第二の脅迫状
最初の脅迫状が届けられた翌日、またも本人の所持品だったハンカチと共に脅迫状が届いた。
予め張り込みをして捕まえたが、金で雇われた孤児で目だけしか出ていない男に雇われただけだった。
「ああ、エリー!エリー!」
モデリアーノ準男爵は夫人と共に泣き崩れた。
ただエリーの姉だけは、冷めた目をしてそんな両親を少し離れた所から眺めていた。
「あなたは冷静なんですね」
その様子を見ていたノアは声を掛けた。
「私は何だか嫌な予感がするだけです」
「嫌な予感?」
「ええ、大概当たりますのよ」
「そうなのですか。それは妹さんの危機という事でですか?」
「さぁ、私には見当もつきませんけど……自分の身に関わる事に関してだけ、そのような予感がするのです」
「あなたにも危険が及ぶと?」
「さぁ、どうでしょうか。でもこの予感がしたら、その場から離れる……それが今まで出来た唯一の対処法です」
「そうですか」
「あなたは薄情な姉だと言いますか?」
「⋯⋯ハッキリ言って分かりません。姉妹の関係性も有るだろうし、あなたがそうなさる理由がきっとあるのでしょう」
「ありがとうございます。中々分かって貰えない事が多いので」
「ご両親がいらっしゃるので、大丈夫でしょう。何かあれば知らせが行くでしょうから、その時に出直して来られたら良いと思いますよ」
「ふふふっ」
「何ですか?」
「いえ、妹が好きになる気持ちも分かるな⋯⋯と。では私は先に国に帰らせて頂きますわ」
その後彼女は両親に何か話していた。
少し言い合ったらしく、父親は怒り母親は泣いた。
多分妹を見捨てて帰る、冷たい姉とでも言われたのだろう。
そしてその後、護衛と共に国に帰って行った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
今日はアンナさんと二人でお茶を頂いていた。
「それで今、その件に掛かりっきりなんですね」
アンナさんの報告に成程と頷いた。
「もう、人が良いのか、乗りかかった船みたいな感じなのか呆れちゃうわ」
最近アンナさんは思った事をズバズバ言う様になってきた。
昔の内気な気の弱い令嬢では無い。
ミリエンヌの影響だとよく言われるらしい。
心の中で悶々とするよりも、精神衛生上良いらしい。
本人は最近スッキリ気分が良いのよ⋯⋯と笑って言っていた。
「でも、ここ王都は大きなスラム街も有りますから、心配ですよね」
ミリエンヌが言うと
「あの日護衛も付けずに、メイドと二人だったらしいわ」
「馬車も使えず乗合馬車だったのでしょう?知っていたら送りましたのに」
ミリエンヌが気の毒に思って言うと
「あの日の態度でそれは無いでしょう!あの方、義弟をお好きなのは分かりますけど、常識が無さすぎますわ。それともこの国の貴族を、舐めてかかっているのかしら?」
「貴族の礼儀は万国共通ですから、ただ単に教育が間に合って無いのでしょう」
「多分娘を貴族に嫁がせようと、準男爵になられたのでしょう?今からで間に合うのかしら?」
アンナさんは首を傾げる。
「そうですね、私達は極端な話、生まれた時から貴族令嬢として躾けられてきたから。でも元平民で自由にされていたのなら、窮屈に感じられるかも知れませんね」
そう言いつつ、ノア様にお会い出来ずに寂しい気持ちも有る。
不謹慎だと思いつつも、心に影が落ちる。
「義弟もたまには此方で息抜きしたら良いのに」
私の気持ちを察してか、アンナさんに慰められてしまった。
「今が大変な時期なのでしょうから、我儘言えませんわね」
そう言って心に渦巻く複雑な感情に蓋をして、無理に笑った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
私ちゃんと笑えていたかしら?
ミリエンヌは自宅に帰って、そっと鏡を覗いた。
何だか自分がひどく狭量で、薄情な人間に思えた。
「エリーさんは今、辛い思いをなさっているのだから⋯⋯」
そう言い聞かせるも暫くノア様に逢えていない。
「逢いたいわ⋯⋯」
ミリエンヌは、ここにきて初めての気持ちに戸惑っていた。
私の事を守って下さった『令嬢連続襲撃事件』。
手を貸して下さって、心強かったのを覚えている。
そして私が床に臥せっていた時に、お見舞いに通って下さった心優しい方。
目覚めてからもリハビリに付き合って下さって、励まして手を引いて⋯⋯。
取り留めもなく考えていたら、何故か頬に温かいものが落ちた。
「涙?」
指で拭って気が付いた。
「私、ノア様が好きなのだわ」
だから今回の件が、気になって気になって仕方が無いのだろう。
そして耳にする情報が、分かっていても⋯⋯複雑な心境になるのだ。
「私って嫉妬深かったのね」
何だかぐるぐる回っていた思考が、気持ちを自覚したことによってクリアになった。
エリー嬢にお茶会に乱入されて、迷惑を掛けるなと言われた事。
同情を引いて、善意に縋る様な真似をするなと言われた事。
何故エリー嬢の言葉一つ一つに棘を感じて、あんなに不快だったのか。
「ノア様は、私の事をどう思っていらっしゃるのかしら?」
あのエリーさんは、彼の隣国での傭兵生活を知っていると言う。
付き合いは私よりずっと長い。
私の知らない彼を見知っているのだと思うと、どうにも割り切れない。
今更どうこう言っても仕方ないのに⋯⋯。
恋は早い者勝ちでは無い、そうは分かっていても羨ましかった。
私の知らない彼の素顔を、彼女が知っていると言われた様で。
「ああー!もう!こんなの私じゃ無い!」
今まで感じたことのない感情に、胸を掻きむしられる様な気持ちだった。
評価、ブックマークお忘れなき様お願いします!




