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誤報

 犯人指定の日が来た。

 王都から少し離れた川にかかった大橋の上で、受け渡しをすると言う。

 この大橋は荷車や馬車、人の往来も多く、監視は難しかった。

 金を渡す者もモデリアーノ家の使用人が指名されていた。

 使用人は何故私に……と言っていたが、相当詳しく下調べでもしたのであろうか?


 橋の上や橋の下にも私服の衛兵が配置されて、ノアはその様子を少し離れた土手から見ていた。

 するとまた一人の子供が、金貨の袋を抱えて挙動不審になっていた使用人に近づいた。


 そして何やら使用人に囁くと、使用人は持っていた金貨の袋を、橋の下を通っていた小舟めがけて投げ入れた。

 小舟は麻の布で全体を覆ってあり、ゴトッと鈍い音をさせて小船全体を揺らし、身代金は船後部に落ちた。

 そこから手がにゅっと出てきて、投げ入れられた重い金貨の袋を回収した。

 そして流れに乗って川下へと消えた。


 ノアは川下の土手から、小舟を追った。

 衛兵達は子供の後を追っており、すばしっこい子供は馬車や荷車を巧みに目隠しに使い、見事に逃げおおせた。


 ノアは暫く行った先で、とうとう小舟を見失ってしまった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 そして……モデリアーノ家で、今か今かと待っていた両親の元に、台車に載せられたエリーとメイド両名が気を失った状態で発見されたと連絡が入った。

 すぐさま病院に運ばれて、涙の再会となった。


 ノアは嫌な予感がしてその場には出向かなかった。

 抱き付かれでもしたら目も当てられない。

 その代わりに従者を通して、無事の確認を取りそのまま帰宅した。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ノア様、ノア様はどちらなの?」


「エリー興奮するんじゃない。怪我も無いと医者は言っていたが、疲れているだろう。眠りなさい」

「そうですよ。ノア様なら明日にでも来て頂けるでしょう。今日はゆっくり休みなさい」

「どうも興奮されているようですな。注射をしておきましょう、ゆっくり眠れるように」

 医者はそう言うと、嫌がるエリーに睡眠剤の入った注射をした。

「何よ、折角(せっかく)感動の再会をしようと思ったのに!」

 傍に居た医者と看護師は顔を見合わせた。

 とても誘拐されていた令嬢の言葉とは思えなかった。


「先生、おかしくありませんか?」

「うむ」

 看護師の言葉に医者は何と答えて良いか分からなかった。

 衛兵からの情報で、少なくとも10日程監禁されていたはずだが、怪我も無く衰弱も見られず健康状態も良好であった。

 閉じ込められて居た割には小綺麗で、栄養状態も良かったようだ。

 共に見つかったメイドにしても怪我も無く、体の汚れも少なかった。


「前に誘拐された子供さんが救出された時とは、大違いですね」

 確かにそうだ、その子は何とか逃げ出そうとして高い窓に登る為、爪は()がれて打ち身や切り傷が絶えなかった。

 一週間にもならなかった筈だが、憔悴(しょうすい)しきっており随分長い間入院を余儀(よぎ)なくされた。


「ドレスも少しばかり汚れてはいますが、臀部(でんぶ)と前面の膝周辺しかありません。破れてもいないし……」

「随分待遇が良かったようだ」

「何だか引っ掛かりますね」

「そうだな、衛兵が調べるだろうからその時に話そう」


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 翌日になって、新聞が大々的に書き立てた。


【誘拐されていた隣国の貴族令嬢無事保護!】

【婚約者執念の捜索】

【愛の力で無事取り戻しに成功】


 これらは同じく救出されたメイドが、取材に対してコメントした内容だった。

 各紙はこぞって相手をノア・タジミール伯爵と掴み、好き勝手に書き立てた。

 但しまだ犯人達は捕まっていない為、大々的に捜査が行われた。


 隣国の手前王室も注目しており、ノアが傭兵時代からの恋仲であったかのような恋物語が出来上がっていた。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ノアさん、これはどういう事ですの?」

 義姉は怒り心頭で、新聞を握りつぶす勢いでやって来た。

 タジミール家では新聞を各誌取っているので、その一誌を見て仰天したらしい。


 ノアも執務室で、頭を抱えていた。

「どうもこうも、嵌められたとしか言えないだろう」

「それが分かっているのなら、同情でのお見舞いも止めておいて下さいね」

「勿論、もう関わるつもりは無い」


「我が家が世間から何と言われるか……頭が痛いですわ」

「義姉さん巻き込んでしまって済まない」

「せめてもの救いが、婚約者云々の件は複数の証言が取れる事です!」

「すぐさま弁護士を立てて、新聞社に抗議するつもりだ」

「訂正記事は大々的に載せて下さいね、ミリエンヌさんが見たら悲しみますよ!」

「そうだな、至急ミリエンヌさんにも誤解だと伝えなければ」


「それに関してですが、今外には出られない方が宜しいかと存じます!」

「もしかして、記者が張っているのか?」

「その様でございます!」

 傍に控えていた執事が言う。

「はぁー。それにしてもいい根性していますね、ノアさんから相手にもされていないのに」

「何がどうやったら、婚約者になるのだ!」

「もしかして、外堀を埋めているのかも知れませんわ」

「そうなると厄介だな」


「そうだ!良い事思いつきましたわ!」

「何かいい案が?」

「名誉棄損で訴えましょう!」

「そうか、その手があるな」

「それとミリエンヌさんのお父様は、王族とも親交が深いのだとか。協力を仰いでは如何でしょうか」

「相談してみよう」

「相手はしぶとい害虫並みの神経をしています。隙は見せないで下さいね」

「姉さんは随分辛辣だな」

「私も色々経験したので。ノアさんの甘さが今回の引き金です。反省してくださいよ!」

「分かりました」

「あの女がもしノアさんの嫁になったら、絶縁しますからね!」

 そう言ってぷりぷりしながら義姉は部屋を出て行った。

 ノアは憂鬱な気分を振り払うように、各所に書状を書いていった。


評価、ブックマークお願いします(≧◇≦)

それといつも誤字、脱字報告ありがとうございます。

感謝感謝で御座います!

これからもご指摘お願いします<(_ _)>

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