10.渡りに船とオカルト
手芸部の掃除を手伝った翌日、学校に来た俺が下駄箱を開けるとそこには一枚の手紙が入っていた。
まさかラブレター!?
『山田英雄くんへ
朝のこの時間もしくは放課後に生徒会室へ来てください。
生徒会長の御影より』
……………………。
「……おはようございまーす」
「やあ、突然呼び出してすまないね。……朝はテンション低いタイプなのかな?」
「いえいえ、俺も聞きたいことがあったのでちょうどよかったです」
「そ、そうか」
手紙の主が会長で、少しだけ……ほんの少しだけ落胆したのは事実だが、それでもこの状況が俺にとって都合がいいのは変わりない。
俺が気になっている部活動の仕組みについても会長目線で再度確認させていただくとしよう。
「俺の用事は一言で済むから、先に話させてくれ」
「ど、どうぞ」
一言で済む用事なのに、生徒会室に呼ばれなきゃいけない案件というアンバランスさに若干の緊張を覚える。
「では単刀直入に頼もう――伝承研究部を復活させてほしいんだ」
そして放課後。
「失礼しまーす」
「オカルト研究部」の上から雑にペンで「伝承研究部」と上書きされた札のある教室に入る。
昇子さんは今日も手芸部だ。
もしかしたら部員集めのために各地を奔走しているかもしれない。
昼休みに軽く説明した“作戦”に向けての準備を始めていてもおかしくないからな。
彼女達も頑張っているわけだし、俺も気合を入れなおさねば……!
「あら、思ったより早かったですわね」
意気込んで入った部室は、いろんな物で溢れかえっていて埃っぽく……部屋の中央ではすでに見知った人物が待ち構えていた。
今日から仮発足となる伝承研究部……その部長こそが、
「おお……土曜日ぶりです。春風花梨さん」
俺と同級生にして、学園長の娘である花梨さんだった。
「ふふ……ごめんなさいね。急に活動内容もわかりにくい部活に誘ってしまって」
「……いえ、ちょうど部活動に興味があったので誘ってもらってむしろ嬉しかったですよ」
「お気遣いいただき感謝いたしますわ」
美しい所作で礼をしたのち、軽く掃除された机を挟んで、椅子に腰かける。
どうぞと促され、俺も対面の椅子に座る。
西日が反射して部屋を舞っている埃が光って見えた。
「初めに、簡単にこの部活動について説明しますわね。伝承研究部とは……まあ要するにオカルト研究部と一緒なんですの」
「それならオカルト研究でよかったんじゃあ……」
「オカルト研究だと……その、なんとなく胡散臭そうだからという理由で駄目だったみたいですわ」
確かになんか「伝承研究」と書かれるとかしこまった雰囲気を感じるが……。
大丈夫? 別称でオカルト研究部とか言われて揶揄されたりしてない?
「まあ、この部活を軽んじていた人達からはオカ研(笑)と呼ばれていたようですけれど」
「やっぱり呼ばれてたんだ」
なんかちょっと悲しいな。
というか、“(笑)”ついてる時点でなんて呼ぼうがバカにしてるじゃん。
「英雄様は考えたことはありませんか? よくオカルト研究部ってアニメとかではありますけれど、具体的に何をしている部活なのでしょうか……と」
「それは確かに、言われると気になりますね」
済天高校の部活動は新しく立ち上げる場合、厳しい審査があり、さらに毎年目立った活動実績がない部は自動的に廃部となる。
この活動実績というのは、客観的に見て外部の人間にアピールできる取り組みのことだ。
要するに、何かしらの大会に出たりや学園祭で出し物をしたりすることで「活動実績がある部活」として認められるわけだ。
「廃部になったとはいえ、この伝承研は決して緩くはない生徒会の監査を乗り越えてきたということですよね?」
「そのとおりですわ。過去の先輩達の具体的な実績としては……学校の七不思議の調査や、近所のお寺に伝わる言い伝えをまとめて学内新聞に掲載する……などだと聞いております」
話を聞く限りなんというか……すごくちゃんと活動してそうだ!
「でもそれだけちゃんと活動していたなら、どうして廃部になったんですか?」
「それは簡単な話でして……もう近場で深堀できそうな噂や伝承がなくなったから……だと聞き及んでおりますわ。……ほら、こちらの研究ノートにもそのようなことが書かれておりますもの」
活動内容がまともだっただけに、廃部理由もめちゃくちゃまともだった。
「そして、ここからが肝心の話でして……」
「どうしてこのタイミングで伝承研究部を復活させようと思ったか、ですか?」
「ご名答、ですわ!」
嬉しそうに手を合わせて笑う花梨さん。
彼女は一見権力を強引に行使しているように思えるが、そんなことは決してなくて、あくまでも学園の1生徒としての権利を正しく使っているだけだったりする。
今のこの状況だって、実は生徒会長に要望するだけで誰でも実現できるのだ。
「先週、こんな模様が空き教室に書かれるという事案がありましたの。……こちらをご覧くださいませ」
「こ、これは……!」
学校の七不思議のような物が来るのだろうかとワクワクしていた俺は、それをこの世界で初めて目にして息を呑んだ。
「ま、魔法陣……!?」
「やはり、英雄様にもそう見えますか」
写真にくまなく目を通す。
この魔法陣……円形の構造自体に問題はなかったが、内部に書かれている文字に見覚えがありすぎる。
「み、見たことない文字ですね……これがルーン文字とかいうやつですか?」
どっからどう見ても異世界で使われていた文字達だが、一応知らない体で会話を進める。
「いいえ、画像検索もしてみたのですが該当する物はありませんでした」
写真から読み取れる部分だけでも翻訳してみると、『今日の課題は大変だった』『春先は着るものに悩みがち』『今日も私はモテモテ』……なんだこれ。
「日記……?」
「はい?」
「い、いやー日記帳に記せるくらい奇抜な出来事だなと」
書いてあることがあまりにも日常的すぎて思わず声に出してしまっていた。
この魔法陣……あくまで魔法陣“風”であって、別に魔法が発動するような仕組みや文字列は入れられていないように見える。
「この写真は一体どこで入手したんですか?」
「それが、昨日の放課後下駄箱を開けたらこれが入ってましたの」
また下駄箱……もしかして流行ってるの?
それとも犯人は生徒会長とかいうオチ?
「最初は告白の手紙だと思いぬか喜びしたのはここだけの秘密でお願いしますわ」
あんたも勘違いしたんかい。
めちゃくちゃ親近感湧いちゃうな。
「裏面に生徒会長の名前が記載されておりましたので、本人に確認したところ。この魔法陣は今月に入って数回目撃されていて、表立って噂になる前に犯人を捕まえてほしいと頼まれてしまいまして……」
「はは……お互い会長に頼まれたからここに来たというわけですか」
「いえ、どうせ調査するなら部活動という体で空き教室を使わせてほしいと私が願い出たからですわ」
「な、なるほど……」
何も知らされてなかったのは結局俺だけかよ!
「部員数が規定を満たせていないので、特例で今月一杯までの活動になってしまいますが」
「今月一杯……それまでにもし犯人が見つからなかった場合は……?」
俺の質問を聞いて、花梨さんはどこからともなく札束を取り出してにやりと悪い笑みを浮かべた。
「ご心配なく。いざという時には権力を行使して部を存続させますわ」
「よ、よーし! 今月中に解決するぞー!!」
生徒の買収を擁護するわけにもいかないため、改めて気合を入れなおすことになった。
「まあ! やる気があるみたいで助かりますわ。……えーと、今日の活動は……くしゅんっ!」
花梨さんのかわいらしいくしゃみで机の上の埃が舞う。
……活動初日にするべきことが言われなくてもわかる。
「教室の掃除から始めましょうか」
「は、はい……こんなに汚い部屋を見たのは生まれて初めてです」
制服の袖やハンカチで口元を覆いながら頷きあう。
まさか昨日に引き続き今日も部室の掃除をする羽目になるとは思いもしなかったぜ。
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まずは書くことを習慣づけるところから始めて頑張っていきます!




