判決
「被告人は勝手な発言を控えなさい」
裁判長の声が響く。
しかし当の本人は、救世主が現れたかの如く、頬を紅潮させて目をキラキラさせた。
ケイトリンの母であったモナーク夫人が化け物と言ったにもかかわらず、起死回生の一手になると踏んでいるかのようだった。
裁判長が静かに問いかけた。
「ではモナーク夫人にお聞きします。あなたはこの一連の事件に関して、娘であったケイトリン被告が関わっていたと思いますか?」
「はい、全てそこに居る被告人と、実母で有るデライラの仕組んだ事だと思います!」
「お母様!」
身を乗り出そうとしたケイトリン被告が両側にいた刑務官に止められる。
「証拠として、私が毎日付けている日記と帳簿を持ってきました。付箋の部分が、被告人の行動がおかしかった部分です」
数冊の鍵付きの日記帳と帳簿を差し出した。
「この帳簿は、私が領地に居た夫から任されていた物です。日記の日付の前後で、家の金庫から大金を持ち出しています。そしてミリエンヌ様襲撃の際は、私が見咎めたところこの家に必要な出費だと言い張って、これがその男に払われた報酬の金貨だと思います」
裁判官が日記と帳簿を見比べて、裁判長に頷いた。
「これで言い逃れはできませんよ。被告人は実母と再会して、自分の邪魔になるだろう令嬢の排除を思い付いた。実母を通して裏社会のトニーとその配下を雇い、まずアンナ・ホワイトに嫌がらせを開始。そして強盗を装い家を襲撃させました。次に自分と競っていて、脅かす可能性のあったロレーヌ・サットンを襲撃させて怪我を負わせました。そしてミリエンヌ・スペンサーの襲撃を計画して怪我を負わせ一時は生命の危機に陥らせました。弁護人、反対尋問をお願いします」
「有りません」
「この無能!早く私を無罪にしなさいよ!」
弁護士に向けて言いはしたが、弁護士は意にも介さなかった。
「……では、モナーク夫人、なぜ薄々分かっていながらお止めにならなかったのですか?」
「私は被告人が実子ではないことを、知っていました。私が死産して生死を彷徨った時、夫が娼婦に産ませた子を実子として引き取った事を知りました。しかも私の調べでは、夫の子ですらなかったのです。しかし、子供には罪は無いと思い、私なりに一生懸命に躾をして教育しました。しかし実母と再会したと思われるあたりから、私を蔑ろにしだしたのです。元々金遣いも荒かったのですが、大金を持ち出して。それで証拠を残そうと思ったのです」
「つまり犯罪計画を薄々分かっていたと?」
「私に止めることが出来ますか?私がそんな事をすれば、口実を与え直ぐさま事故に見せかけて、殺されていたでしょう」
「分かりました。ありがとうございました」
「チョット何言ってるの?殺すだなんて!」
ケイトリンが目を見開いて、噛み付いた。
「これに関しては、デライラ被告から自白が取れています。デライラ被告は夫人を離婚させるか、亡き者にして、モナーク家に後妻として入り込むつもりであったと。ディラン氏に無事ケイトリンが嫁入りしたら、自分の長男をモナーク家の跡取りに据える計画だったようです」
デライラの取り調べ官が証言して、ケイトリンはもう道が閉ざされたのを悟った。
「呪ってやる!みんな不幸になればいいのよ!」
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「被告人、判決を言い渡します。その場に立ちなさい」
三人はノロノロと立ち上がった。
「まず実行犯、トニー。絞首刑に処す。手下は生涯炭鉱刑とする」
「次に、デライラ。殺人未遂、暴行等の共犯関係が認められたが、本人は反省して供述も素直に応じた事により、生涯娼館落ちとする。その際、頬に焼印を入れる事とする」
「最後にケイトリン。犯行に情状酌量する要素なし、反省なしと見做し……毒杯刑とする」
「何で私が死刑なのよ!ふざけんなー!」
どんなに暴れても罵っても判決は覆らない。
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裁判所を出た所で、被害者三人は新聞記者や野次馬に囲まれた。
「皆さん、判決を受けて一言ずつお願いします」
メモを抱えた記者達は、私達に詰め寄った。
観念した私達が、仕方無く口を開こうとした時。
「記者の皆さん、お気持ちは分かりますがどうかお三人の心情を察して下さい!」
「そうです。私の婚約者も回復したばかりですし、他のお二人も相当な心労で疲れています」
ノア様とディラン様が間に割り込んで、代わりに気持ちを代弁して下さった。
しかしその言葉に、怯む事無く明日の新聞にスクープとして書きたいが為に、容赦がなかった。
「お集まりの皆さん、では一言だけ。私がミリエンヌ・スペンサーです。三人を代表して、事件が無事解決を見て嬉しく思っております。捜査して下さった皆さんに感謝しております。そしてご心配いただいた皆様、私達はそれぞれ怪我をしたり、心に深い傷を受けました。でも支えてくださる方々のご尽力で、やっとここまで来る事が出来ました。今後は回復に努めたいと思いますので、個々の取材はお受け出来ない事をお詫び申し上げます」
そう言って三人で手を繋いで用意されていた馬車に乗り込んだ。
「終わりましたね」
ロレーヌさんが言う。
「もう怯えなくて済むのですね、スッキリしました」
アンナさんは胸を撫で下ろした。
「これからしばらくは身辺が騒がしいでしょうけど、頑張りましょう!」
私が言うと
「今度はうちでお茶会しましょう!」
ロレーヌさんの言葉に笑顔で頷く事が出来た。
三人の長い一日が終わった。
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