利用
「犯人からの手紙です。身代金……要求です、ところでそちらの手紙は……」
「私宛に犯人からのようですが、何時から私が婚約者となったのでしょうか?」
「婚約者?見せて頂けますか?」
そう言って、ノアから手紙を受け取ると自分宛ての物とほぼ同じ内容だった。
ノアは拳を握り、怒りに耐えた。
「今はお怒りをどうぞ、収めて下さい。娘の命が掛かっておりますので。お叱りは、解決した後に幾らでも受けますので」
そう言って土下座をされては、ノアとしても何も言えなくなった。
「そちらの身代金も勿論、こちらで用意致します。何の関係も無い伯爵を巻き込んでしまいまして、申し訳御座いません。無事娘が解放されるまで振りだけで結構ですから、宜しくお願い致します」
ノアは複雑な心境だった。
それほど昔の話では無い。ほんの一年前まで傭兵とその雇い主として最後の仕事をさせて貰った。
付き合いも数年あり、商売に関しては厳しくお互いいい関係だった。
ところが娘の事となると、途端に甘くなりまるで別人のようだ。
商売にかまけて、年を取ってからやっと娘二人に恵まれたと聞いていたので、どうしても甘やかしてしまうのだろうと思っていた。
でも今回の件で痛感した。
「無事に怪我なく戻られる事を願っていますが、また他家のご令嬢方、その家人に迷惑を掛けたと聞きました。今度こそ戻られたら、自国に責任もって連れ帰り、この様な迷惑を二度と掛けないで欲しい」
「はい。自国に帰り次第、別の者と婚約させて、二度とこのような事が無い様に致しますので」
モデリアーノ準男爵は、約束した。
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その頃の、踏まれてもただでは起きない令嬢、エリー・モデリアーノ。
何とか犯人達を誘導出来た事で、この件を上手く利用出来ないかと思案を巡らせていた。
そして……ノア様を婚約者として名指しする事で、自分の事を世間に知らしめて、関係を誘導出来ないか模索中であった。
「お嬢様、あんな事を言って大丈夫でしょうか?」
「ねえ、言霊って言葉を知ってる?」
「いえ、何ですか?」
「少し前にね、『絶対叶わないと言われていた縁談』ってあったの、覚えてない?」
「ああ、あの有名な恋愛小説ですね」
「そう。私好きで擦り切れるほど読んだのだけど、それに出てくるのよ。言霊」
「それでどんな意味なんですか?」
「何でもね、言葉には不思議な力があって、同じ事を言い続けるとそれが叶うらしいわ」
「それはいい事を聞きました」
「私もね、やってみようと思うのよ!」
「叶ったら素敵ですね!」
「叶ったら……じゃ無いわよ!叶えるの!」
「でもどうやって……?」
その時エリーは閃いた!
「これが案外上手くいくかもしれないわ」
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「おい、随分楽天家なんだな」
犯人グループの主犯と思われるリーダーの男が言った。
「そんな事はありません!お嬢様はとても怖がっておいでです」
メイドがむきになって言うが、エリーは犯人に向けてニヤリと笑った。
「私いい事思いつきましたの!」
「はぁ?」
「私の提案に乗れば、あなた達は捕まる事なく大金を手にすることが出来るでしょう!」
「何っ?」
「そればかりか、成功報酬を私からもお払いしますわ」
「二重取りの上、捕まる事無くその上成功報酬か⋯⋯」
「私には目的がありますの。それを叶える為なら、何でもやるつもりですわ!」
「捕まらないと言う事は、あんたも共犯になると言う事だな?」
「その通りです。協力頂いたら、安全に大金が手に入る。悪い話では無いでしょう?」
「⋯⋯分かった、その代わり裏切ったら何処までも追い掛けて復讐してやる!」
「安心して下さい。私達は共犯。裏切る事はありませんわ」
「お嬢様、そこまでやる必要は⋯⋯」
「あなたは黙って!」
そう言って睨みつける。
「も、申し訳御座いません」
「分かれば良いのよ。この件が成功したらあなたにもボーナスあげる」
「わ、私にもですか?」
「そう。その代わり協力するのよ」
「はい。分かりました」
「そうと決まれば、打ち合わせをするか」
「そうね、綿密な打ち合わせをしないと」
「しかし、肝の据わったお嬢さんだ!」
「ふふふっ。私狙ったものを諦めた事が有りませんの。目的の為なら、どんな事でもやりますわ」
一人クスクス笑う令嬢を気味悪げに見つめた犯人グループのリーダーは
「俺はハイドン。他に背の高いのがカーター、丸っこいのがジェイ、目の細いのがリックだ」
「ハイドン、カーター、ジェイ、リックね。覚えたわ。これから宜しく」
「で、これからどうするんだ?」
「まず、このハンカチに手紙を付けて、投げ入れて頂戴」
「確かな証拠と言うやつか!」
「そう、そして受け渡しはどうしたら安全かしら?」
「⋯⋯」
「アイディアも無いの?あなた達、船かボートって持っているかしら?」
「そんなもん。持っているかよ!」
「そうね、借りると足がつくわね。盗んでこれる?」
「そうだな、それがいいだろうが、それでどうするんだ?」
「橋の上から川に投げ入れさせるの。そこに船でキャッチすれば良いんじゃない!」
「そう上手くいくかよ!」
「じゃあ、船に目印⋯⋯旗か何か立てておいて、その船に向かって投げ入れさせるの」
「失敗するかも知れないだろう!」
「それなら大丈夫。ね、確か使用人にそういうのが得意な者が居たわよね?」
「ミナトならそういうの得意な筈です!前に鳥が軒先に巣を作った時⋯⋯」
「ああ、もういいわ。ミナトが得意なのね」
「はい」
「じゃあ、名指しでやらせましょう」
「分かった、期待しているぜ」
「あなた達が裏切らなければ、大金が安全に手に入るわよ」
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