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嫌がらせ

 私の金茶の髪を母が優しく櫛でといていく。


「奥様私がやります!」

 メイド達が慌てて言ってくる。

「いえ、いいの。あなた達は冷たい氷を用意して頂戴」


 ここはラッセル侯爵邸、パーティーの控えの間。

「全く誰がこんな事!」

 母は顔を真っ赤にして、目じりに涙が滲む。

 私はパーティー会場で髪にガムを付けられた。

 不幸中の幸いか、ガムは髪の表面のごく一部に付けられた。

 後ろに目がないので、どのタイミングで誰が付けたのか分からなかった。


「お父様が今主催者に言って参加者名簿を洗って貰っているわ」

「お母様、ガムが付いた部分ははさみで切って下さい」

「こんなきれいな髪を切るなんて」

「毛量が多いから誰も気が付きませんよ」

「ミリエンヌ。これは我が家にとって、最大の侮辱よ」

「軽い気持ちでやった悪戯でしょう。子供かも知れないし」

「子供なんて見かけなかったわ。其れより、髪は女の命なのに」

「また伸びますから気にしません!」

 母の手前そう言うしかなかった。


 ただでさえ心配性の両親。

 両親を思えばそう言ってこの場を収めるのが良いと思った。


 但し、個人的には許せない!



「ミリエンヌ大丈夫か?」

 父が紙束を握りしめて駆け込んできた。


「ラッセル侯爵家から借り受けて来た。どうだ取れたか?」

 氷でガムの部分を何とかしようと母が悪戦苦闘していた。

「表面に引っかかっただけの様なので少しだけ切れば大丈夫ですわ」

 私はこれ以上心配掛けまいと、わざと軽い調子で言った。


「私の可愛いミリエンヌにっ!」

 父もワナワナと震えている。

「お父様、参加者名簿がしわくちゃになってしまいますわ」

「あぁ、いかん。大事な証拠品を」

 握りつぶす勢いで変形した紙束を急いで伸ばす。


「ところでアッシャーは?」

 父がエスコート役でこの場に付き添って居るべき又従兄弟のアッシャーを目で探す。

 しかし彼はこの部屋にはいない。

「心当たりに探りを入れると言って会場に戻りましたわ」

「アイツはまた勝手に。関係ない方に迷惑をかけなければいいが」


 その後開催者の侯爵ご夫妻が謝罪にいらしたり、侯爵家執事が追加の名簿を持ってきたり控室は慌ただしかった。


 そう言っているとアッシャーが戻って来た。

 お客様をお連れして……。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「ミリエンヌ嬢、大丈夫かい?」

 意外にも優しい声のディラン様だった。

 鏡越しに彼を見て

「えぇ。髪が少しばかり無くなるだけですわ」


 するとなるべく髪を残そうと格闘していた母が言った。

「これで限界みたい。アイザック私悔しいわ」

 母が髪にハサミを入れる。

「あぁ、パトリシア。泣かないでくれ……」

 父はこの世で一番愛している母を泣かせた犯人を、許さないだろう。

 母は自分の事では泣かない。

 母が涙するのはいつも家族の事、そして家族同然の人達の事だけだ。

 膝を突きながら、椅子に座って声を震わせる母を優しく抱きしめる愛情深い父。


 今更ながらに両親の愛に圧倒されて、感動していると

「心当たりがある。少し時間をくれないか?」

 ディラン様の手が、切られてガムの絡んだ髪に伸びる。

「何だ、君の取り巻きの仕業かね?」

 パレードの様に彼に付き従うご令嬢達を思い出す。


「多分、途中でひとり姿を消した令嬢が居たので……確信は持てませんが」

「問い詰めてハイそうです……と吐くかね?」

 父の言う事は尤もだ。

「化粧室に行く時は何時も2〜3人を誘って行くのですが、今日はひとりで姿を消した令嬢が居るのです」

「よく見ているな」

「いつも同じ顔ぶれで。その、彼女は要注意人物なので、上手く誘導すれば白状するかもしれません」

「なぜその方だと思いますの?」

 決めつけた様な言い方に疑問が湧いた。

「彼女は私への執着が人一倍、強いんだ。だからパートナー連れでは来られない」

「以前も何か有ったのですね?」

「ああ。そうなんだ」


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「ディラン様、何方にいらしたの。心配していましたのよ」

 令嬢の中で一番厄介なケイトリン・モナーク侯爵令嬢が言った。

 ショッキングピンクのド派手な髪、それによく似た赤に近い色の目。

 病的にまで白い肌でしなを作りディランの腕に触る。


「あぁ、仕事絡みでチョットね」

 紳士のみが入れる部屋にいたと仄めかす。

「そうでしたのね、寂しかったですわ」

 すがる様な目をして言う。


 しかしディランは知っている。


 かよわさを巧みに演出しながらも、狡猾(こうかつ)に周りの令嬢を牽制(けんせい)するその図々しさを。


 ディランは引き気味に話題を変える。

「少し踊りたくなったな。……リエネット嬢、私と踊って頂けますか?」

「はい!喜んで!」

 私はそうやって何人かの令嬢とダンスを踊った。

 そしてダンスを踊りながらそれと無く情報収集を行う。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「じゃぁ、ケイトリン嬢が暫く居なかったんだね」

「そうなんです、あの存在自体が派手な方ですもの。居ないと直ぐに気が付きましてよ」

「ははは。まぁ、確かに」

「化粧室には何時も何人も連れて行かれるでしょう?あれ何でだか分かります?」

「いや」


「自分が居ない内に有力なご令嬢を残したくないと暗黙の了解なんですわ」

「お互いに牽制し合ってという事か?」

「残っているのは相手にされないと分かっている方ばかり」

「……」

「私もそうなんですのよ、私は子爵家だから家格の面でね」

「そんな基準なんだ」


「他にも今日はご欠席のロレーヌ様、あの方は容姿が美しいので同道組ですわ」

「基準が分からんな、男には」


「そう言えば先程、あの方には珍しく男の方と話し込んでいらっしゃいましたわよ」

「エスコートした男性だろう?」

「いえ、給仕の使用人ですわ。何だか何時もと様子が違って、今までそんな事絶対に有り得ませんから印象に残っていますわ」

「その男、見ればわかるかい?」

「ええ。でもそれが何か?」

「今日最後まで残って居て貰えないか?」

「はい。分かりました」

「それとこの事は他言無用で頼む」

「はい、勿論ですわ」




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