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結婚

 待ちに待ったその日、ミリエンヌは世界一幸せな花嫁になった。


 白いウエディングドレスを身に纏い、父と腕を組んでその先に待つ彼の元に……。


 その手前には母であるパトリシアや、弟達。

 そしてセシリア叔母様御一家、スペンサー家の親戚達。

 友人達の姿も見える。

 そして普段はメイドで有るけれど、友人となっているネネやメイリンの姿も見える。


 バージンロードをゆっくり進みながら、これまでの人生を思い起こした。


 実父と過ごした静かな幼少時代。

 実母に会う事はなかったが、健康に産んでくれた事には感謝している。

 あの湖の見える場所で、実父を空へ送り出したあの日から、怒涛の人生が始まった。


 今の両親に救われて、娘として生きてきた。

『ロザリンド』の娘と呼ばれて、社交界で噂に(さら)された日々。


 色々な事件に巻き込まれながらも、家族が支えてくれて乗り越えた。


 もうロザリンドの娘じゃ無い!

 私は正真正銘『パトリシア』の娘だ!

 父アイザックと母パトリシアの愛情を受けて……。

 それに可愛い弟達もいる。


 そう思いを巡らせていたら、あっという間にノア様の元に辿り着いていた。

 太陽のような人懐っこい笑顔の男性。

 眩しくて思わず目を細める。

 父が私の手を優しく取り、ノア様へと渡してくれた。

 ノア様が「幸せにしますから」と父に声を掛けると、満足気に頷いて愛する母の隣に戻って行った。


 そして二人で共に手を取り、神父様の声に耳を傾けた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「うわーん」

 上の子が転んで泣き出した。

「カイト!」

「カイト坊っちゃま!」

 メイドとほぼ同時に、声を掛けるが娘に授乳中で駆け寄ることが出来なかった。


 結婚の翌年から年子で二人、子供を授かった。

 上の子がカイトで、下の子がまだ生まれたばかりの女の子、クレアである。

 貴族家では乳母に育児をさせる風習があるが、ミリエンヌは自ら育てる事を選んだ。

 自分が体験出来なかったから、という思いがあった。


 実母の居た修道院で生まれた私。

 初乳を貰う事も許されず、乳母の乳を貰い、直ぐに実父へ引き取られた。

 その経緯があった為、実母の温もりを知らなかった。



「膝を擦りむいたの?」

「いえ、転んで驚かれただけの様です。申し訳ございません、私が付いていながら」

「子供は思いもよらない行動に出るから、目が離せないもの。怪我はつきものよ」

 そう優しく諭すとミスをしたと小さくなっていたメイドがほっとした様だ。


「ん?カイトもう大丈夫なの?」

 よたよたと私の元に来た息子は、自分も膝に乗りたがって手でミリエンヌの膝を叩く。

「マンマァー、ここ。マンマァー」

 自分も抱っこせよと仰せだ。

 流石夫に似たのか、ハイハイから歩くのが恐ろしく早かった。

「もう少し待ってね、クレアのまんまが済んだら抱っこしますからね」

「この子をお願い」

 そう言ってカイトの頭を撫でてから、クレアを抱き直した。

「さあ、ゲップ出るかな?」

 トントン優しく背中を叩く。

「ゲフッ」

 無事ゲップを確認して、ベビーベットに寝かせる。

 ここ二年はゆっくり睡眠時間も取れず、フラフラしているが可愛い子供の為なので苦にはならなかった。


「さぁ、カイトいらっしゃい!」

 メイドに抱かれていたカイトは少し涙目だった。

 目尻に涙が溜まっている。

「カイト大きくなりましたね。沢山遊んでお父様の様になってね」

 愛する夫そっくりの息子に向かってそう言ってみる。


「奥様、アンナ様がいらしております」

「アンナさんが?」

 アンナさんは私たちが結婚した一年後、夫の友人でもあった男性と結婚した。

 あの誘拐未遂事件の時の夫の弁護士の男性だ。


「アンナさんいらっしゃい!」

「子供達は大丈夫?」

「ええ。二人ともお昼寝の時間だから」

「毎日大変でしょう?私に出来るかしら?」

 アンナさんは只今妊娠中であった。


「ご主人も巻き込んで、皆んなでやれば大丈夫!」

「協力してくれるかしら?母が暫く来ようかって言ってくれているの」

「夜泣きとか頻繁だったら協力を頼んだら?」

「そうね、もう不安で不安で。母親になるって大変ね!」

 そう言いながらも幸せそうだ。

 アンナさんに一目惚れしたご主人の強力なアプローチによって、アンナさんは恋に落ちた。

 それはもう涙ぐましい努力の末にやっと結婚できたのだもの、それ位やってくれると思う。


「もうね、クロードったら名前を考えているのよ」

「待ち遠しいのね」

「私は顔を見てからでもいいと思うんだけど……」

 まだ膨らんでもいないお腹をさすりながら、アンナさんは言う。

「そうね、その子に合った名前って有ると思うから」

 これはミリエンヌの体験した事だ。色々候補があったが、カイトだって思ってしまった。

「ねえ、この子が生まれたらいとこ同士になるじゃない?そうしたら一緒に旅行とか避暑とかに行きましょう!」

「もう気が早いのね」

 でも楽しそうだ。


 そうだ!実父と暮らしたあの家に行こう!

 きっと空から喜んでくれる。


「あのね、とても良い所が有るのよ。皆んなで一緒に行きましょう」


皆さま長らくお付き合い頂きまして有難うございました。

これにて完結です!

また新作『愛しているから振り返らない』を始めました。

そちらも宜しければお読み下さい。

またお会い出来る事を願いつつ……(*゜▽゜*)

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