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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第一章 首を切られてわたしは死んだ
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狂った運命の中で、彼女は孤立していく



 モニカは、ドアの隙間から、こっそり部屋の中の様子を伺った。


 レットを見守りながらロキシーも寝入ってしまったらしい。椅子に腰掛けながら半身をベッドに伏せている。レットも寝息を立てていた。窓から差す柔らかな日差しが二人を包む。

 あまりにも完成された完璧な空間に、看病をするはずの使用人すら入るのを躊躇している。


 昨晩二人の間に何があったのか知らないが、流れる空気が以前とは変化していた。モニカにとって歓迎すべき事ではない。


 焦っていた。


 ロキシーとレット。

 二人は、()()()()()()()()。ロキシーはレットに恋をする。この狂った世界では必ずそうなるのだ。


 それに、レットの方も絆されつつあるようだ。今まで無かった傾向だ。このままだとまずい。

 ロクサーナを世界を破滅へと導く偽物の女王に、させるわけにはいかない。


 ロキシーがレットに固執する前に、彼を奪ってしまおうか。だが、彼に近づき過ぎるのは危険だ。他の手があるのならそちらを優先するべきだ。


 今は、フィンとリーチェの兄妹を駒として持っておくのが精一杯か。それと――。


(もう一人、いるわ)


 ルーカス・ブラットレイ。


 やがて赤毛の騎士との異名を持つ彼に早いところ近づいておこう。彼は将来、強力な味方になるのだから。

 だが今はどういう訳かルーカスとロキシーが姉弟になってしまっている。こんな展開いまだかつて、ない。今回は変だ。何もかも、奇妙だ。


 取り返さなくては。味方を増やして、なんとしてもあの女を追い出さなくては。


 必ず勝利を収めるんだ。もうこんな人生嫌だ。いつまで続くとも知れない煉獄の中で、永遠の苦しみを味わうなんて。


(一体、わたくしがなんの罪を犯したというの?)


 なぜこんな罰を受けているのか。

 幾度抱いた疑問だろうか。


 答えはない。

 誰もモニカを助けることはできない。

 だから、自分が戦うしかない。


 味方を増やすのは簡単だ。だって、周囲の人間の性格なんて知り尽くしている。どう言えばどう反応するか、火を見るよりも明らかだった。


 今のところの最も使える駒は、フィンだ。ロキシーが本格的に狂い始める前に、彼を更に引き込んでおこう。

 彼を操るのは簡単だ。いつだってモニカに恋をする男なのだから。


 オースティン家の屋敷に着くとフィンはすぐに現れた。後ろに彼の妹を伴って。


「モニカ……」


 困惑の表情を浮かべるフィンに、モニカの胸に不安が差した。

 昨日まで、まるで騎士のようにモニカを護っていたというのに、今になってその顔に浮かぶのは拒絶だ。


 リーチェを見ると、びくりとされる。そうか、彼女が真実を話したのか。あれだけ脅したのに。

 

「フィン、また相談に乗ってほしいの。ロキシーが、怖くて……」


 大抵の男が落ちる、懇願の表情を浮かべる。

 だが、フィンはゆっくりと首を横に振っただけだ。


「……俺は、君を信用することができない。俺が今、話さなくてはならないのはロキシーであって、モニカ、君じゃないんだ」


 静かな、しかし有無を言わせない口調だった。


「ひどいわ……どうしてそんなことを言うの? わたくしは、ただ……」


 モニカは目を赤くし、実際に涙を流した。フィンはぎょっとしたような表情を浮かべる。 


「モ、モニカ」


 もう一押しだ。あと少しで、優しいフィンは折れる。

 だが、


「お兄様」


 リーチェがフィンの服を掴む。フィンははっとしたように妹を振り返り、頷くと、再びモニカに向き直る。


「……悪いが帰ってくれ。俺も今、あまり冷静じゃないんだ。頭が冷えたら、ゆっくり話そう」


 しばしの沈黙があった。フィンが同情したとしても、リーチェは頑なだ。これ以上食い下がると、より頑固になっていくだけだろう。

 

「また、来るわ……」


 そう言って、引いた。

 まだチャンスはあるはずだ。せっかく、今回は、こんなに早く記憶を取り戻すことができたんだから。


 オースティン家の使用人に伴われ、来た道を引き返す。


 フィンの突然の心変わりの理由は、リーチェだろう。臆病な彼女が本当のことを言ったのだ。モニカが彼女を脅していたと。


(ロキシーのせいね)


 あの女が、リーチェに勇気を与えた。


(分かってない、誰も)


 その光は誘蛾灯だ。

 美しくゆらめき、近づいた者を焼き尽くす。羽虫の体を燃料にして、炎は成長し続けるのだ。やがて世界を焼き尽くすまで――。

 

(わたくしがしていることは、皆を守ることに繋がっているのに!)

 

 モニカは焦っていた。

 思考に没頭していた。


 だから、気が付かなかった。その、気配に。


 バン、と聞こえたそれが銃声だと分かったのは、使用人が血を流し、地面に倒れてからだった。


「――っ!」


 何が起きたのか正確に把握もできず、叫ぶ間もなく、頭に布袋を被せられる。

 視界が真っ白になり、ああ()()()()()()、と思った次の瞬間には意識は遠のいた。


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