エリー逃亡
「お嬢様、いけませんわ」
モデリアーノ家のエリー付きのメイドは慌てて言った。
「これしか無いのよ。明日にはここを引き払って、隣国へ帰る事になるのよ!」
エリーは必死の形相で言った。
「でも……」
「やるだけやらないと、きっと一生後悔するわ。ねえお願い、協力して!」
「それでも、旦那様を欺いてここから抜け出すなんて、無理です!」
「大丈夫、ここは治安の良い王都よ。人に紛れれば何とかなるでしょう。ねえ、お願い!」
エリーお嬢様の命令で、今迄は疑問も持たずにただ従ってきた。
しかしいくら王都とはいえ、護衛も付けず二人だけで抜け出すのは無謀と思える。
「ノア様を如何しても諦められないの!」
「お嬢様の一途なお気持ちは、痛いほど分かります。でも旦那様の決定に従わないと……」
「先程ね、報告書が届いたの。ノア様に群がる害虫を炙り出す為の。そしたらあの悪名高き女の娘がチョッカイを出していたのよ」
「それはどういった……?」
「ロザリンドって、この国では有名な悪女なんですって。その娘がノア様に接近して、色仕掛けをしているらしいの」
「それは大変です!」
「でね、その女絡みの事件で、ノア様が協力されたのを良い事に図に乗って。何だかノア様優しいから、つい同情されたのね。だから私からはっきり言ってやろうと思うの」
「何をですか?」
「いい加減に、ノア様を解放して頂戴って。もう事件も解決して平穏が戻ったのだからって。婚約者から婚約破棄されたからって、ノア様に手出しをしないで下さいって」
「そうですね、それが事実なら言って目を覚まさせないと!」
「でしょう?」
お嬢様はにっこりと自信有り気に笑っていらした。
「それと面白い事に、何とその婚約破棄された相手、先日お会いしたハンサムな方いらしたでしょう?」
「あの馬車の方ですか?」
「そうそう。あの方氷の貴公子って、有名なプレーボーイらしいのね。あの方だったのよ!」
「まぁ!」
「ね、びっくりでしょう?あの事件で紳士お二人、仲良くなったのね」
メイドは詳しくなかったが、事件があって怪我を負わされた令嬢達の訴えで、事件は解決した位の知識しか持っていなかった。
何せ隣国の出来事で、興味も無かった。
「あの、ではそのロザ……何とかの娘が、お二人を狙っているのですね!」
「正解!だんだん読めて来たでしょう?母娘って似るのね」
「それならば、危険を教えて差し上げないと」
「男性はそういう所、疎い所がお有りになるから。気を利かせて教えて差し上げれば、ねっ、いい考えでしょう?」
「お嬢様、流石です!」
メイドは盲信する余り、感心して何度も頷いていた。
その時には、当初の目的だった『お嬢様の暴走を止める』という事をすっかり忘れていた。
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エリーの借りた一軒家は、短い期間だったにもかかわらず、彼女の悪癖『買い物中毒』の為に荷物で溢れ返っていた。
気に入った物を我慢するという概念が無く、手当たり次第に買いまくった所為でもあった。
家を引き払うに当たって、使用人達はその荷物の整理や梱包に追われて慌ただしく、エリーから注意が逸れていた。
父親は書斎にこもり、執事と謝罪についての打ち合わせを行っていた。
母親と姉は隣国の珍しい品を求めて買い物に行っており、エリーにとっては今が絶好のチャンスと思われた。
「お嬢様、今なら大丈夫です」
「さぁ、行くわよ!」
護衛も連れず、二人で手を繋いで裏口からそっと出る。
食材搬入用の木戸を抜けて、人波に紛れて見事に脱出に成功した。
「お嬢様、これからどうなさるおつもりで?」
「大丈夫、ちゃんと考えてあるの」
そう言うと、なるべく人目に付かないように、二人で手を繋いで急ぎ足で乗合馬車に向かった。
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「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
門番がほとほと困ったと言って、執事に連絡を入れて来た。
執事が出迎えて対応したが、女性が二人で護衛も付けずに、ミリエンヌお嬢様に会わせろと埒があかなかった。
「私はエリー・モデリアーノ。隣国の貴族よ。こちらのミリエンヌ?に会いたいの」
「今、私どものお嬢様を呼び捨てになさいましたか?」
「ああ、ごめんなさい。つい!ミリエンヌさんに是非ともお会いしなきゃいけないの。いいから取り次ぎなさい!」
「お約束も、先触れも頂いておりません。そのような方をお通しする訳には……」
「通らせてもらうわよ!」
「ちょっと、困ります!何をなさるんですか?」
隣にいたメイドがすかさず、執事を押しのけた。
打ち合わせ通りに。
「ミリエンヌさんー!どちらにいらっしゃるのぉー!出ていらして!」
大声で二階に駆け上がり、それらしき方向へと進む。
しかし公爵家は広く、ドアもずらりと並んでいた。
広い廊下で騒いでいると、聞きつけたメイドや使用人達がわらわら出て来た。
「ミリエンヌさんのお部屋は?いらっしゃるんでしょう?」
仁王立ちで鼻息も荒く、メイドの一人に睨みを利かせて言う。
「侵入者です!取り押さえて!」
執事の声が響いた。
エリーの連れて来たメイドは取り押さえられて、青い顔でウンウン言っていた。
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