モノローグ8 渡りに船と帰還魔狼
昇子視点でも、話の内容が思い出しやすいようにサブタイトルを付けてみました。
「思うような結果が出ていなくても、前に進み続けられる人でありたいし……落ち込んでる人が前を向けるように応援できる人でありたいよな」
異世界で英雄がふとした瞬間に言った言葉だ。
私も、そういう人でありたいと思う。
手芸部の掃除を手伝ってもらった翌日。
私と英雄、そして糸並さんの3人は食堂で集まって作戦会議をしていた。
会議といっても、英雄が前から考えていた案を2人でじっくり聞くのが主だったけれど。
「兼部制度を利用するのはどうかなって思ってるんだ」
「それって、すでに他の部活に入っている人を勧誘して、本所属を手芸部にしてもらうってこと?」
「結論から言えばそういうことになるね」
我が高校にも兼部制度はある。
しかし、兼部する時には入部届に本所属の部活をどれにするか決めなければならない。
そして本所属の部員数に応じて部費の分配が左右されるため、兼部を許していない部や本所属でなければ入部を認めないといった部も中にはあるようで。
「でも、今の時期に手芸部を兼部して、かつ本所属にしてくれる人なんて……」
「そうなんだよね。そんな人はいるのか? それだったら地道に呼びかけて集める方が有効なんじゃないかって話になるわけで……だから」
「最終手段ってもったいぶってたわけか」
「う、うん……」
自分で説明しといて自信がなくなってきたのか、英雄は俯いてしまった。
……いや、自信がなくなったのは兼部してくれそうな人がいないと感じたからじゃない。
「糸並さん、こんな質問を今更するのは失礼かもしれないけど、部長として手芸部を支えていく……じゃないな。引っ張っていく覚悟はある?」
「っ……! も、もちろんあるよ!」
突然真剣な眼差しで問いかけられ、一瞬身体を中に浮かせた糸並さんだったけど、すぐに覚悟を決めた表情で答えた。
「……そっか、なら安心だ。これを見てほしい」
英雄は一枚のメモ帳を机の上に置いた。
「実は、生徒会長と話して手芸部の支援を必要としていそうな部活をいくつか教えてもらったんだ」
部活ごとの悩みなどもちょくちょく生徒会の耳に入ってくるとは聞いたことがある。
なるほど、これを教えてもらいに行っていたのか。
「運動部だったらユニフォームや道着のほつれ直しや刺繍が必要で、演劇部だったらそれこそ衣装を自作して出費を減らしたいとも言っていたらしい」
「へぇ……いかにも手芸部の腕が問われそうな作業内容だね」
ここまで聞くと、英雄が言いたいことがほとんどわかったような気がした。
「それで、この候補にある部活の中から兼部してくれそうな人を探して声をかけろってことであってる?」
「うん……それで穏やかに終わればいいんだけど」
「?」
英雄が糸並さんの方をちらっと見る。
視線を向けられ、首をかしげた彼女とは対照的に私は嫌な汗が首筋を伝うのを感じた。
「入部希望者の意思とは関係なしで兼部に反対する部長とかが出張ってきた場合、もしかしたら部長同士で話し合い……もとい交渉する必要が出てくるかもしれなくて……その時は糸並さんに頑張ってもらうしかないんだ」
「糸並さん……」
「だ、大丈夫! 内気な自覚はあるけど……私だって部長なんだしそれくらいはやるよ!」
無意識のうちに私は英雄と顔を合わせて頷きあう。
「……そっか。まあよっぽどのことがない限り話し合いにはなんないだろうからそんなに身構えなくてもいいからね」
「うん......! 山田くん、わざわざありがとね。こ、今度お礼させて!」
「じゃあ部員がちゃんと5人集まったらお願いしようかなー」
「わ、わかったよ」
「ま、ほどほどに期待しといてよ」
「うん。健闘を祈るわ」
改めて、手芸部一同で英雄に感謝を告げて昼休みの作戦会議は解散となった。
そして放課後、私は隣の教室を訪ねた。
目的の人物は予想通り問題集を広げて唸っていた。
「……お、早かったね昇子」
「お疲れ。迎えに来たよ」
腐れ縁の親友で、勉強マシーンの彼女の名前は山藤静枝という。
推薦入学で少しでもいい大学に入りたいという強かな野望を持つ彼女は、まだ部活に所属していない。
そのため、昨日のうちに手芸部への勧誘を行っておいたのだ。
「手芸部……やろうと思えば大きな実績も残せるし、活動日自体も緩くて自由度が高い。いい部活に入ったね昇子」
「いやそこまで色々考えて入ったわけじゃないよ」
部活に入ってるか聞いた時、自分にとって1番いいのはどこか決めかねていると返ってきた。
「昨日返信来たときは結構嬉しかったんだよね」
「ふっふっふ……部室で勉強しててもいい契約は忘れてないでしょうな?」
「も、もちろん。 ちゃんと部長の子に確認取ったから大丈夫」
私が静枝の要望を伝えると、糸並さん自身は活動内容にこだわりがないタイプだと自負してから、
1.他の人に迷惑をかけない。
2.活動実績はちゃんと作る。
……この2つが守れるなら何をしていても構わないよ! と堂々と宣言していたのを思い出す。
「ええ〜、ほんとに?」
「なにが?」
「昇子って高圧的な所あるから、その部長さんも渋々応じたのかな〜って」
「そんなこと……ないと思う」
「なんでそこで自信なさげなんだよぅ」
堂々と宣言したのではなく、私の圧に負けてやけくそで発した言葉だったのかもと考えるとあまり強く否定できなかった。
「ふぅん……私が加わって、あと2人集めないとなのかー。その教えてもらった作戦っていうやつを実行しても、あんまり簡単に達成できなさそうだよね」
よその部活に手芸部を兼部したいという学生が何人いるのか。
兼部する気があるならもうすでに入部希望があってもおかしくない関係上、今から探すのはやはり骨が折れそうだ。
「だよね。せめてあと1人くらい入部してくれれば……」
ピタッと手芸部の部室の扉前で止まる。
なんとなくだけど、部屋に人の気配が2つあるのがわかったからだ。
「えーと……ここの部分はこうやって……」
「な、なるほど……!」
耳を澄ますと、わずかに話し声が聞こえてくる。
会話の内容的に、おそらく糸並さんと……入部希望の誰かがいるみたいだ。
「? ……どしたの昇子?」
「ああ、ごめん。ここが手芸部の部室ね。……糸並さーん、入るよー」
「は、はーい! どうぞー」
念のためノックをしてから扉を開ける。
「入部希望の子、連れてきたよ」
「山藤でっす! 昇子とは幼馴染の腐れ縁で手芸部を勧められたんでここに来ました」
「部長の糸並です。あ、こっちは今日体験入部に来てくれた……」
「布川と言いますー。ゆっくり座りながらできる部活を探しててー、たまたま廊下にある掲示を見つけて~」
す、すごい……!
親友の静枝は勉強のついでで推薦への実績づくり、体験入部中の布川さんは座ってできる部活ならなんでも良さそうな雰囲気。
「見事に入部希望が消極的な人しかいない……」
「昇子も似たようなもんでしょうが」
腐れ縁から年季の入ったツッコミをもらう。
「あはは。でも、私は嬉しいよ。1人で部室を訪ねた初日のことを思うとやっぱりね……」
糸並さんの哀愁漂う発言を聞いて、しばしの沈黙が流れる。
「じゃあー、私も入部していい?」
「あ、ぜひ……! ご、ごめんね。なんか強制したみたいになって」
「そんなことないよー。なんとなく、このメンバーなら楽しくできそうかなって思ったから入るだけだから」
布川さんは屈託の無い笑顔で入部届を受け取り、さらさらと記入していく。
「じゃあ私の分ももらえる? 布川さんの言った通り、ここの雰囲気みたいなのはわかりかけてきたし」
「う、うん……!」
これで部員を2人も確保できた。
しかも布川さんは糸並さんの作った廊下の掲示を見て来てくれたという。
部長として頑張ってきた彼女が報われた気がして、少し感動を覚える。
「ふ、藤さん! これで残りは……」
「昇子でいいよ。『山藤』と紛らわしいし」
若干糸並さんの話をさえぎるようになってしまったが、タイミングを逃すといけないのでここで呼び方の希望を出しておく。
「あ、じゃあ私のことも静枝でお願いしまーす」
どさくさ紛れに静枝も希望を出す。
こういうところで抜け目がないのが彼女だ。
「し、昇子さん! あと1人だね!」
「うん……! 今から作戦会議して……明日はちょっと、他の部活にも顔を出してみるよ」
「いいねぇ、私も目星をつけてる部活に対してあれこれ言わせてもらうよ」
「何々? なんの話ー?」
その後の時間は、体験入部としての活動とどの部活の人なら兼部してくれるかの作戦会議で、大いに盛り上がった(当部活比)。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
感想、誤字脱字の指摘はお気軽にどうぞ。
よろしければ評価、ブックマークの方もお願いします。
展開に悩みまくった挙句、当たり障りのない話になってしまった気がします。
とにかく、次回は来週更新できるようにまた頑張ります。




