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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第三章 蝙蝠は誰も愛さない

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写真を届けに、弟は帰還する

 議場が襲われるのを、フィンは知っていたのだろう。だからあんな問いかけをしたのだ。

 数人死傷し、逮捕者も出た。襲撃した者たちの大半は牢に入れられている。首謀者は知った名だった。


 マーティー・マーチン。

 彼も、逮捕されたらしい。


 フィンの今の家を聞いておけばよかった。何が起こっているのか知りたかった。


 モニカも、この事件に驚いていた。議場が襲われる世界は初めてらしい。珍しく真面目な顔で、こう言った。


「小さな蝶の羽ばたきが、遠い国で嵐を巻き起こすことだってあるのよ」


 運命は変わり続けているのだ。

 



 突然屋敷を訪ねて来たのはリーチェ・オースティンだった。


 使用人が扉を開けるなり、リーチェは血相を変え、混乱した様子でロキシーの名を呼んだ。


「ロクサーナ様!」


「リーチェ、来てくれて良かった。会いたかったのよ。何が起きてるの?」


「あたしも、よく分からないの。だけど聞いてください!」


 すがりつくようにロキシーの両腕を掴んで、リーチェは今にも泣きそうな顔をした。


 客間で三人は向き合う。


 ロキシーは本当に泣き出してしまったリーチェの隣に座り、モニカがその向かいに座った。

 リーチェが話す前に、モニカが尋ねる。

 

「議場の騒ぎはなんだったの?」


「きっかけは、マーティーさんの、お姉さんです」


「お、お姉さん?」


 予想外の人物で、思わずロキシーは聞き返した。リーチェの大きな瞳がロキシーを見つめる。


「はい。写真が届けられたんです。お姉さんの亡くなったご主人から」


 モニカが眉を顰める。


「死んだ人がどうやって写真を届けるのよ?」


「だから、人づてに……」


「要領を得ないわね。それが何だって言うのよ」


「やめなさいよ」


 いらついたモニカを制す。続きを促すと、リーチェは語った。


「写真を見て、お姉さんは泣き崩れてしまって、だってご主人は強制徴兵で、自分の意志とは関係なく戦争へ行って死んでしまったから。

 それでマーティーさんが全部戦争を続けている王様のせいだって、怒って。だから、強制徴兵を決めた議員たちを見せしめに――」


「それで、議場を襲う計画が立てられたのね?」


 はい、とリーチェは答える。


「論理が飛躍しているわ。国を恨んでいる人は、何だって国のせいにするんだから! きっと雨が降るのも国のせい、鳥のフンが肩に落ちたのも国のせい、この世で起こる全ての不幸は国のせいなんだわ!」


 モニカが怒りながらそう言った。


「わたしたちがフィンに会った日にはもう、計画は始まっていたってこと?」


 はい、とまたリーチェは頷く。モニカがつまらなそうに言う。


「フィンは知っていたのに、あの男を止めなかったのね」


「お兄様も、悩んでいるんだと思います。この国の兵士たちの、大敗走が起きているって噂があるでしょう? 国が負けるからって、脱走兵になって農村で悪さしてるって人もいるみたいだし。国を憂いているマーティーさんの気持ちも、分かるから」


 沈黙が流れた。

 マーティーが、国を憎む気持ちも分かる。弱い者は奪われ続けていくのだ。


 だが自分が傷ついたらといって、誰かを傷つけては、いずれ自分にしっぺ返しが返ってくるだけだと、痛いほど知っている。なにせそれで一度死んでいるんだから。


「それで、写真をお姉さんに届けた人の話、なんですけど」


 静寂を破ったのはリーチェだった。

 はっきりとした口調に、もしかすると初めからそれを告げるためにこの屋敷を訪れたのではないかと思った。


「特徴が、ルーカスさんに似ているんです」


「ルーカスに!?」


 ロキシーの心臓は跳ねる。

 ルーカスが、帰って来た?


「赤毛で、若い男の人だって」


「赤毛で若い男なんて、腐るほどいるわ」


 モニカが鼻で笑う。

 だがリーチェには確信があるようだった。


「……実はあたしも見かけたんです、少し前、ルーカスさん、みたいな人を」


「ほ、本当なの?」


 驚く。少し前に帰ったということだろうか。なら、どうしてロキシーに会いに来ないんだろう。


「本当にルーカスだったの? だって、ここに帰ってこないわ」


 ルーカスの帰る場所は、この家以外にないというのに。


「……様子が、変だったんです。ちょうど、大通りを挟んで向こう側にいて、ルーカスさんだと思ったんです。偶然、あたしの方を振り返って、確かに、目が合ったんです。呼びかけようとしたんですけど、すぐに目を逸らされてしまって。一緒にいた女の人と、足早に去って行ってしまったんです」


 腑に落ちない表情で、リーチェは語る。


「その時は、見間違いかなと思ったんですけど、後でやっぱり、ルーカスさんだったんじゃないかって、思って……」


「気のせいじゃないの?」


 と、モニカが言う。


「だって、戦争が終わってないのよ? 兵士が帰ってくるわけないじゃない」


 普通に考えればそうだ。だがロキシーの心は励まされていた。

 ルーカスが帰ってきているのかもしれない。なら、やっぱり会いたい。



 ◇◆◇



 リーチェがルーカスを見かけたという場所に行ってみることにした。

 例によってモニカがまどろんでいる隙をついて、そっと外に出た。今日は声もかけない。後で不機嫌になるかもしれないが、先に言えば止められると思ったからだ。


 もしリーチェが見かけた人物、そして写真を届けた人物が本当にルーカスだったとしたら、どうして会いに来ないんだろうか。

 一緒にいた女性というのも気になる。どこの誰といるんだろう。


 仕方がない。

 会いに来ないなら、会いに行くまでだ。


 大通りに出ると、あることに気が付いた。


(シャノンのパン屋の近くだわ)


 瞬間、予感がした。

 ルーカスが一緒にいた人物というのは、あの、彼女ではないのか。


 確かめるように、店の近くに歩いて行く。


 と、唐突に店の扉が開けられた。

 出てきたのは、やはりというべきか。予想通りの人物たちだった。


 シャノンと、そして――。


「ルーカス……」


 また背が伸びたように思える血の繋がらない弟は、呼びかけに気が付き、無表情でロキシーを見た。


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