黄色い爆弾娘
ノアはほとほと困っていた。
何処で調べるのか、ノアの行く先々に彼女が現れる。
隣国で知り合ってからと言うもの、しつこく付き纏われた。
しかしその当時は平民であった事、傭兵活動でひとところにじっとはしていなかった事もあり、それほど気にはならなかった。
しかし王都のタジミール邸という拠点が出来た事で、その現象が顕著になった。
彼女はどうも近くに家を借り、そこから意欲的に活動しているらしい。
相手の父親には、抗議の手紙を出したがその後無しの礫。
確かに執事に受け取りのサインを貰っている事から、目は通しているのだと思う。
その内親が慌てて、連れ戻しに来るだろうと、安易に考えた自分が馬鹿だった。
謝罪の手紙すらない。
あの親にして、この子ありか。
「エリーさん、この際はっきり言いましょう。私は貴方と婚約の意思はありません!好きでもありませんし、このように付き纏いをされると迷惑です」
「そんな、ノア様酷い!」
そう言って人目も憚らず、大声で泣きだす。
まるで子供の様だ。
本当に勘弁して欲しい!
「あなた方が親元に連れて帰って下さい!」
そう従者やメイドを睨んで言うが『申し訳ございません』としか言わず、また繰り返される。
「このような振る舞い、貴族令嬢になられたなら恥ずべき事ですよ」
「ノア様、ノア様の婚約者になればそのような評判なんて……」
「いいですか、しつこい女は嫌いです!隣国に大人しくお帰り下さい」
「愛しています!傍にいたいのです!私はノア様の運命の女ですから」
「そのような事は絶対にありません!全く勘弁してくれよ!」
「気が付いておられないだけです!私が傍にいれば全て上手くいきますからぁー」
今日もまた振り切る為に、馬車でという訳にもいかず。
馬に乗り、撒く為に遠回りをする。
お蔭でとんだ時間のロスだ!
思わず舌打ちしたくなる。
毎回、愛しているだの運命だの、うんたらかんたら……。
頭にウジでも湧いているのかと思う。
妄想なら、頭の中だけで勝手にやって欲しい。
お蔭で、最近は周りからも不審な目で見られて、噂も立てられる。
隣国で、結婚の約束をしたのに捨てたとか……。
相手をその気にさせるような言動にも心当たりが無く、ほとほと困り果てていた。
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今日たまたまディラン氏と出くわした。
彼方は馬車で私は馬だったが。
それで馬車を止めて、相談する事にした。
「……で、アンナ夫人が昔のケイトリンにそっくりだと言ったのか」
ディラン氏はここの所けじめをつける為か、意識して義姉さんの事を夫人と呼ぶようになっていた。
「そうなんだ。先日お茶会に乱入して来て、義姉さんはカンカンで」
「あのアンナ夫人がそこまで怒るとは、相当酷いものだったんだな」
「そうなんだよ。挨拶もろくに出来ないし、空気も読めない。はっきり拒絶しているのに、思い込みだけで周りも止めようとすらしていないんだ」
「それは周りにも問題アリだな。甘やかすにしても限度を超えている」
「親には面識あるのか?」
「ああ。仕事を請け負った事があるからな。その時は常識のある好人物に見えたんだが」
「仕方ないから、代理人でも送って話をさせるんだな」
「其れしかないか」
「隣国だけに面倒が多いな」
同情気味にディラン氏は言う。
彼もそのような被害に長年苦しんできた。
その所為で、義姉さんとも婚約を破棄されていた。
「それにしてもあのケイトリンとそっくりとは、恐ろしいな」
「そうだろう?」
「ああ、思い込みの激しい人間ほど、怖いものは無い。自分の欲望が叶えられないと知ったら、何をするか……」
「……」
「まぁ、流石にケイトリン程邪悪じゃないだろう」
「そうだと良いんだが」
「私の気持ちが分かってくれたか?」
「ああ、本当に大変だったんだな」
「そうだな、長かった……」
その時、外が俄かに騒がしくなった。
「あの、ディラン様。お話したい方が……ちょ、ちょっとお待ちください!」
「ノア様いらっしゃるでしょう、見つけたぁー!」
「……⁉」
私は目を白黒させた。
「まさか馬を……」
「凄い執念だ!」
ディラン氏が苦笑いで言う。
仕方なくディラン氏が外に出た。
「まぁ、素敵な方。ノア様のお友達?」
「ああ。ディラン・ホワード氏だ」
「ディラン・ホワードです」
「私、隣国から来ましたノア様の恋人の、エリー・モデリアーノですわ」
「恋人じゃない!」
「その内そうなりますもの」
「ならない絶対に!」
「それにしても、ディラン様も素敵な方ですわね……」
「ははは、お褒め頂いて……」
「姉様にピッタリですわ!」
「君の姉さんはもう婚約者がいるだろう!」
「あら、冴えない男なんですのよ。ディラン様なら、姉も大喜びで婚約を破棄しますわ」
「いや、私は間に合っているから。辞退させて頂くよ」
「姉様、顔は私より落ちますが、性格が……そう性格が良いのです!」
「性格が良かろうと、私には決めた方が居ますから。其れに勝手にそんな事を言って、お姉さんが困られますよ」
「姉なら退屈してますから、呼べば直ぐに来ますわよ。何なら呼びましょうか?」
「いや結構!これ以上ごり押しするならば、抗議させて貰うよ」
「いやーん、怖ーい。ノア様ぁー」
そう言って、私の腕にこれ幸いと胸を押し付ける。
全身が総毛立った。
そして改めて思った。
正式に抗議させて貰おうと。
選りにも選って、ディラン氏は公爵令息だ。
準男爵家がそのような事、冗談でも言っていい事では無い。
「正式に抗議して、謝罪を要求させて貰う」
腕を振りほどき、エリー本人と供の者に向けて、低い声で宣言した。
「覚悟しておくんだな」
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