれない。
「攻撃されたのは四年以上も前ですが、町を建て直すだけの金が我が国には無いんでしょう」
レットの声が聞こえる。
兵隊は馬鹿だ。どちらの国がやったかは知らないが、ここまでする意味があったのだろうか。残ったのは廃墟だ。希望も欲も根こそぎ奪われた、虚しい世界だった。
だが、驚いたことに、人はいた。
適当に拾った木材で急ごしらえで建てたかのような小さなぼろい家がいくつも建っていた。
こんなところにも、人は暮らしていたのだ。どこか嬉しく、どこか悲しい。
幼い子供が遊ぶ姿も見える。当時はそれなりに裕福な子供たちがいたはずだ。ロキシーとルーカスもそのうちの一人だった。
だが今はボロの服を着た子が目立ち、お世辞にも金がありそうには見えなかった。にもかかわらず、子供たちの笑顔は明るい。
庭先で子供たちを見ていた老女が、ふいに近づいて来た。
「ブラットレイのお嬢さんじゃないかい」
驚きつつもロキシーは頷く。老女は懐かしそうに笑った。
「やっぱりそうか。面影があったんだよ」
かつて卸業者をしていたという彼女は、両親と面識があったらしい。言われてみれば、かすかに覚えがあった。
「懐かしいねえ」と彼女は言う。「ブラットレイの農地があった頃が、この土地が一番良かったときだ。お嬢さんがいなくなった後、ひどい不幸が通りすぎていったよ」
「もう、不幸は去ったって言うの?」
「見ての通りだね」
と老女は周囲を見渡した。
それがどちらの意味なのか、判断がつかない。
「戦争が終わるって、もっぱらの噂だよ。そっちは軍人さんか? 目つきで分かるよ」
「友じ――」
「夫です。先日式を。妻の故郷が見たいと思いましてね」
隣にいたレットが、ロキシーの言葉を遮るように言う。
「そりゃおめでとう。軍人さんには悪いが、我が国は負けるんだろう? 皆言ってるよ。兵隊たちが負けて逃げてるって」
兵士がいることは珍しいのだろう。好奇心を隠そうともしない。
「さあ、私のような端くれにはよく分かりません」
レットははぐらかした。
「あんた、あれに似てるよ。死んだ英雄の……なんてったっけな。一時期新聞によく出てた――」
「レット・フォードでしょう? よく言われます」
「ああ、そうだ。だけどそいつよりあんた、いい男だよ」
「それもよく言われます」
どういう顔でこんなことを言っているんだろうと彼を見上げるが、ごくごく普通の顔をしていた。
「夫なんて、嘘だわ」
老女と別れた後で、ロキシーは言った。
「未婚の女性が男と一緒にいるなんて外聞が悪いでしょう? 神様も許してくれますよ」
瓦礫の側でレットは言った。それから、独り言のように呟く。
「ここにも撃ち込まれていますね。こうも爪痕が残っていたら、負けると思うのも仕方がないかもしれません」
地方では王都よりも封建制に対する信仰が残っていると思っていたが、先ほどの老女の態度は違うようだ。戦争が残した瓦礫の山が人々を改宗させたのかもしれない。
砲弾が撃ち込まれた跡を興味深く見ていた彼は顔を上げる。
「雨が降りそうだ。その前に、お屋敷に行ってみますか」
目の前に、手が差し出される。それを取ることに、迷いはなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
以前投稿した時に保存したと思っていたデータがなかったので、数話書き直します。少しお時間いただきます。




