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ノアの決意

「義姉さん、ただいま戻りました」

 ノアは声を掛けて部屋へ着替えに戻ろうとしたが、アンナが呼び止めた。

「ミリエンヌさんはお元気でしたか?」

「ええ、リハビリも順調です。頑張り屋ですね、彼女は」

「そう、安心したわ」

「……」

「なぁに?何か言いたげね」

「……義姉さんは……いや」

「ちゃんと言葉にして言って頂戴。気になるでしょう?」

「気にしてるなら、義姉さんもお見舞いに行ったら良いのに」

「私が?」

「そう、その方が彼女喜ぶ気がして……」

「とてもお世話になって、私も行きたいけれど……」

「義姉さんも噂や外聞を気にするの?」

 ノアは苦笑いを浮かべた。

 義姉さんの返答次第では、今後の付き合い方を考えなくてはならない。


「そうじゃ無くてね、なんて言ったらいいのかしら。婚約者のディラン様の事があって、私が行くとあんまりいい気がしないんじゃ無いかと思ったの」

「それどう言う意味ですか?」

「言って無かったかしら?ディラン様と私は幼馴染で元婚約者なの」

「……」

「夫が亡くなった後、葬儀で再会して。あの時は心細くて、つい頼ってしまったのよ」

「成る程、それで?」

「彼が心配して毎日足を運んでくれて、つい甘えてしまってね。カフェで会ってしまったのよね」

「二人でいるところを?」

「そう、気不味いったら無いわよね。でも笑って許して下さって、それからあのケイトリンも言い負かして下さったのよ」

「……」

「あの時は助かったわ。彼女が現れなかったら、あのケイトリンに何をされたか……」


「義姉さん、話を整理していいかな。兄さんの葬儀後、あの男毎日義姉さんの所に来てたの?それで出先で彼女にバッタリ会ってしまったと?」

「そう、あのケイトリンが嗅ぎつけて来て、二人で青くなっていたらミリエンヌ様がお待たせって来て下さったの」

「待ち合わせしてたんじゃ無いよね」

「そうたまたま店内にいらしたみたいなの。それであのケイトリンを撃退して下さったのよ」


 ノアはあの家で、ディランが冷たい目で見られている事に気がついていた。

 随分と人気の無い男なのかと思ったが、ミリエンヌ嬢にそんな事を仕出かしていたのか。


 弟達や使用人の態度にも合点がいく。


 危険に晒されている婚約者を放っておいて、元婚約者の元に通う男。

「どうかした?」

「いや、義姉さんがお見舞いに足を運んだら、彼女喜ぶと思うよ。彼女は心優しくて、度量の広い人だからね」


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「あの男、クズかよ!」

 ノアは部屋に戻って毒突いた。


 婚約者が有りながら、他の女に目移りする男。

「彼女の優しさにあぐらをかいた挙句、守れもしないなんて」

 段々と事情が飲み込めて来たノアは、強い憤りを感じていた。


 義姉さんの話だけでは分からなかった全容が、繋ぎ合わせて何と無く分かってきた。

 その時々に聞いた話を繋ぎ合わせて、そして周りの行動が意味するもの。


 あの男、自業自得じゃ無いか。


 アイザック氏にしたら堪ったものじゃなかっただろう。

 一発といわずボコボコにしてもいい位だ。

 弟達のあの態度さえも。

 ミリエンヌ嬢が目覚めた時をノアは思い出していた。

 部屋の入り口から心配そうに覗いたディラン氏に、弟達の投げ掛けた『邪魔』と言った意味。


 そしてこれは想像だが、ミリエンヌ嬢は義姉さんの為に婚約解消を急いでいる気がする。

 義姉さんとあの男の縁結びをする気か。

 それはそうだろう、あんな風に見せ付けられたら、自分は邪魔者だと思うだろう。


 義姉さんも悪気があった訳では無い。

 (わら)にもすがりたい心境だったのだろうから。


 まぁ、義姉さんの人生だ。

 自分がとやかく言う事は無い。

 ただ、ミリエンヌ嬢に迷惑は掛けないで欲しい。


 義姉さんは良い人だ、ただ典型的な貴族令嬢だった人。

 他のご令嬢同様に、無意識に守られる事を当然として、自分の為に尽力する事を求める。


 彼女とは随分違うんだな……。

 いや彼女が稀有(けう)なのか。

 ノアはミリエンヌに想いを馳せた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 その日の夕食でノアは気になっていた事を、義姉に聞いてみた。


「義姉さん、気になっている事が有るんだけど聞いても良いかな?」

「なぁに?勿体付けて。何でも聞いてくれたら良いのよ」

「いや、プライベートな事だから、答えたく無い事は無理して答えなくていいからさ」


「それで何が気になっているの?」

「義姉さんはディラン氏の事、どう思っているかなってさ」

「え、彼は幼馴染で元婚約者では有るけど……ミリエンヌ様がいらっしゃるでしょう?」

「彼女抜きで考えてみてどう思う?」

「……どう言ったら良いか迷うけど、昔は好きだったわよ、婚約者だったし」

「……」

「でもね、頼り無いのよ。守るにしても中途半端。それで私が愛想尽かしたんだけど」

「その頃からそうだったのか」

「それで夫の申し出を受ける事にしたのよ」

「義兄さん残念だったよな、良い男だったのに。生きていたら絶対に義姉さんを幸せにしていたと思うよ」

「私もそう思うわ。あの人が病床に有りながらも、一生懸命守ろうとしてくれた。私にとってそれは重要な事なのよ」

「生きていて欲しかったな。病が憎いよ」

「ありがとう、夫も喜んでくれているわ」


「じゃあ、話を戻すけどもし再婚を望まれても受ける気は無いんだね」

「勿論よ。私は夫を愛しているわ。今すぐには再婚は無理ね」

「そうか、変な事を聞いて済まない」

「何か有ったの?」

「ミリエンヌ嬢が婚約を解消されるつもりらしいから」

「えっ!」

「どうも義姉さんと彼の縁結びをしたいらしいよ」

「やっぱり誤解していたのね、ディランが彼女より私を優先するから。私言ったのよ、ミリエンヌ様を放っておいて大丈夫なのって」

「そしたら彼なんて言ったの?」

「彼女は強いからって……」

 ガタン!

 ノアは乱暴に席を立った。

 もう我慢ならなかった!


「ノアさん!」

 義姉さんの自分を呼ぶ声が聞こえたが、振り返らなかった。


 そしてもう遠慮は要らないと心が叫んだ。




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