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幸せの裏には⋯⋯

「ノア様」

 ミリエンヌは久し振りに、ノア様の訪問を受けていた。

「随分会えなかったが、変わりは無かったですか?」

 優しい笑顔、大丈夫お変わりは無かった様だ。

 でも少し痩せられたかしら?

 頬の辺りが少しシャープになったノア様の顔を見ながら、せわしく視線を動かす。

 ここの所のノア様の心労を思って、ミリエンヌは随分心配したのだ。


「姉様心配されてたんだよ、ノア様忙しかったの?」

 ノア様の隣にちゃっかり座ったアッシュは、ノア様を見上げながら言った。

「色々と忙しくてね、アッシュ君も剣術は上達したかな?」

「ローガン兄様と頑張ったんだ!」

 今日はローガンは学園で、不在だった。

 ノア様から先程頂いた手土産を、嬉しそうに開けながらアッシュは答えた。

「アッシュ坊っちゃま、タジミール伯爵はお嬢様とお話がおありですから、あちらで開けましょう」

「ううん!ここに居たいの!」

「じゃあ、こちらのお話が終わったら、剣術の成長具合を見てみようか。動きやすい服に着替えておいで」

「はーい!じゃあ後で!」

「坊っちゃま、そちらは私が⋯⋯」

「僕が持って行くの!」

 そう言って、ノア様からのプレゼントを大切に抱き抱えて行った。


「アッシュはノア様が大好きなのです。お疲れの所大丈夫ですか?」

「可愛い弟ですから」

「そう言って頂けると喜びますわ、二人共」


「今日はミリエンヌさんに用があって、お邪魔しました」

「何ですの?」

「私としてはゆっくり進めるつもりだったのです。しかし今回の事件と伯爵としての地盤固めの為、このままでは会う事もままなりません」

「⋯⋯」

「ミリエンヌさん、貴方が好きです。知り合ってからまだそう時間は経っていませんが、貴方しかいないと思ってしまった。私と婚約して結婚して下さい!」

「えっ!」

「分かっています。そう時間を作ることが叶わず、私と言う人間を知って貰う時間も有りませんでした。本来ならばアイザック様に先に申し上げるのが筋でしょう」

「あ、あの」

「でも私がグズグズしている間に、新たな婚約話が持ち上がらないとも限りません。ですから⋯⋯」

「あの!ノア様のお気持ちは十分伝わりました。私もノア様が好きなので、好きなので宜しくお願いします!」

 ついのぼせてしまって、好きと2回も言ってしまった。

「それでは、婚約して頂けますね?」

「はい!喜んで」

 ノア様は真っ赤になった顔を両手の平で覆って、良かった、良かったと呟かれた。


 その時。

「ノア様、まぁだ?」

 そう言って、準備万端のアッシュがいきなり入ってきた。

 それでノア様は私では無く、アッシュを思わず抱き締めた。

「ノア様、どうしたのぉー?」

 何も知らないアッシュを抱えて、クルクルその場で回り始めた。

「アッシュ君の義兄になるよ!」


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 そしてこのニュースはスペンサー家を駆けめぐった。

「お嬢様、おめでとうございます!」

「まだ両親にも話していないのよ」

「ではこちらで待たせて頂いて良いだろうか?」

 ノア様がアッシュを下ろして言った。

「勿論構わないよーその間に剣術の稽古しようよぉ〜」

 アッシュがまるで婚約者の様に横にピッタリ張り付いて、ノア様を独占している。

「姉様、おめでとう!僕もノア様大好きだから嬉しい!」


 ミリエンヌは、もしかしたらあのエリーさんよりも、我が家のアッシュが強敵になりそうな予感がした。


 そしてその夜、無事両親に報告も出来て、スペンサー家はお祭り騒ぎになった。

 ノア様はお父様とお酒を召し上がり、お父様に勧められるままに深酒して、結局そのままお泊まり頂く事となった。

 そして数日後この婚約が、新聞の一面を飾った。

 私はこの幸せを噛み締めていた。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 エリーは取り調べがまだ済んでいないという事で、一人でホテルに留め置かれていた。

 国外にまだ出られては困るという事らしいが、メイドも取り調べ官が手配した者で軟禁状態だった。

 そんな中、届けられた新聞の見出しに目を留めた。


「何ですって!あの女とノア様が婚約?」

 独り言に反応もせず、担当メイドは黙々と茶を淹れたりしていた。

 食い入る様に新聞の紙面を見つめて、そして握り潰した。

「外出するわ」

「済みません、それは出来ません」

「何でよ、用事が出来たの!」

「重要証人ですから、身の危険もあります。外出はお控え下さい」

「両親とも会えないし、何時迄ここに居ればいいのよ!いい加減にして!」

「私は国からの仕事でここに居ります。私が許可出来る訳がありません」

「取り調べ官に取り次ぎなさい!用事があるから解放する様に」

「分かりました。一応お伝えしますが、それまで暫しお待ちを」

 そう言ってメイドは、部屋からやっと居なくなった。


「許さないわ、ノア様と結婚するのは私なのに!」

 そうブツブツ呟くと、黄色いビーズのバックを掴み、出入り口のドアをそっと開けた。

「お戻り下さい」

 ドアの外には見張りが居る。

 部屋に戻ってバルコニーに出てみる。

 ここは2階、とてもじゃないが、外には出られない。

 その時ふと隣の部屋のバルコニーが近い事に気がついた。

「横なら行けそうね」

 決死の覚悟で隣のバルコニーを窺う。


 窓は開いていて、中に入る事が出来そうだ。

 なるべくヒールの無いぺたんこの靴を選び、その靴を投げる。

 そしてバックを投げ込んで様子を見るが人は出て来ない。

 そしてエリーはバルコニー目掛けて飛んだ。

 手すりになんとか掴まって、バルコニーに侵入することが出来た。

 靴を履き、バックを回収してカーテンの影に隠れる。


 するとシャワールームから女性の鼻歌が聞こえた。

 今がチャンスだ!

 エリーは音も無く部屋を進みこっそりドアを開ける。

 エリーの部屋の前には護衛が二人、何やら話し込んでいる。

 エリーはドア近くに掛けられていたショールを被り、そっと顔を背けて廊下に出た。

 まさかバルコニーを越えたと思わず、こちらには視線も向けなかった様だ。

 廊下をゆっくり進む、目的を果たす為。

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