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ディランの告白

「お嬢様、お手紙でございます」

 そう言って渡された手紙は、セシリア叔母様からだった。


「誰からなの?」

 母は急ぎの仕事の書類を一旦置いて、少し伸びをして聞いた。

「お母様、セシリア叔母様から」

「まぁ。ミリエンヌが目覚めたって取り急ぎ便りを出したから……」

「叔母様とのお仕事、放棄して帰ってこられたのでしょう?何か無いといいけど……」

 そう言って手紙に目を通す。

 そこにはミリエンヌへのお見舞いの言葉と、こちらの方は大丈夫だから……と書き記してあった。

「ああ、良かった。順調そうで」

「見せて」

 そう言って手紙を受け取った母も、きっと気掛かりだったに違いない。

「安心したわ。まぁ、セシリアは大丈夫と思っていたけど、領民の協力も得られているみたい」


 母の説明によると母の生家であるサンチェス領は、元々大した産業も無く農耕中心の領地だったらしい。

 それが私の実母の件で、祖父母とその当時、養子にした人物の多額の使い込みによって大きな借金を抱える事となった。

 返せる目途が立たず、領民にしわ寄せがこれ以上あってはならないと、セシリア叔母様が苦労されたらしい。

 領地が隣接する実母の元婚約者、コールマン伯爵家に土地を買い取って貰い、借金を返したらしい。

 そしてサンチェス領は元の半分ほどの所領になり、それからは今まで以上に苦労したと聞く。


 両親は其れを憂いて、私の為に帰るまで試行錯誤していたらしい。

 セシリア叔母様にも迷惑を掛けてしまって申し訳なかった。


「お母様、それで叔母様の試みはどこまで進んでいますの?」

「下地までは構想が出来上がっていたの。隣国から専門家も呼び寄せて、今試行錯誤しているんじゃないかしら?」


「どういった物ですの?」

「あそこは農耕にしか向かない土地でね、年々収穫も減ってきて困っていたのよ。それで詳しい人に相談していたんだけどヒントをくれてね」

「ヒント?」

「フフッ、農耕しか出来ないならそれを生かしてみようか、となったのよ」


「新しいものは難しいですからね、それで?」

「米と麦の二毛作が良いんじゃないかと思いついてね。前に商売相手の商人から隣国でその試みが始まった事を思いだしたの」

「ニモウサクって何ですか?」

「夏に水田で水稲、冬は水を落として畑作にして麦を栽培すると言うものなの」

「同じ畑で……それで二毛作」

「私も初めて知ったんだけど、同じ作物を作っていると、土地が瘦せてしまうらしいわ」

「それで年々収穫が落ちていたんですか」

「そう。幸運な事に水には困らないし、水はけもいい。其れに牛や馬を先行投資して畑を耕す試みも始まったのよ」

「それなら人件費が掛からないし。領民にとっても嬉しい限りですね」

「後ね、牛や馬の糞尿が多いらしくて、これを何とか出来ないか専門家と進めているみたいだわ」

「凄い。そこまで進んでいるなんて」

「セシリアは必死なのよ。家族も抱えているしね」

「成功すると良いですね」

「勿論そのつもりよ、心強いアドバイザーが付いているんだから」


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「姉様ー。ノア様は今度何時来られるのー?」

「アッシュ。よく聞いて頂戴。ノア様は伯爵位を継がれたばかりで、お忙しいのよ」

「剣術の稽古をつけて貰いたいんだ。おいでになったら聞いてくれる?」

 アッシュばかりか、ローガンまでも真面目な顔して聞いてくる。


「良いけど。なぁに、二人共すっかりノア様に夢中ね」

「ノア様、カッコイイんだもん、ねっ」

 アッシュがノア様の真似をしてポーズを決める。

「僕は剣術、筋がいいって褒められたんだ。今度姉様も見てよ」

 ローガンは得意満面で言った。

「僕だって上手に出来たねって頭撫でてもらった!」

 誰かさんとは大違いで、我が家でのノア様人気は天井知らず。


 皆が待ちわびていたが、訪ねて来たのは婚約者の方だった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「今日は、君のお父様にお話があってね」

「婚約破棄の件ですね、直ぐに呼びますから」

 そう言って執事に呼びに行かせる。


「あ、その件なんだが、もう少し熟考(じゅっこう)したらどうかな?」

「熟考?」

「婚約した時、そのままでもいいと言ったじゃないか。君さえ良ければそのままでも……」

「それではディラン様が困りますよね」

「いや、別に困る事等……」

「……?」

 ミリエンヌは頭の整理が出来ずに、混乱していた。


「それに裁判が始まれば、婚約者の方が良いと思うんだ」

「それは……確かに。婚約者の方が共感を得られやすいと言うか……」

「な、そうだろう?だからゆっくり考えて良いから」

「ゆっくり?」

「そう」

「考える?」

「早まらずに」

「あの……もしかしてアンナさんに振られたとか?」

「何故ここにアンナが出て来るんだよ」

「だってお好きなんでしょう?」

「人間的には」

「に、人間的?愛しておられるんでしょう?今も変わらず」

「いや、そういう意味で好きではない!」

「……ん?あれ?私はお互い好き合っていらっしゃるものだとばかり」

「昔は確かに。でも今は違う」

 そうきっぱり言ったところで、父が入って来た。


「待たせたね」

「いえ、二人で楽しく話していましたので」

「楽しく?」

 父が聞くとディラン様は、元気に『はい』と答えた。

 ディラン様の真意が分からず、頭の中を?マークで一杯にしていると

「婚約は継続で、お願いします!」

 ディラン様が爆弾発言をした。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ディラン君、ミリエンヌからは婚約破棄を急ぐように聞いていたんだが」

「ミリエンヌさんの勘違いです!」

「勘違い?」

「はい。私は婚約は継続、結婚は一年後と言う事で考えています」

「はぁ?」

 父も意味が分からなかったらしい。

「この婚約は仮のものと理解していたが、違うのかい?」

「そうですね、裁判もまだですし。でも裁判が終了しても破棄はしません!」

「何故ですの?」


「……私、ディラン・ホワードはミリエンヌ・スペンサー嬢を愛しています!」




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