モノローグ4
学食にて昨日と同じ時間、同じ席で待っていた私は苛立っていた。
理由は明白で、彼がいつまで経っても来ないからだ。
……おかしい。今朝挨拶するついでに机の周辺を確認したけど、弁当の類は見当たらなかったはず。
はぁ、昨日のうちに連絡先を交換していればこんな思いしなくても済んだのに……。
考えられる可能性としては……私の態度が悪いから愛想つかされたとか?
いや、彼はそんな人じゃないことは私が一番わかってる。
何か理由があるはずだ。例えば重要な用事が急に入ってきたとか……。
そうやって自分を丸め込んで、黙々と昼食を食べ終え、昼休み終了5分前になったところで私は食堂を後にした。
……そして私は目撃してしまった。
生徒会長と話す英雄の姿を……!!
咄嗟に隠れて、違和感のないように壁にもたれかかってスマホをいじっているけだるげな生徒を装う。
「すまなかったな。急に呼び止めてしまって」
「全然大丈夫です……! 先輩もお疲れっす」
「それじゃあまたね」
「はい」
一体どういうことだろう?
生徒会長と以前から面識がある……?
それにしてはあまり親しい仲ではなかったような…………。
この出来事に尋ねる機会を午後からずっと伺ってみたが、ついぞその時は訪れることなく……放課後にまでなってしまった。
その頃にはもう、目の前にわからないことがあるというモヤモヤと、昼食を一緒に食べられなかったことにイライラしていて、気分はなかなかに悪かった。
「……ねえ、なんで今日食堂に来なかったの?」
「え……? あ、ああ。なんか同じクラスの植木君が弁当あるのに景品欲しさにパン買いまくっちゃったらしくてさ。それをおすそ分けしてもらったから今日はラーメンを我慢して……」
よっぽど重要な、もしくは私的な話だったのか彼は昼休みに何をしていたか正直に話さない。
……ていうかそれ、私が明日植木君に確認すれば一発でばれる嘘じゃん。
はあ、相変わらず嘘が下手くそなんだから。
まあ、私はこれでも理解のある元相棒だからそれに乗ってあげるけどね?
「ふ、ふぅん。……そういうことは先に言っておいてくれない? 親切心で隣の席開けておくか迷ったんですけど」
「ご、ごめんなさい」
「別に、怒ってるわけじゃないから。ほら、さっさと手動かしなよ。昨日よりも宿題の量多いんだから」
嘘ですほんとはさっきまで不機嫌でした。
約束してたわけでもないのに勝手に待ってて勝手に怒っちゃってごめんね……。
「体験入部……行きたかった?」
「えっ!? なんでそれを……?」
頭ではわかっていても、素直になれず別の話題を振ってしまう。
「もしかして藤さんてエスパ」
「席隣だし、休み時間中の会話くらい聞こえてるんだけど……それに、今日の6限目が部活動紹介だったし」
「あ、はい」
いつか素直になると心に誓いつつ、話にのってくれた英雄と自然な流れで会話を続ける。
「それで、実際のところどうなの?」
「う~ん…………『体験入部』というイベント自体には興味があるんだけど、部活動をやる気にはならないんだよなー」
「それって、勉学を優先したいからってこと?」
「いやー別に、そっちもほどほどでいいかなって」
「へぇ……意外だね」
「意外、というのは……?」
「なんとなくだけど、何かに打ち込んで青春を謳歌したいタイプだと思ってたから……なんとなくだけど」
異世界でともに過ごしてきた経験から感じ取った人物像をそれとなく伝えてみると、英雄の目が僅かに見張るのが見えた。
やっぱりそうか。
少し考えてたことだけど……異世界を救った今の彼は、一種の燃え尽き症候群になっているのだろう。
「うーん……俺も前まではそう思ってたんだけどさ、こうやって毎日一緒に勉強してくれる友達に巡り合えたから今はそれだけでお腹一杯というかさー」
え………………
「ふ、ふぅん……? それは、私もそうだけど……」
お、落ち着け私……!
今の言い方はどう考えても半分冗談だろ!
半分冗談ってことは半分本気じゃん!!
いやいやいや! それは私の勝手な妄想なんだから英雄にとっては100%冗談のつもりで言ったのかもしれないし――――はっ。
ダンッ!!
視界の端で彼が私の解答と盗み見ているのが映り、咄嗟に拳をかぶせる。
「ねえ……そんな歯が浮く台詞で騙せると思った?」
「で、ですよねー」
ほんとは歯が浮くどころか興奮して口角上がりそうになってたけどね。
「まったく……ほら、わからないならやり方だけ教えてあげるから、一回くらい自分で解きなよ」
「あ、ありがとうございます」
どうせ見たところで自分が仕組みを理解するまで何度も反復して解くくせに……そういうところが好き。
「じゃあここの問題わかんないから教えてほしいです」
そういって彼は私のすぐ隣にまで体をよせて真剣な眼差しで聞いてくる。
「……ん、この問題はね」
肩が触れ合うほどの近くに彼がいる……!
急なご褒美ににやけるのを必死に我慢しながら宿題を進めた。
「終わった~!」
「ふぅ……お疲れ様」
「藤さんも、お疲れ」
なんとか閉館までに終わらせることができた。
本音を言うともっと続いてほしかったのだが、贅沢は言えない。
明日もあるしね。
「ねえ……さっきの話って、本当にそう思ってる?」
片付けをする彼に向けて、ほんの少しの勇気を振り絞って聞いてみた。
「え? ああ、勉強だけでお腹一杯って話?」
「そうじゃなくて……いや、その話ではあるけど……」
ああもう、察してよバカ……!
緊張で耳が熱い。
髪で都合よく隠れてて助かった。
耳が赤いのを指摘されたら頬まで真っ赤に染まってしまいそうだし……。
「こうやって、一緒に勉強したりご飯食べたりしてるんだから友達だろ?」
「うん。そうだよね」
「ふぅ」と安堵の吐息を短くしてからさりげなく背中を向けて顔を隠す。
”友達”……出会って3日かそこらで友達認定は流石におこがましいかなと思っていたけど、彼にしてみればそんなもの些末な問題のようだ。
何はともあれ、
(うれしい!!)
この一言に尽きる。
「藤さん、連絡先を交換しようよ」
――ッ!!!!!!??!!?!!
あまりの衝撃に一瞬目の前が真っ白になった。
「……別にいいけど。……昼食、どこで食べるのか連絡くらいしてよね」
「それはほんとにごめんね」
愚痴を混ぜた照れ隠しと共に無事私は連絡先を交換した。
もちろん、彼の顔を直視なんてできないから目線を違和感のない程度に逸らしていた……一体どんな表情をしてたんだろ。
「恥ずかしいから人のいるところでスキップしないでよ」
帰り道にて、上機嫌にスキップしている彼を軽く注意する。
この反応……もしかしなくても英雄も喜んでいるのでは?
というか、私もスキップしたいんですけど!
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