表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/74

ミリエンヌの涙

 それからミリエンヌは両親の前でわぁわぁ泣いた。

 それはまるで小さな幼子の様だった。

 そしてひとしきり泣いて、静かに語り始めた。


 実父が亡くなる前に、父であるアイザックの前妻からご丁寧に知らされていた、実母の事。

 それを言う時に思い出すのが、過剰すぎる香水の匂いと、長い爪の指にこれでもかとはめられたギラギラする沢山の指輪。

 そしてやや乱暴に頭を撫でながら、可哀想にと言う言葉とは裏腹な、ニヤリと笑う赤くギラギラした口元。


 ひそひそと繰り返される人々の噂話と嘲笑(ちょうしょう)

 時には悪意を幼かったミリエンヌに直接向けられて、傷ついた事。


 今迄知らなかった事もあって、両親は苦し気に顔を歪めた。


 実父が亡くなって、これからどうなるのか不安に(さいな)まれた時に、目の前に差し出された温かい手。

 その時は藁にも(すが)る気持ちで思わず握ってしまったが、心の奥底ではそれが本当に良かったのか悩んだ事。

 現に今でもそういった扱いを良く受ける。

 自分だけならいいが、何の罪も無い弟達にも被害が及んだら……。


 そんな思いが常にあったと瞼を腫らし(なが)ら、告白した。


 そして両親に打ち明けたら心が多少軽くなったのか、憑き物が落ちたようにスッキリした表情に戻り、コトンと寝てしまった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「この子なりに考えての事だったのね」

 少しでも役に立ちたいというミリエンヌの心を察して、パトリシアは言った。


「それにしても幼いミリエンヌの耳に、わざわざそんな事を吹き込むなんてあの女は!」

「前の奥様だった方でしょう?」

「ああ、それこそ政略結婚で派手で金遣いの荒い女だったが、陰でミリエンヌを傷つけていたとは」


「他人の悪意に晒され過ぎて、あの子の感情が閉ざされてしまったのね」

「気が付かなかったよ、言い返す強さがあったから」

「それは知らない方々限定だったのかも知れないわ。親戚や知人にそんな扱いを受けたら……」

「そう言われれば確かにそうだ。見知らぬ人間には言い返す事が出来たが、より近い人間なら我慢して心に仕舞ってしまうだろう」


「親失格ね、今まで気が付いてやれなかったわ」

「いやパトリシアは世界で一番素晴らしい母親だ!」

 アイザックは拳を握って、力説した。


「私にも辛い時代があったわ。でも今こうして過去のものと出来たのは、貴方が傍にいてくれたお陰ね」

「いや私こそパトリシアが居てくれたから、世界で一番幸せなんだよ」

「いつもそう言ってくれてありがとう。この子にもそんな人に、出会って欲しいわ」

「ああ、そうだな」

 アイザックはそう言って、パトリシアの膝に頭を乗せて眠る娘の頭を、そっと優しく撫でた。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 翌朝、父が宣言した。

「ミリエンヌの婚約者探しを公平にやる事にした」


「今まで公平じゃなかったの?」

 アッシュが質問する。


「今までの事は全てまっさらにして、これからミリエンヌの事を、世界で一番幸せにする男を探すのさ」

「……と言う事は、元婚約者のディラン様も当然入るって事?」

 ローガンが突っ込みを入れる。

「勿論、そうだ」

「フーン、()()ディラン様ねぇー?」

 ローガンが含みのある言い方をした。


「何か言いたいようだが、平等にチャンスを与えるんだ」


「ハイ!僕、ノア様が良い!」

 アッシュがすかさず言った。

「そうだよな、ノア様一択じゃないの?」

 ローガンがもう決まった事のように言った。


「いや、これからもっといい男が居るかもしれん。幅広く探そうと思う」

「社交に中々出てこられない方もいらっしゃるから、案外良い方が居るかもよ」

 母が言うので、私は自然に任せる事にした。


 私自身は友人達と遊ぶので忙しい。

 同年代の気の合う仲間で、昨日もそれは楽しかった。

 皆で今話題のお芝居を観て、笑って、泣いて意見を言い合って、時間があっという間に過ぎて行った。

 私は今迄を取り返す様に、楽しい事も続々計画中だ。


 そして昨夜、胸の内にくすぶっていた今迄の思いを両親に聞いて貰って、悩んでいたのが嘘の様にスッキリ出来た。

 聞いて貰うだけでも、心は軽くなるのね。

 ミリエンヌは改めて、この家族に恵まれた事を感謝した。




評価、ブックマークお願いします!(´艸`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ