思いもよらぬ決断
「それで如何なったのかな?ディラン君」
お父様がディラン様に聞いている。
私は出席者名簿に連なる方達と過去にトラブルが無かったか、確認していた。
それでいい加減に疲れてしまって、母と肩寄せ合ってソファーにぐったり座っている状態だ。
「多分、給仕の使用人男性にやらせたのかと」
「それは確かかね?」
「でもその使用人が特定出来ませんでした。目撃した令嬢に確認して貰いましたが」
「我が家の使用人は昔から働いてくれていたり、その縁者であったりする者ばかりです。身元もしっかりしているし、そんな事をする人間は居ないと断言出来ます」
主催者であるラッセル侯爵が言う。
「外部の人間を補充で雇ったという事は?」
「いや、今日の規模だと有りませんね」
「だとしたら誰か外部から潜り込ませたのだろう。残念だが証拠が見つからん」
「泣き寝入りですか」
私が言うと仕方がないと言う雰囲気になった。
「ラッセル侯爵、使用人達に見慣れぬ給仕の者を見掛けなかったか、聞いて貰えますか?」
「直ぐ執事に調べさせよう。では少し席を外します」
そう言うと、ラッセル侯爵は部屋を出て行った。
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「実は私にいい考えが有ります」
ディラン様が提案する。
「その令嬢を密かに尾行させるかね?」
父が言う。
「いいえ。これには皆さんの協力が必要です。ミリエンヌ嬢、私と婚約してくれませんか?」
「婚約?」
何故嫌がらせの犯人を捕まえる話で、私の婚約の話になるのか?
そもそも私に婚約者がいないと知っていた事に驚いた。
「今回だけなら我慢も出来るかもしれません」
「また起こると言いたいのかね?」
「しかし何が目的か分からない状況では、そう見ていいでしょう」
「それに関しては我々が守ろう」
「それでは根本的な解決にはなりません。常に不安が付き纏う。それでパーティを楽しめますか?パーティだけとも限らないし」
「不安で楽しむどころか皆さんを疑ってしまうかも……」
「ですから婚約して様子を見ましょう」
「……」
「よく考えて下さい、今後も危険は常にあり、エスカレートするでしょう」
「確かにそうだが、婚約とは!」
「如何するの、ミリエンヌ。このまま泣き寝入りするの?」
母もディラン様の提案に、心が少し傾いている様だった。
「お母様、泣き寝入りは嫌ですが、ディラン様は流石に婚約者がいらっしゃるのでは?」
「いや、居たんだが破談になってね。嫌がらせに耐えられなくて⋯⋯別の人に嫁いだよ」
「その方も嫌がらせを⋯⋯?」
「気の弱い、優しい人だったんだ。それが小さな嫌がらせが段々と大ごとになってきて⋯⋯」
「お好きだったんですね」
「幼い頃の刷り込みかな?婚約していたからその時はね。でももう気持ちはないよ」
そうは言ったが、ディラン様の目の奥には悲しみが見えた気がした。
「その時の犯人は?」
「捕まえられなかった。だから今回も同じ人物によるものだと思う」
「でもミリエンヌにもしもの事があったら」
父はあくまで慎重派だ。
「勿論全力で守ると誓います。そしてもし犯人が分かって償いをさせたら、破談で構いませんから」
「如何?受ける?」
母も心配している様だが悪い話には思えなかった。
「でもそれはつまり私が餌になる訳ですよね、少し怖いです」
「お断りします。家のミリエンヌにはさせられません」
「……そうね、やっぱり危険だわ」
父母がキッパリと断った。
その気持ちがミリエンヌには嬉しかった。
二人の愛情で、世間の悪意を跳ね返すだけの勇気を貰っていたと強く感じる。
言われっぱなしだった幼い頃、二人が全力で護ってくれたからこそ……。
自分の中で事実として受け止め、それを昇華させていった。
私には家族がついていてくれる!
それが不安な気持ちを吹き飛ばしてくれた。
「お父様、お母様。私婚約します!」
「ミリエンヌ、危ない目に遭うんだ。怪我をするかもしれない!」
「そうよ。婚約者探しは少しお休みしたって良いんだから」
「私、決めました!悪い事もしていないのに、私が不利益を被るのは納得いきません」
これによってミリエンヌとディランの婚約が決まった。
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