驚きの交渉
エリーは最初こそ気丈だったが、その内に涙が溢れて止まらなかった。
グズグズ泣いていると、扉前で耳を寄せていたメイドが
「お嬢様、誰か来るようです。階段を下る音が聞こえて来ました」
そう言って、部屋の隅にエリーを移動させて、自分が庇うように前に座った。
二人で身を縮ませて居ると、鍵がガチャガチャ音を立てて扉が開いた。
「よう!お二人さん。お目覚めですかね?」
確かあの時声を掛けて来た男だった。
そして後ろから二人の男が続く。
「ここは何処ですか?」
「んー、俺らの隠れ家。良く眠れたかな?」
「あなだだぢ、ごんなごどじてだだじゃずまないわよ!」
涙と鼻水で強く言ったものの、男達は笑い出した。
そしてあっという間に、真顔になって今度は睨みを利かせて言った。
「今どういう状況か分かってんの?」
「……」
「んー下手に逆らわない方がいいよ、何するか分かったもんじゃ無くてね〜」
「私達をどうする気ですか?」
「んー、どうしようか?今考え中!」
何が楽しいのか、三人で下品に笑い始める。
「ところでさぁ、名前聞かせて貰っていいかな?」
口調は優しげだが、目が笑っていない。
有無を言わさず、エリーは名前と身分を吐かされた。
「へー隣国の貴族って、護衛も無しに街をうろつけるんだ!」
「ぞれは……ズズッ、それは今日だけです!」
「ふーん、あんたいい顔してんね。高値がつきそうだ」
「高値?」
「んー、感謝してよね。いい奴隷商紹介するからさ」
「私達を売るつもりですか!それならお父様がお金を出しますから」
「あんた達に選ぶ権利は無いんだよ」
「そ、それでも、お嬢様を大変可愛がっておいでですから、幾らでも出すでしょう」
「んーどうすっかなぁー。受け渡し危険だしなぁ」
「奴隷商の方が、面倒がなくていいよ。ゴメンなー諦めな!」
もう一人の男が言って、話が纏まりつつ有る。
「私の父だけじゃなく、婚約者も大金を出す筈です!」
エリーはヤケクソになり、堂々と言ってのけた。
「⋯⋯二重取りか、それはお得だな」
暫く考えて、気持ちが動いた様だ。
「だから手出しをせず、二人と交渉したらいいわ」
「で?その婚約者って?」
「ノア・タジミール伯爵ですわ!」
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その頃モデリアーノ家では大騒ぎになり、ノアの元にも従者がやって来た。
「いや、おいでになって居ないが」
「お嬢様が行方不明になられました。図々しいお願いなのですが、捜索に協力願えないかと主人が申しております」
「あなた方、失礼な方ね。今日はそちらの自慢のお嬢さん、スペンサー家に乗り込んでいらしたのよ」
「そ、それは何時頃の話でしょうか?」
「3時頃だったかしら。また執事の制止も聞かずに、ズカズカお茶会に上がり込んで大騒ぎしたのよ。其方には抗議しようって話になったの」
「申し訳御座いません。しかしその後は⋯⋯」
「知らないわよ。乗り込んで来てミリエンヌさんに向かって、義弟に色目を使うなとか言いがかりを付けて、鼻息荒く帰って行ったわ」
アンナが憤慨して言ったので、従者は謝ることしか出来なかった。
「義姉さん、そんな事言ってなかったじゃないか」
「ミリエンヌさんに、あんまり気持ちのいい話では無いから、話さないでって言われてたの。酷い侮辱だったのよ」
「そんな事が⋯⋯」
「申し訳御座いません。少し目を離した隙に、抜け出されて。主人にもこの件は報告します。しかし一刻も早く見つけなければ。護衛もつけておられないのです」
「はぁ?何て考え無しなの!」
ノアはため息を吐いて、
「此方にご友人とか居るのではないか?」
「心当たりがありません。それで困っております」
「案外、カフェでお茶でもしているんじゃ無いの?」
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ノアにしてみれば、全く立ち寄り先なんて分かりもしなかった。
しかし年頃の令嬢で、護衛もつけて居ないと知ったからには、協力するしか無かった。
「こっそり抜け出したのなら、乗合馬車かも知れん。目撃情報を集める様に」
「畏まりました。しかし降りたのは何処でしょうか?絞り込みが出来れば、探し易いのですが」
「そうだな。メイドと二人なら賑やかな場所が有力かな。目抜き通りを中心に聞き込みをしてくれ」
「はい、では手分けして」
「私はモデリアーノ家の借りている屋敷に行ってみる。何か情報が入っているかも知れんからな」
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ノアが訪ねると、そこには憔悴しきったエリー嬢の両親が座って居た。
「タジミール伯爵、来て頂けたのですか」
「ご心配ですね。その後連絡は有りましたか?」
「いえ、何も」
「そうですか。だとしたら最悪の事も考えておかなくてはいけませんよ」
「攫われたと思われますか?」
「そうですね、ここ王都は大きなスラム街も有りますからね。身代金要求の手紙が届くかも知れません」
「ああ、エリーなんて事!」
夫人はソファーに座ったまま気を失った。
夫人を使用人達が運び出したのと入れ替わりに、使用人が飛び込んで来た。
「ご主人様、門の前にこんな手紙が」
其処には父親ばかりで無く、ノア宛にも手紙が投げ込まれていた。
「私宛?」
其処には婚約者タジミール伯爵と記されていた。
「これは一体?」
ノアは巻き込まれてしまった事をひしひしと感じた。
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