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断頭台のロクサーナ  作者: さくたろう/「悪女矯正計画」1&2巻発売中
第一章 首を切られてわたしは死んだ
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事件について、わたしは弁明する

 愛される術を知っている賢いモニカ。だけどロキシーだって、何度踏み潰されようとも復活する強さを、母から学んでいた。


 モニカはソファーに座り、父がその真向かいに座っている。ロキシーは立ったまま二人を見た。


 オリバーが静かに尋ねる。


「モニカは、ロクサーナがわざと馬車側に押したと言っているが、お前はそうしたのかね?」


「いいえ」


 ロキシーはオリバーの目をしっかりと見つめ返す。モニカの両手が膝の上でぎゅっと握られるのが目の端に見えた。

 明瞭な声で、ロキシーは答える。


「あの時、わたしが肩に触れたからそれでバランスを崩してしまったんです。二人して、転んで。そこにたまたま馬車が通っただけ。事故でした。お父様に言わなかったのは心配をかけたくなかったから」


「お茶会の件は?」


「それも偶然……わたしはカップに手を触れてません。風か何かがいたずらしたんでしょう」


「昨日のことはどうだ。フィンからも報告があったが」


「昨日は、確かにわたしも悪かったと思います。喧嘩して、頭に血が昇ったの。ごめんなさい、モニカ」


「分かった」


 父はそれ以上は聞いてこなかった。代わりに諭すようにモニカに言う。


「ロクサーナはこう言っているが、どうだ?」


 モニカは、静かにロキシーを見つめている。その瞳には少女らしからぬしたたかな計算が宿っていた。

 ロキシーもその瞳を見つめ返す。――さあ、あなたはどう出るの?


「……そう、だったの。わたくしの、勘違い、でしたわ」


 やがて長い沈黙の後、モニカはそう言った。後ろでレットがため息をつく音が聞こえる。父が数回頷き言った。


「ではこの話は仕舞いだ」


 意外なほどに父はあっさりと引いた。ロキシーをここから追い出さないし、叱ることすらない。


 だがモニカはそれで引いた訳ではない。見つめる瞳が、言葉とは裏腹に異物を排除せんとする異様な輝きに満ちていたからだ。

 彼女は押し黙り、すっと立ち上がるとそのまま部屋を去った。


「フォード、ご苦労だったな。あれは気難しい娘で敵わん。

 ロクサーナ、お前も戻ってよい」


 オリバーもそう言うと、部屋を出て行った。

 残されたのはロキシーとレットだけだ。


「お優しいのですね」


 束の間の無言の後で、レットは話しかけてきた。


「モニカ様の罪を告発するおつもりかと思っていました」


「……そんなこと、しないわ」 


「だけど、これで私が言ったことが正しいと分かりましたね」


 なんのことを言っているのだろうと、ロキシーは彼を見た。

 

「昔そうだったからと言って、今もそうだとは限らない、ってことですよ。いや、違うか。大佐は今も昔も、あなた方二人のことをとても大切に思ってらっしゃいます。……勤務中の私を呼び出すくらいですから」


 じゃあ私も仕事に戻ります、と彼もまた職務に戻っていった。



 *



「恩を売ったつもり?」


 どっと疲れ、自室に戻ろうと廊下を歩いていた時、後ろからそう声をかけられた。


(ああ、まったくもう!)


 振り向かずとも誰だか知っている。内心激しく苛立ちながら、ロキシーは声の主――モニカに答えた。


「なに?」


 モニカはそのかわいらしい顔を無表情で固めながら、至極淡々と告げた。


「悪いのはわたくしの方だったと、お父様に言えばよかったのよ。そうしたら、きっと昔みたいに、ロキシーを追い出すのでしょうけどね?」


「昔そうだったからと言って、今もそうだとは限らないわ」

 

 さっき聞いたばかりの言葉をモニカに言う。

 モニカの顔が不愉快そうに歪んだ。


「ロキシー。言っておくけど、わたくしはあなたが大嫌い。この屋敷から追い出すためには、何だってやるわ」


 彼女の顔にはなんの感情も浮かんでいない。やはりあの無邪気さは偽りで、こっちが本心か。


「そう。好きにすれば?」


 手短に答えて、背を向け歩き出した。

 それでもロキシーが打ちのめされていた。


(モニカは、やっぱりわたしが嫌いだったんだ……)


 なぜ、これほどまで憎まれているんだろうか。彼女のあの、奇妙な妄想のせいか。それとも、過去の自分がモニカに行った嫌がらせのしっぺ返しを今食らっているんだろうか。


(泣くな――)


 泣いたら負けだ。

 部屋の扉を閉めて、だがそこから動けなくなった。ロキシーは心のどこかでモニカに期待していたのだ。もっとずっと幼い頃のように、仲良くなれると思っていた。ルーカスがかけがえのない弟であるように、モニカのことも大切な妹だと思いたかった。

 だが、その幻想は妹自身の手によって無残にも砕かれた。


 彼女は少しも、ロキシーを愛してはいなかったのだ。


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