困惑
「お母様、それって ……」
「彼は一度しくじった。そしてあなたの大切さを痛感して、心を入れ替えた。最近思うのよ。私もその当時アイザックの事、絶対あり得ないって思っていたの。でもそうじゃなかった」
「お父様の愛に気が付かなかったんですか?」
「気が付いていたわよ。それはもうしつこい位会いに来ていたから。でもその時は別に心を奪われていたから、応えるつもりも無かったの」
「……」
「でもある時から彼は変わったの。多分自分の愛情を押し付けるだけでは、駄目だと思ったのね」
「お父様はそれからどうされたんですか?」
「私から離れる事を決断したのよ。でもあの人らしいのが、困ったらすぐに対応できる様に人を駐在させてね。それからは毎日、日記みたいな手紙もくれたわ」
「うわぁ、お父様の愛が重い!」
「ふふふっ」
いや、笑いごとでは無いよ……と母に声を大にして言いたい!
今で言う所の一歩間違えれば、『ストーカー』だ。
「何故だかあの時のアイザックと重なって見えるのよ。不器用な所がかしら?」
「お父様と?」
「アイザックの場合、私を遠くからでもずっと気にかけて思っていてくれたわ。ディラン様も今、少し離れたところから、あなたを気にかけているわよ。よく見てご覧なさい」
「お母様は何故そんな事……」
「ディラン様、あなたへの接触を控えているでしょう?私を通してあなたを気にかけているわよ。少し離れたところから見守ってくれているの。気が付かなかったでしょう?」
「ええ」
「何も押し付けているんじゃ無いの。タジミール伯爵と同じ立ち位置で、改めて見てあげて欲しいのよ」
「……」
「それとタジミール伯爵の最近の対応ね。手助けは良いのよ、人命優先ですもの。でもそれが生活全てを犠牲にしてはならないわ。それが愛する人に対してなら、理解できるのだけれど」
「それは確かに。ここの所その件に掛かりっきりで、新領主としてやるべき事が山積みなのにって、アンナさんが言っていました」
「今が一番大事な時期で地盤固めをして、新領主としての資質を問われる時期なのよ。領民の生活が掛かっているのだから。それを後回しにして……手助けの範疇を超えているわ」
「人命に係わる事なので……頼まれて、仕方なかったのではないでしょうか?」
「そう言って何時も後回しにされるの?きちんとした線引きするのも、領主の資質だと思うわ。出来る範囲で最大限の協力をする。捜査機関も動いているのだし、人も使えるのだから。大事な者の優先順位を間違えない、それが私の考えよ」
「でも私今の所、婚約者でも恋人でも有りませんから。行動を縛る事は出来ません、ノア様は自由なのですわ」
「あなたがそれで大丈夫なら良いのよ。でも何か少しでも心に引っ掛かる事があるのなら、本人に伝えるべきね」
「私も戸惑っています。彼女には無事に戻って欲しいですが⋯⋯」
「準男爵の所にずっと詰めているって、関わり過ぎている感じがして、あなたを任せるのに不安があるわね」
ずっと両親がノア様に向ける評価は良かったと思う。
それがこの件で頼まれて乗りかかった船だとしても、かかりっきりになっている現状に、不安視している様だ。
私がもやもやしている様に、母ももやもやしてしまうのだろう。
ミリエンヌは一日も早い解決を願った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「では私はこれで⋯⋯」
モデリアーノ家から自邸に戻ろうとしたノアは、準男爵から縋る様な目をされる。
「タジミール伯爵、お待ち下さい!随分長い事協力頂けて大変感謝しておりますが、私共此方で頼る者がおりません。どうかもう暫く⋯⋯いえあの子が無事に戻るまで、ご協力願えないでしょうか?」
「協力はしますが、捜査機関も動いていますし、今の所私にやれる事はありません。そろそろ業務も溜まっていますので⋯⋯」
「お願いします。あの子はこうしている間にもどんな目にあっているか⋯⋯。私達だけでは気が変になりそうです。どうか、どうか助けて下さい!」
「私にどうしろと?」
「ここに居て、不測の事態に手を貸して頂きたいのです。業務なら此方でやって頂いて構いません!」
「いや無理でしょう」
「お願いしますわ、ノア様。この通り⋯⋯」
そう言って夫人は手を合わせて縋り付く。
ここの所、ずっとこの調子で私に依存が強くなっている。
何度も引き止められて、イライラしていた。
「いえ、もう疲れておりますので帰らせて下さい」
「ああ、寝室なら用意して有りますし、入浴もできる様に着替えも此方に⋯⋯」
「止めて下さい。私は婿でも婚約者でも無いのです!」
「お助け下さい。私達を見捨てないで⋯⋯」
こう言って、あの二通目の脅迫状からもう二日も足止めされている。
一日目は夜遅くに帰れた。
しかし朝早くに迎えの馬車が来た。
何かあったのかと思って、急いでモデリアーノ家に着くと、何の事も無かった。
ここに居ても、二人の聞きたくも無い愚痴を聞くばかり。
このままでは娘の将来が⋯⋯と言いつつチラチラ二人の視線を感じる。
私ならば同情して嫁に貰ってくれないだろうか、という思惑が透けて見えてうんざりしていた。
協力するにしても踏み込み過ぎた。
完全にタイミングを逃した。
ノアは頭を抱えて、強引に帰途に就いた。
粘る様な執着の視線。
明日からは人を派遣して、極力関わらない様にしようと心に決めた。
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