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気持ちは止められない

 ミリエンヌは、久し振りにディラン様とお会いしていた。

 彼の方から会いに来てくれたのだ。


「ディラン様、お久し振りです」

「ああ、ミリエンヌさんも思ったより元気そうだ」

 そう言って、ディラン様は目を細めて私を懐かしそうに見た。

「新聞の件ですね」

「⋯⋯随分酷い事が堂々と書かれていたからね。デマと分かっていても、傷付いているんじゃないかと心配で」

「心配いただいて、ありがとうございます」

「⋯⋯その、大丈夫かい?」

「ええ、お陰様で」

「それなら良いんだ。でもあんまり無理はいけないよ」

 声が口調が、私の知っているディラン様と違う。

 明らかに柔らかく、噛み締める様な口調になっている。


「ディラン様も⋯⋯母から聞きましたわ。私の事をいつも気遣って下さっていると」

「私はその、何と言っていいのか。⋯⋯随分勝手なお願いをして婚約して貰いながら、大事に出来なかった事を今更ながらに後悔しているよ」

「それは⋯⋯?」

「うん、失うかも知れないとなってから、初めて君への気持ちに気が付いたんだ」

「そうですか」

「私は君が好きだよ、いや⋯⋯愛しているよ」

 彼の正直な気持ちを表す様な、穏やかな言葉だった。

「⋯⋯ありがとうございます」

 今のミリエンヌにはそれしか言えなかった。

「酷い事をした自覚もあったから、君の為には婚約を破棄した方がいいと思ったんだが、諦めが悪くて済まない」

「母を通して私の事を?」

「ああ。他に思い付かなくて。夫人にはご迷惑かも知れないが」

「私達お友達だと思っていました。直接来てくだされば宜しいのに」

 そう言ってから、それが残酷な言葉だと気が付いた。

 気持ちに応える事が出来ないなら、そんな風に言ってはいけなかったのかも知れない⋯⋯。


「君とタジミール氏が仲良くしている所を見るのが怖くてね、情けないだろう」

 そう言って、寂しそうに笑われた。

「⋯⋯」

「私の気持ちを押し付ける訳にもいかないから⋯⋯いや私の事よりも、タジミール氏とは大丈夫なのか?」

「別に恋人でも婚約者でも有りませんし」

「タジミール氏は、まだ告白もしていないのか」

「ここの所会えてもいないですし、今回の誘拐事件にかかりっきりになられていたので」

「はあー、そうか」

 彼は大きく息を吐いた。

「彼の気持ちは分かりませんわ」

「君は好きなんだろう?」

「⋯⋯ええ」

「うわっ、結構ダメージあるな」

「済みません、気持ちに応えられなくて」

「いや、ハッキリ振られた方が、諦めも付いて⋯⋯諦め、ごめん諦められない!」

「⋯⋯」

「好きでいる事は許して貰えるかな?」

「⋯⋯それは⋯⋯そうですね」

「ありがとう。ミリエンヌさん、君が大好きです。苦しい位」

 それ以上はお互い何も言えなかった。


 ただ、ディラン様の悲壮な気持ちが、痛い位に心に響いた。

 彼のあんな表情は今まで見た事がなかった⋯⋯。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ねえー!ノア様どうして来て下さらないの?」

 病院から退院していいと言われたが、ノア様に抱えられる様にして退院したかったので、医師からは渋い顔をされながらエリーは病室に居座っていた。


「エリーもう退院許可も出ているんだ。ホテルの部屋も取ってある。そろそろ退院しよう」

「はぁー?お父様頭おかしいの?ノア様の近くの家はどうしたのよ!」

「もう退去日を決めてあったから、引き払ったよ。ホテルに部屋を取ってある」

「それならタジミール家に連絡してー!タジミール家で療養する!」

「恋人でも婚約者でもない彼をこれ以上(わずら)わせる訳には⋯⋯」

「新聞には婚約者としてデカデカと載っているのよ!一人で(わび)しく退院なんて嫌っ!」

「そうは言ってもここは怪我や病気を治す所だから、いつまでも居座る訳には⋯⋯」


「お母様まで!何で何で!お見舞いにも来て下さらないなんて!」

「お前の状況は従者を通して知っていらっしゃるよ。お大事にとの事だ」


「はぁー?」

「大きな声を出すんじゃない!新聞にデマが載ったからには、来るおつもりは無いようだ」

「何で、計画が水の泡じゃ無いの!」

「計画?」

「お嬢様!」

 メイドが慌てて唇に人差し指を立てる。


「ああ、退院の時にお姫様抱っこで、新聞記者にインタビューを受けるつもりだったのに!」

「エリー滅多な事を言うもんじゃ無い!」

「そうですよ。私達もあなたがいない時に、アプローチしましたけど、全くその気が無いのが分かりました。諦めなさい」

 母親が呆れた様に言う。

「嫌よ、嫌!ノア様に会いたい!呼んで来てー!」

 癇癪を起こしてキーキー言っていると、医者がやって来た。


「外まで話が筒抜けです!ここは病院ですよ、重病の方もいらっしゃいます。ここはホテルでも無いです!早く部屋を出て頂けますか」

「はい、今日出ますから」

「お嬢様は興奮されているようなので、鎮静剤を打ちましょう」

「いや、眠らせる気ね!」

「我が儘もいい加減にして下さい!」

 医者も堪忍袋の尾が切れたのか、私に向かって()()を吐いた。

「私を誰だと思っているの?貴族令嬢よ!」

「私もこの国の貴族籍に名を連ねています。()()()の次男ですがね」

「す、すみません直ぐに出て参ります」

 父親がぺこぺこしだした。

 何よ、ノア様と結婚したら私は伯爵夫人なのよ!



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