ミリエンヌの初恋
人はどんな時に、自分が恋をしていると気が付くのだろうか。
何時もその人の事を探す時?
その人の傍にいるとドキドキする時?
他の異性と話すとモヤモヤする時?
ミリエンヌは初めて異性に意識を向ける経験に戸惑いを隠しきれなかった。
今まで男性との接触も皆無だった。
元婚約者のディラン様を除いて。
まぁ、あれは一時的な利害が一致した計画的なものだったけどね。
部屋の中を意味も無くウロウロしては溜息を吐く。
メイドのメイリンが心配して、オロオロしているのも気が付かない。
完全に自分の世界に入り込んで、悶々としていた。
見かねたメイドのネネが、母親であるパトリシアに報告した。
「お嬢様が何やら思い悩んでいらっしゃいます!」
そう告げると、母であるパトリシアはすぐさまミリエンヌの部屋へ駆けつけた。
「ミリエンヌ、何か難しい考え事なの?」
「……えっ、お母様」
「ネネもメイリンも心配していますよ」
「……あ、済みません。つい考え事をしていて……」
「珍しいわね、他の事に気がいかないほど集中するなんて」
「そうでしたか?」
「何?自覚無かったの?」
「まあ……」
「あらあら、とうとうミリエンヌにも春が来たのかしら?」
「お母様!」
母はけらけら笑った。
「相談に乗るわよ。話してごらんなさい」
「……」
「なぁに?話しにくい事なの?」
「そうじゃないの……でも……」
自分でも整理の出来ない複雑な感情に、どう言っていいのか分からなかった。
「お茶でもしながら……私の体験談も話すわよ」
「え、お母様の?」
「貴方が知らない話」
「是非聞いてみたいです!何なのですか?」
「ふふ。まずは落ち着いて。テラスにお茶の準備をお願い」
「はい。畏まりました」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「お母様、体験談って……」
テラスに移動して、二人分のお茶と菓子が用意された。
「先ず落ち着きなさいな」
「はい」
「先ずあなたを悩ませている事から聞きたいわ」
「……実は……」
そしてミリエンヌはここの所の出来事から、ノア様を気にする気持ち迄、全てを正直に話した。
黙って途中で口を挟む事無く、全ての話を聞いて母は静かに言った。
「初恋ね」
「初恋?」
「そう、今まであなたが異性に対してこんな気持ちになった事、無いでしょう?」
「確かに、そうですね。でもこの年で初恋って……」
「あら、幾つになっても初恋は初恋。この年ってあなた……」
「そうですね、所でお父様もお留守ですし、その辺のお話を聞かせて頂けるのですよね」
「そうね、私が実家で疎まれていたって知っているわよね」
「はい、何となく」
「三人姉妹の真ん中で、居ない様に扱われたのよ。それで自立の道を選んだの」
「私位の年ですよね」
「そうよ、平民として生きていこうとある領に身を寄せて、そこのエリアルおば様を頼ってね」
「……」
「そしてある商会に就職したのよ、事務としてね。そこの店長が初恋の相手なのよ」
「まぁ」
「素敵な方で、趣味も合って何度もデートを重ねたわ。この人となら……って、将来を夢見る位にね」
「でも叶わなかったんですか?」
「そうよ、ある日そこの商会長の娘が現れてね。彼を独占しだしたのよ。彼はとても仕事の出来る人でね、多分商会としても婿候補だったと思うわ」
「……」
「心中穏やかじゃなかったわ。始終ベタベタして見ていられなかったの。そして事件は起こったの。私を敵視したその人がね、よりにもよって私と同道していたエリアルおば様を突き飛ばしてしまったの。打ち所が悪くてね、頭を打ってしまって」
「……」
「まぁ、それがきっかけで彼の本質が見えたというか……」
「彼を信じていたのですね」
「そうね、もう無理だったわ。彼はその令嬢と婚約間近で、私の他にも手を出していた女性が居たのよ」
「……」
「結局きっぱりお別れして、彼は故郷に帰って行ったの。それを別の女性が追いかけて行ったらしいわ。そして結婚したって風の噂で聞いたわね」
「そんな男、馬に蹴られれば良かったんです!」
ネネが眉を顰めて言った。
「これが私の初恋の話」
「お父様はご存じなんですか?」
「ええ、全て見てきて知っているわ。傍で支えてくれたのよ」
「流石、旦那様!」
メイリンが夢見るように言った。
両親のおしどり夫婦振りは、この国でも有名だ。
「……で、何が言いたいかと言うと、よく見極めなさいと言う事よ」
「見極め……」
「恋に目が眩んだら、大概の事は些細な事と見逃してしまいがちよ。でもそう言う時こそ本質を嗅ぎ分けてね」
「分かりました」
「そして気持ちはあなたにあっても、流されてあちらを優先するような人なら、止めておいた方がいいわよ」
「それは……」
「大事な人を悲しませてまで、優先する事が問題なのよ。そんな人はこれから先、何度でもあなたを侮るわ。君なら理解してくれるとか何とか理由をつけてね」
「それは確かにそうかも……」
「それでいうとタジミール伯爵は、少々流されやすい所が有るようね。これが続くようなら問題よ、そんな人はミリエンヌにとって最良の人では無いわ」
「……」
「今は気持ちに余裕が無いのでしょうけど、惑わされる事無く冷静にね」
「はい」
「結婚は一生の事ですもの。じっくり選んだら良いわ。それと最近のディラン様もお勧めよ」
「えっ!」
「婚約破棄したけれど、彼は何だか変わったわ。彼も選択肢の中に入れたらいいわ。選択肢は沢山あった方がいいし」
思いもよらない母の言葉に、私は混乱した。
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久々の登場でおやっと思った方が大半でしょう。
でも……再び同じ土俵で対決させたかったのです。
さてミリエンヌはどちらを選ぶのでしょうか?




