ディランの心の内
私たち親子は耳を疑った。
「私を愛しているの?」
「勿論、そうだよ」
「ミリエンヌ、聞いていた話とずれがある様だが⋯⋯」
「私も意味が分かりません。お父様、呼び出して早々申し訳無いのですが、二人で話をしたいのです」
「それが良いだろう。よく話し合って決めなさい」
「はい。そうさせて頂きます」
父が退出した部屋で、ディラン様と話し合う事にした。
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「ディラン様、先程の⋯⋯その⋯⋯私を愛しているとか言う⋯⋯」
「ああ、その事は本当だよ」
「でもディラン様にはアンナさんという方が⋯⋯」
「その件は済まなかった。勘違いさせた様で」
「勘違い?」
「でも仕方無いよな。婚約者より幼馴染を優先したのだから」
「そ、そ、そうですよ。誰が見たってアンナさんがお好きだと思いますもの」
「今日はね、あの時の気持ちも含めて話をしに来たんだ」
「は、はい」
「意見があっても最後まで聞いてくれないかな?その後、答えるから」
「分かりました」
「まずは、私の気持ちは今話した通り、君が好きな事に変わりは無いよ。この気持ちに気が付いたのはここ最近だから、みんなが戸惑うのも分かるよ。全ては私が蒔いた種だからね」
「⋯⋯」
「まずはアンナの事から話すよ。アンナは君が知っての通り幼い頃からの婚約者でね、刷り込みって言うのかな。ずっとそうして過ごしてきたから⋯⋯多分、情の様なものだと思う。家族愛に近いと言うか⋯⋯」
「⋯⋯」
「婚約破棄になった経緯もあって、彼女には守れなかった後悔や罪悪感、みたいなものも混じり合ってね。言葉にすると難しいが、再会した時に今度こそ守ってみせるって、贖罪の様な気持ちだったと思うんだ」
「⋯⋯」
「あの頃にしてやれなかった事をしなくては⋯⋯と思い込んだと言った方が早いかな?君は何でも跳ね返して強く見えた。だから甘えてしまったんだと思う、婚約者としての君に」
「⋯⋯」
「君の事を守るのを条件に、婚約して貰っていたのに不誠実だったと思う」
「⋯⋯」
「これは実に不甲斐ない事で、君なら分かってくれる気がしていた私の最悪の行動だったと思う」
「⋯⋯」
「申し訳無かった。本当に済みませんでした」
そう立ち上がってディラン様は、頭を深く下げた。
「分かりました」
「ありがとう。この位で許されるとは思っていないから。情けない事に、君を失うかもと思った時に、胸が張り裂けそうで。その前から予感は有ったんだけど」
「予感?」
「君を好きな気持ちが本物だと言う、予感」
「⋯⋯」
「どこが好きなのと言いたげだね。君の内面を知ってからかな?君の抱えてきたものの全てを理解して、共に手を取って暮らしていけると思った」
「⋯⋯」
「私は未熟だ、人としても男としても。だから側に居て、見ていてくれないかな?私自身が変わるのを」
「⋯⋯」
「時は戻せないけど、これから変わる事は出来ると思っているし、変わりたいと強く思っている」
「⋯⋯」
「出来れば、出来ればだけど⋯⋯君のご両親の様になりたい!」
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ディラン様の懺悔にも似た独白が終わった。
私はそれにどう応えたら良いのか、気持ちが決められずにいた。
婚約破棄するものとばかり思っていて、ディラン様の心の変化に気が付かなかった。
私が黙っていると
「ゆっくり考えてくれて良いよ。裁判も始まるから、それが終わってから返事を聞かせてくれるかな?」
「分かりました。突然で驚いています、思っても見ない事で」
「分かるよ、蔑ろにしておいてそれは無いだろうって、思われる事位」
「⋯⋯」
「自分の中で、女性は常にか弱くて、直ぐに泣いたりして助けを求める。そんな常識に囚われていたんだよ。今までそんな人にしか会ったことが無かったんだ。だからかな、頼られると嬉しくて頑張ってしまう、みたいな感じかも知れない」
「⋯⋯」
「君の様な自分で戦う人を初めて見たんだ。それに情けない私を救ってくれたしね。なんて言ったらしっくりくるかな?目から鱗が落ちた?」
「人を絶滅危惧種みたいに⋯⋯」
「君の様な人は貴族社会には皆無じゃ無いかな?ある意味そうかも」
私達はその言葉で笑った。
「分かりました。そのまま継続でゆっくり考えてお返事します」
「ありがとう。実は焦っていたんだ、ノア氏が現れて」
「ノア様、素敵な方ですもの」
「私と真逆な人だから強敵だよ。でも負けない!」
「随分と自信がおありなんですね?」
「いや、これから態度で示していくし、目標は君のご両親だからね」
そう言って御令嬢方がため息をつく様な笑顔を浮かべたディラン様。
両親の事をそう言ってくれるのが、私にとって一番嬉しい。
こうして話し合いは終わった。
この後、リハビリにもお付き合いすると言うのでそこで時間を過ごした。
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「ミリエンヌ、それで話し合いはどうなったのかな?」
お父様が仕事を終えられて戻ってきた。
「何だか長かったし、その後もリハビリに付き合っていらしたわよ」
そう母が言った。
「色々とディラン様のお気持ちを伺いました。正直に話して下さって、今の気持ちに嘘はないと思います」
「それで?」
「裁判が終わるまでは継続して、その後にお返事する事になりました」
「そうか」
「納得のいくものだったのね?」
母が心配して聞いてきたが、私は頷いた。
「ここの所、彼の態度を見ていて心を入れ替えたんじゃないかと話していたんだよ」
「そうなの。アイザックったらいきなり彼を殴っちゃったでしょう?理由も聞かない内に、だから心配で」
そうしてディラン様が話した内容を、思い出しながら両親に聞いてもらった。
「確かに、この社交界広しと言っても家のミリエンヌ程の人物は居ないなぁ⋯⋯」
「お父様ったら、親の欲目ですよ」
「そんな事無いわ。私もそう思うもの」
「お母様までそんなに褒めても、何も出ませんよ!」
私は真っ赤になって言った。
「そうか、ディラン君はそこまで理解してくれたか」
「遅い位ですわ」
お母様の言葉に二人でアイコンタクトしている。
「お二人の様になりたいと言われました」
「私たちの様に?」
「憧れの夫婦像らしいですよ!」
そう言うと両親は嬉しそうに笑った。
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