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モノローグ7



 私は英雄(ひでお)のことが好きだ。

 信頼か、恋慕かは置いておいて……それ自体が揺らぐことはないと思う。

 となると、大事なのはどんな時の山田が一番好きなのかという話になってくる。

 ……私としては、旅の途中で見せる気の抜けた状態と勇者然とした真剣な振る舞いのギャップが特に好きだ。


 突然の惚気で申し訳ないが、つまり何が言いたいかというと


「今日、手芸部がこれから頑張っていこうとしているのだったり……ああやって運動部が練習しているのを見たりしてさ、やっぱ俺も部活やりたいや、具体的に何やりたいかは一切決まってないけど!」


 これを聞いた時、応援したい気持ちと、お互い部活を始める関係上会える時間が減ってしまうのが嫌だという相反する気持ちがせめぎあった。

 瞬き程度の短い時間の中で、肯定すべきかやんわり他の道もあると促すべきか何度も脳内でルーレットが巡っていた。


「……そ。いいんじゃない? 山田が何をしようとしてても私は支えるよ、今日手伝ってもらったしね」


 そして行き着いた結果がこれだったわけで……。

 これを言った直後の心境としては……素直に応援したいし、彼が部活に熱心な所だって見たい。……それはそれとして放課後の勉強会がナチュラルに消えていく可能性があって気が気ではなかった。


「通話しながら宿題しない? お互い無言でもいいから」


 だからこそ、直後にこの誘いを受けた時は心臓が跳ね上がった。




『あー……もしもし』

「ん……聞こえてるよー」

『OK。じゃ、早速やってくね』


 ……さて、どうしたものか。


「今日やるのだと、体感どれくらいかかりそう?」

『えーっと……2時間、いや1時間半くらいかな』


 時刻は8時ちょうど……英雄的には早くて9時半に終わる算段らしい。

 がしかし、実はすでに私は宿題を終わらせている。

 残るは英単語の小テストの範囲を復習するくらいだ。


「そっか」


 家に帰って即行で宿題に着手してここまで進めたのには理由があった。


「……そういえば、山田ってゲームとかするの?」

『え……最近はしてないけど、いろいろ家にあるよ。デモハンとか、FPS系とか』

「へぇー、私も最近始めたんだよねー」


 せっかく通話するのだから、そのまま一緒にオンラインでゲームをしてしまおうという欲張りな作戦のための準備だ。


「……よかったら、この後一緒にゲームやらない?」

『うーん……最近全然やってないからなー。下手くそでも良ければやろうかな』


 ……おかしい。

 異世界にいた時は「俺さ~、世界救って元の世界に戻れたらやっぱゲームやりたいんだよな。発売日にやる予定だったのにできなさそうで悔しいよ」とか言ってたはずなのに……!


「もしかして、最近ゲームやってない?」

『うーん……友達の家でやったマリモブラザーズくらいかな』

「あー、あの新しい?」

『いや、昔のリメイク作品的な奴だったかな』


 最新作ですらない……!?

 こんなの私のデータにないんですけど!!?


『もともとゲームは好きだったんだけど、春休みの事故で負った怪我の治療でろくに動けなくてさー。ゲームやる代わりにアニメ見たり電子書籍読んだりで、とにかく片手があれば見れる物で時間潰してたんだよね。そのせいでなんかゲームの熱が冷めちゃったっていうか……』

「そ、そうなんだ」


 言われてみれば納得しかない話だった。


 そっかー……じゃあ、高校入学祝いと称して買ってもらったこのゲーム達が全部無駄になっちゃうってこと……?

 先週英雄と再会を果たして、帰ったらウキウキでゲームを進めていた自分を殴りたい。


『でもせっかく昇子さんが誘ってくれたんだし、久しぶりにやろっかな』

「……! ……言っとくけど、私始めたてだからどのゲームも下手だよ」

『わかってるって。俺、初心者は生暖かい目で見守るって決めてるから』

「何それ、なんかむかつくんですけど」


 調子のいい英雄に文句を言いつつ、手を動かす。

 私もさっさと復習を終わらせてしまおう。


『俄然やる気出てきた。ありがとう昇子さん』

「……別に、私がやりたかっただけだからお礼なんていいよ」


 拳を握りしめて天に突き上げる。

 無意識のうちに声が明るくなっていることに気づき、どうにか声のトーンを抑える。

 いきなりはしゃいでドン引きされるのだけは避けないとね。


『そういえば、聞くまでもないかもだけど明日も部活ある感じ?』

「まあ、そうだね。部員が5人を超えない限り毎日活動して認知度を上げないとだから」

『だよね。ちなみに今のところ何か()()とか考えてあるの?』


 “作戦”という単語が彼の口から発せられたのを聞いて、少し嬉しくなる自分がいる。


「一応考えてはあるよ。毎日の呼び込みはもちろんするし、広報部がやってるSNSにも乗せてくれるように頼むつもりだし、部員の1人には宛てがあるし」

『おおー、SNSとか今時って感じするなぁ』

「なにおじさん臭いこと言ってんの」


 異世界にいた(あの)頃を思い出すのは当然として、英雄がこうやって他人に意見を求める時は大抵自分にもある程度まとまった作戦がある時なのだ。


「それで? 山田も何か考えてあるんじゃないの?」

『え……考えはあるけど、どうしても人が集まらなかった時用の最終手段として置いておいてもらうのが無難な気がするんだよねー』

「ふーん。あまり現実的じゃない作戦ってことね」


 予想通り、英雄は何か考えてくれていたわけだけど……流石にこれ以上色々してもらうのは申し訳なさが勝ってしまう気がする。


『うん。今日手芸部で手伝いさせてもらった時に引っかかったことがあってさ、もう少し自分で調べてみてから話すよ。まだできない可能性だってある話だし』

「わざわざ山田が調べなくっても、言ってくれれば私が調べてくるよ?」


 というか、手芸部のことなのだから私達がやらなければいけないのでは?


『昇子さんには糸並さんを支えてあげた方がいいと思ってさ。それに俺も部活始めるにあたって知りたいことを調べるついでだからそんな気にしないで』

「そ、そう……」


 頭を左右に振って思考を切り替える。

 「英雄にやってもらって申し訳ない」という感想はあってもなくても個人の自由だけど、それで私が頑張らなくていい理由にはならないよね。


 英語の復習は終わった。

 ならば次は、ゲームを起動して準備しつつ、私自身も何か作戦を考えるのみ!


「私、宿題終わったから。デモハン起動して、部員を増やす案を考えながら待ってるね」

『はやっ!? まだ30分も経ってないけど……え、昇子さんそんなにゲーム好きだったの……?』

「う、うっさいな。さっさと手動かしなよ!?」


 邪推されないように睨みをきかせつつ(?)私はルーズリーフに部員獲得への自分なりの考えを書いていった。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

感想、誤字脱字の指摘はお気軽にどうぞ。

よろしければ評価、ブックマークの方もお願いします。


お待たせして申し訳ないです。

いまだに登場人物たちの性格をうまく捉えられている気がしませんが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

次回こそ1週間以内に更新したいと思います。

それでは!

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