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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第三章 蝙蝠は誰も愛さない

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混乱の中で、亡霊は蘇る

 階段の上から、鋭い音が聞こえる。

 下の部屋で待っていたロキシーは、驚いて出て行く。

 モニカが降りてくるのが見える。手には拳銃を持っていた。

 ロキシーは彼女の表情に、違和感を覚える。


 幼い頃、頻繁に見せていた冷酷な表情だ。


「お父様は死んだわ。この拳銃で、ご自分で頭を撃ち抜いて」


「なんだと!?」


 叫んだのは見張りの兵士だ。


「だから兵隊さん、見張りはもう不要よ」


 だが兵士はモニカの脇を抜けるように階段を登っていく。


「死んだって、言ったのに」


 隣に兵士が来たその瞬間、モニカは兵士に拳銃を向け引き抜いた。

 腹に当たる。兵士は倒れる。そのまま何度も撃ち込んでいく。


 あっけにとられたロキシーは、身動きが取れない。


 兵士が死んだのを確認したモニカは、ロキシーに向き直ると言った。


「この世界は、腐った童話だったみたい」


「ど、どういう意味?」


「カボチャの馬車には別の女が乗っていて、シンデレラがやっと歩いてお城に着いたとき、王子様は別の女を部屋に連れ込んでいたのよ。絶望したシンデレラは、オオカミに食われて泡となって消えるの」


「なんの話よ――」


 ゆっくりとモニカは階段を降りてくる。兵士から流れた血が、絨毯を染め上げる。


「この世界は祝福だとあなたは言ったけど、誰にとっての祝福かはあの時、考えなかった。初めから、必要なかったのは誰かってことよ」


 モニカの態度に気圧されて、ロキシーはやはり何も言えない。


 空気を一変させたのは、唐突に開かれた玄関の扉だった。

 来客の予定などない。

 そもそも、この屋敷に尋ねてくる人などいないのだ。見張りの兵士以外には。

 その兵士は、たった今、モニカが殺した。だから、人が入ってくるわけがない。


 にも関わらず、彼は現れた。


 よりにもよって、この場に居るはずのない人物の筆頭が、そこに立っていたのだ。


「一体、何が! 銃声がしました、ご無事ですか!?」


 四年前、戦地へと旅立ち、戦争の英雄となり、勇敢に死んだ人。誰もがその死を悼んでいた。


 だが。

 レット・フォードはそこに立っていて、額に汗を滲ませている。記憶と寸分違わず、相変わらず美しい男だ。


「レット……?」


 信じられず、その名を呼んだ。


 そのまま彼は、一歩屋敷に踏み入れる。倒れる兵士と銃を握るモニカに気が付いたようだ。


「モニカ様、あなたが彼を? 他に兵士は?」


 なぜ彼がここにいるのか分からないがなら、ロキシーは首を横に振る。


「い、いないわ……」 


「なんで、生きているのよ!」


 モニカが顔面蒼白のまま叫ぶ。反してレットは冷静だった。


「生きていてはいけないような口ぶりでは、流石の私も少しは傷つきます。

 後で説明しますよ。今はあまり時間がない。反乱軍に乗じた奴等が、町中で暴れ回っています。ここも危ない。大きな屋敷から襲われているようです」

 

 それから、辺りを見渡した。


「ファフニール中将はどこに?」


「に、二階よ!」


 ロキシーが答えると、レットは階段を駆け上がり、ほどなくしてオリバーを背負い現れる。

 父は生きていた。

 

「……死んだって言ったら、兵士が引き下がるかなって思ったのよ。それに、本当にお父様を置いて逃げるつもりだったわ。そしたら死ぬことになるでしょう?」


 モニカがレットとオリバーを見つめながらそう言った。


「逃げましょう、私が来たからには安全です。なにせ戦争の英雄ですから」


「……本当に、レットなの? 死んだって、新聞を見たわ」


 ロキシーはまだ混乱しつつ、尋ねる。


「亡霊に見えますか? 案外そうかもしれないですよ。『壮烈なる戦死』をしましたが、この世に未練がありすぎて、土の下から這い出てきました」


「つまらないわ」


 モニカは彼を睨み付ける。レットは苦笑した。


「相変わらず手厳しい。……あれは誤報ですよ、私の上着をかけた人間が、私だと誤解されました。

 訂正記事を出させましたが、ああいうのは小さく載るもので。未だ会う人間皆に、驚かれます」

 

 と、肩をすくめてみせた。

 二人と居ない飄々とした態度に、どうやら本当にレット・フォードが生きていたらしいと確信をする。

 こんな時ではあるが、胸にじわりと喜びがにじんだ。


 話したいことは山ほどあったが、レットは言う。


「元々私に帰還命令が出ていましてね、無視していましたが、ファフニール中将排斥のことを聞きつけ、きな臭い話を知り、戻りました。あなた方が心配だったので」


 それから、ロキシーに手を差しだした。懐かしい笑顔で、懐かしい声をかけられる。


「王都の外に出ましょう。街は大混乱だ。私から決して離れないでください」


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