嵐が去って
ミリエンヌはノア様に抱き抱えられて、自邸に戻った。
ネネはノア様の従者が支えてくれた。
知らせを受けていた両親や弟達が駆け寄って、無事を喜んでくれた。
「お父様お母様、素晴らしい馬車を作って下さって、ありがとうございました」
「良かったわ、本当に良かったわ」
「咄嗟によく思い出した!簡単な説明しかしていなかったから⋯⋯」
「あの馬車がなかったら、私達は犯人達に捕まって、酷い目に遭っていたかも知れません」
「想像するだけで、気を失いそうよ。さあ、早く休みなさい。お医者様も呼んであるの」
その後ミリエンヌは、医者から診察を受けて、睡眠剤で朝まで眠ることが出来た。
朝目が覚めると、そこには心配そうに覗き込む、父と母の姿があった。
「おはよう御座います、お父様お母様。もしかして、徹夜でここにいらしたのですか?」
ミリエンヌは、この二人の娘になれて本当に良かったと思った。
「だって、目が覚めたら直ぐに私達の顔が見たいでしょう?」
泣き笑いの様な両親の顔にミリエンヌもつい泣き出してしまった。
「あらあら、子供時代に戻ったみたいね」
「そうだな、大きいが私達の一番大事で可愛い娘だ!」
両親二人に抱きついて、この場に無事に居る事の出来た幸せを噛み締めた。
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その後、エリー・モデリアーノ嬢逮捕の事が世間を大層賑わせた。
新聞はこぞって書き立て、自身の誘拐事件を逆手に取り、犯罪者達を手玉に取った悪女と書き立てた。
そしてノア・タジミール氏へのストーカー行為。
そして貴族家への不法侵入、迷惑行為等、如何に執着が強かったかを知らしめた。
隣国の貴族といっても、準男爵位を金で買った領地も持たない一代限りのものであった事から、平民のような扱いになり配慮は要らぬと好き勝手に書き立てた。
そして私に関しては、馬車に立て篭もり誘拐を防いだ勇気のある令嬢として、賞賛の言葉が並べられていた。
スペンサー家の馬車仕様は、その後評判となり、母の営む商会は全国各地から問い合わせが来る事となった。
これによって母の特許で成り立っていた中規模の商会は、この国を代表する大商会へと大きく成長する。
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一方でエリー嬢は、憑き物が落ちたように抜け殻と化していた。
裁判の頃には熱に浮かされた様なギラギラした目は消えて、別人の様になっていた。
エリーの両親は過保護と放任と言う一見全く真逆な事を、娘に対してやっていたとして、被害者達に謝罪した。
特にこの国での想像の遥か上を行く迷惑行為に、只々頭を下げた。
そして裁判の結果、諸々の罪が問われたが、ミリエンヌ誘拐は未遂で終わった事。
本人の反省の態度が見られる事から、修道院送致に決定した。
しかしながら皮肉な事に、ミリエンヌの実母も入っていたこの国で最も過酷な修道院に、長く入る事となった。
エリーの家族の方が悲惨で、父親は大金でやっと手に入れた爵位を返上。
そして被害者達に多額の慰謝料を払い、信用も何もかも失った。
国際問題に発展してもおかしくなかったので、これは仕方が無かった。
姉は婚約を直ぐに破棄され、醜聞の為に今後の結婚も絶望視されて、自ら修道院に入る事を選択した。
しかし妹と違って、自国の比較的過ごしやすい所を選んだようだ。
ミリエンヌに穏やかな日々が戻ってきた。
婚約パーティーもいよいよ来週に迫り、準備に忙しい日々を送っていた。
そんな時に意外な人物が訪ねて来た。
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「ディラン様、お久し振りです」
「今日は済まない、忙しいだろうに」
「息抜きも必要ですから⋯⋯お気になさらず」
「そう言って貰えて⋯⋯嬉しいよ」
「今日はどの様なご用件で?」
「⋯⋯婚約のお祝いと⋯⋯私も政略結婚が決まったよ」
「そうなのですか、おめでとうございます。お相手はどちらの御令嬢ですか?」
「辺境伯のシンシア・ローゼンデール嬢だよ」
「シンシア様。済みません、余りお会いした事はない方なので⋯⋯」
「今まで病弱を理由に社交にも出て来なかったようだ、無理も無いさ」
「それは⋯⋯ご病気は治られたのですか?」
「随分と変人らしくて、病弱は嘘らしい」
「まぁ!」
「驚いただろう?でも親が、いつまでも好きにさせる訳にはいかないと決めたんだよ」
「でも意外に、結婚してからゆっくりと愛を育んでいく事も出来ますわ。相手を想いやって、素晴らしい家庭を築かれます様に」
「ありがとう」
ディラン様は浮かない顔で言った。
「ご紹介頂けましたら、お茶会にもご招待出来ますわ。出来れば仲良くして頂きたいです」
「そうだね、聞いてみるよ」
「余り上手くいっていないのですか?」
「そうだね、何を話せばいいのか、まるで分からないんだ。それで困っている」
「そうなのですか」
「君に酷い事をしたからね、同じ轍を踏みたく無かったんだが。相手がね。やはり相性って有るのだと思う」
「⋯⋯」
「幸せいっぱいのところに済まないね。もし彼女が望んだら、仲良くしてやってくれよ」
「分かりました。ディラン様、もう大丈夫ですよね?」
「ああ、覚悟はしていたからね」
私はそれ以上何も言えなかった。
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