交戦のさなか、わたしたちは手を握る
モニカは泣いて泣いて泣いていた。ロキシーの服が彼女の涙で濡れる。
ロキシーはこの妹の悲しみの理由を正確に掴めなかったが、それでも頭を撫でて、背中を撫でた。
あの冷酷な拒絶は、苦しみの裏返しだったのだろうか。強さが崩れた彼女は、あまりにも脆い。
ロキシーは王都に来てから孤独を感じていた。
だが、その数倍モニカは孤独であったのかもしれない。何も語らない分、一人で抱え込んで――。
すすり泣く彼女の華奢な体は熱いほどで、すがるようにロキシーにしがみつく。
だがそれも長くは続かなかった。
扉の外から数人の足音が聞こえたからだ。ロキシーは即座にモニカを背中に隠すと、床に転がる銃を手に取った。
――来るなら来い。
扉が外側からゆっくりと開かれる。ロキシーは銃を向ける。背中のモニカが息をのむ音が聞こえた。
だが、現れた人物に銃口を下げる。
「レット……」
どうして彼が。
混乱はしたが、一方で安心をした。
無事だったか。
傷に目を向けるが、服の上からでは分からない。
レットの瞳がロキシーとモニカを捉え、二人の手足がきちんと体についており、指が十本そろっており、ピンク色の爪が規則正しく残っていて、瞳にも暗さがないということを確かめた後で、ようやく安堵したようにこう言った。
「ご無事でしたか……」
しかし彼は足を一歩踏み入れたところでぎょっと横たわる死体を見た。モニカが撃った男だ。
「この男を殺したのですか? ……あなた方が?」
困惑気味のレットに、ロキシーもモニカも答えない。これ以上の問いは無駄だと判断したのか、彼は別のことを言う。
「ずっと探していました。偶然この倉庫の外で銃声が聞こえましてね、さあ、帰りましょう」
先ほどモニカが男を撃った音だろう。彼女のおかげで助かったのだ。
モニカがレットに尋ねる。
「ここはどこなの?」
「古いワイン倉ですよ」
ロキシーも改めて周囲を見渡す。
ドアの隙間からは、ここが建物の中にある一室であろうと言うことが窺えた。建物の窓から入ってきた西日が、ここまで届いていた。
「反乱軍が時たま集会に使っている場所です。さあ早く出ましょう。彼らが戻ってくる前に」
レットがそう言った時だった。数名の男の声がした。ロキシーとモニカは恐怖し、思わず手を握り合った。
「くそ」とレットが口の中で呟く声が聞こえ、即座に彼は拳銃を構える。
「二人とも、伏せろ!」
レットはドアの隙間から、声のした方に銃口を向け、引き金を引くため指を動かした。
断続的な銃声が聞こえる。
銃声の先でうめき声がする。
それでも全員は殺せなかったのか、反撃として数発扉に当たる。木製の扉は容易く貫通を許し、空洞を複数作った。
弾を装填し直し、レットは再び銃を構え、転がる死体を掴むと盾代わりに体を隠し、陰から発砲した。
やがて撃ち返される弾が無くなり静寂が訪れる。
敵は全て殺したらしい。レットはそれを確認した後で、振り返る。固く手を握り合うロキシーとモニカを交互に見つめ、意外そうな表情になったものの、それを口に出すことはなく、微笑みと共に言った。
「さあ、家に帰りましょうか。お父様が心配で死んでしまう前に」