婚約パーティー
会場で皆の目が一斉に向けられる。
たった今、ディラン様から婚約の挨拶が終わったところだ。
二人で腕を組んで、ゆっくりと階段を下りていく。
氷の貴公子ディラン・ホワード侯爵令息と悪名の付きまとうミリエンヌ・スペンサー公爵家令嬢。
この世にも奇妙な組み合わせに、出席者は興味津々だった。
事前の打ち合わせで、ミリエンヌの父がディラン様を気に入り、婚約を申し入れた事になっていた。
そろそろ婚約者をと思っていたディラン様は快く了承して、婚約に至った事になっていた。
「笑顔が引きつっているよ」
ディラン様が小声で囁く。
「く、苦しくて……」
「無理をするからだ。ファーストダンスが終わったら飲み物を貰おう」
そう言って私を連れて挨拶回りをしている。
「先が長すぎる……」
独り言を言うと
「ぶぶっ……」
何がツボに入ったのか、ディラン様は笑顔で私を見る。
却ってそれが、知らない者達からすると驚きだった様で、概ね好評でファーストダンスを済ませる事が出来たと信じたい。
ダンス中もお宅のメイドさんの腕は見事だとか、嫌味に聞こえなくもない事を喋りながら踊り終えた。
まぁお蔭で気が逸れて何とか乗り切れた。
そして椅子に座らせて貰い、飲み物で喉を潤していると家族が周りをガッチリ固める。
父は感動したのか、涙ぐんでいる。
お芝居でこれなら、本当の時は大号泣かしらと思っていると母が叔母を連れてきた。
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「ディラン様、ミリエンヌご婚約おめでとうございます」
「叔母さま、来てくださったのですか?お忙しいのに」
この言葉の裏には、本当の婚約じゃ無いのに⋯⋯という気持ちを込めた。
「ディランさん、此方私の妹のセシリアですの」
「セシリア・サンチェスと申します。本日はおめでとうございます」
「初めまして。ディラン・ホワードと申します。宜しくお願いします」
何時もの妙に整ったお顔に笑みを貼り付けてディラン様が答えた。
「ミリエンヌ、遅くなってごめんなさいね。それととっても綺麗よ」
「色々頑張りました」
セシリア・サンチェス、母の妹。三姉妹の末っ子。
叔母は実母が起こした騒動に巻き込まれて、婚約破棄に至った。
子爵家との婚約が幼い頃から決まっていて、花嫁として嫁ぐ目前だったという。
しかし跡取りとして養子に迎えてサンチェス領を継ぐはずの人物も、横領と窃盗で犯罪者になった。
持ち出した金銭はギャンブルに消えており、ほとんど戻らなかった。
サンチェス領は元々豊かでなかったが、その後没落の一途を辿って寂れていった。
叔母が継ぐしか選択肢が無くなり、その後やっと婿養子に来てくれた人物と結婚し、細々とやっているらしい。
祖父母にあたる人達は、領地の一角に引き篭もり世間との交流は未だに無い。
多分、スペンサー家とセシリア叔母さまの圧力で。
祖母カミラの実家からは縁を切られたらしいから、出て来たくとも出られないのかも知れない。
しかしサンチェス領は実母の件で不相応な借金を重ね、その上に横領と窃盗が重なった事で、莫大な借金を抱える事となった。
農業主体の領民にこれ以上重税を課す訳にもいかず、領地の半分は切り売りする事をセシリア叔母さまは潔く決断された。
今はかなり厳しい生活の様だが、節約しながら細々と暮らしていると言う。
名ばかりの伯爵家として。
貧しい生活でメイドも料理人も居ないが、家族で力を合わせて頑張っていると聞いた。
ミリエンヌから見ると、その姿は強く逞しく、眩しい位輝いて見える。
私もセシリア叔母さまの様に強く生きたい。
世間の評判や悪意に満ちた視線を跳ね返して。
そう何時も思って生きてきた。
「昔はね、私も若気の至りで世間体を気にして見栄を張ったのよ」
そう言って叔母は笑う。
大人の顔色を見て、自分の有利な方に流されて母を蔑ろにしたという。
「小狡い性格だったわ」
「でもどうやって方向転換出来たのですか?」
「貴方の二人の母親のお陰なの」
我儘放題、思い通りに生きてきた実母。
放任というにはあまりにも冷遇された養母である母。
「貴方にとって実母は汚点にしかならないかも知れないけれど」
「⋯⋯」
「対極にいた二人の存在が私の転機になったのよ」
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