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母達の思い

 その場は静まり返った。

「減刑嘆願じゃない⋯⋯」

 パトリシアは、邪悪と思っていても、我が子として過ごした長年の情の様なものが有るのだと思っていた。


 償いはさせるにしても、死刑又は炭鉱刑は、若い女性に酷だと訴えるのかもと。

 それで修道女として生涯送らせるとか、そんな風な提案が目的だと思っていたが、どうも違うらしい。


「ふふっ、おかしく聞こえるでしょう?親であったのに。素早く除籍して、その上減刑の嘆願もしないとは」

 モナーク子爵夫人は、自分と同じく養女と有名なミリエンヌを育てた、パトリシアに向けて言った。


 だがそれは周りに向けて、さぁ比べてみて⋯⋯と言っているかの様だった。


「いえ、ただそんなに親子関係が、冷え切ってしまっていたのだと。確かに今までのお話では分かっていたのですが。最初からそうだった訳では無いでしょうから、少しの⋯⋯情は残っているのかと思っていました」

 それがパトリシアの本心であった。


 親ならば世界中の人が悪と言っても、親だけは味方でいる。そんな理想を⋯⋯。


「パトリシア様のお嬢様が羨ましいですわ。私もそんな風に育てたかった」

「⋯⋯」


「私は思いやりからだとしても、夫から騙されたのです」

 その言葉にモナーク子爵はビクッと体を震わせた。


「騙された?」

「私は出産時、生死の境を彷徨いました。そしてその時にもう子供の産めない体になったのです」

「⋯⋯!」

「夫はその上子供まで失ったと知れば、私が生きていけないと思ったのでしょう。私の回復を待たず、あの女の娘を連れて来るという暴挙に出ました、相談する事も無く」


「モナーク子爵の独断ですか」

 パトリシアは信じられない思いだった。


「そうです、私の本当の娘のケイトリンは既に墓に入れられて、抱く事すら叶いませんでした」

「意識が無かったのだから仕方ないだろう!」

 モナーク子爵は反論した。


「それを知ったあの日から、私はあなたを恨んでいました。その上、厄介な子供を私に押し付けて、あなたは知らんぷりを決め込んで⋯⋯」


「あの日とは墓に連れて行った日か」

「いいえ、あの後真実を知ってからですわ」

「真実?」

「あなた親戚と話していたじゃ有りませんか、思い出して下さい」

「⋯⋯」

 心当たりがあるのか、モナーク子爵の目が忙しく動いている。


「娼婦との間に出来た子を、上手く誤魔化して押し付けたと」

「⋯⋯確かにそんな事を話した覚えがあるが⋯⋯聞いていたのか⋯⋯」

 しどろもどろになりながら、モナーク子爵は答えた。


「ええ。それからですわ、あなたも偽のケイトリンもその母親も憎んでいました」

「⋯⋯」

「実家を通して全て調べ上げました。両親からは余りの事に、離婚を勧められましたわ」

「思い直したのか?」

「復讐の時期をじっと待っていたのですわ」

 夫人はクスクス笑いながら言った。


「でもあなたは家庭に無関心、私に自分の不始末を全てを押し付けて逃げました。それでも懸命に教育は施しました、この子には罪はないのだと信じて。何度も何度も自分を(なだ)めて。そして数年前からケイトリンが私を蔑ろにし始めて⋯⋯私は諦めたのです」

「そこまでの思いを蔑ろにされたら⋯⋯本当にお気の毒です」

 パトリシアは沈痛な面持ちで言った。


 きっと今まで、筆舌に尽くし難い苦労があったのだろう。

 夫の不貞の証拠を常に目の当たりにして。

 努力も報われず、邪悪な道を進む娘。

 無関心で妻に丸投げして、自己満足に浸り、家に寄り付きもしない夫。

 彼女は一人だったのだ、孤独と戦いながら。


「⋯⋯それで除籍の手続きをする為に、色々準備をしました。もう、あの子に欠片(かけら)の愛情もありませんでしたから」

「それで手続きがあんなに早かったんですね」

 それまで口を一切出さなかったノア氏が言った。

「もう既に色々(まと)めてありました。どこに提出しても、誰に見せても経緯が分かる様にと。それとあのデライラの事もです」

「そうだったのですね」

 皆が納得したが、モナーク子爵だけは不安そうにしていた。


「私にも復讐の機会を窺っていたのか?」

「そうですね、小さな復讐は考えていましたが、それを遥かに凌駕(りょうが)する様なこの事件がありましたもの」

 調査結果を突きつける気だったのだろう、でも事態はそれに収まらなかった。


「私も今までを振り返って、心を入れ替えたよ。済まなかった。これからは君に一生かけて償っていくよ」

 モナーク子爵夫人は隣に座る夫に向き合った。

「私に謝罪は初めてですね」

「其れは⋯⋯」


「えー、うぉっほん。夫婦というのは互いに尊重して⋯⋯」

 アイザックがそう言っていると、メイドが駆け込んで来た。


「お嬢様が、ミリエンヌ様が目を覚まされました!」

 アイザックとパトリシアは、手に手を取り一目散に駆け出した。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 その後ろ姿を見て、モナーク子爵夫人はとても眩しく目を細めた。

 同じ母としての思い。

 それが色々な要因で素晴らしいものにも、孤独を感じるものにも変化する。


 一人ではダメなのだ。

 周りの皆が思いやりを持ち、心を砕いていかなければ。

 それは正に、家族の有り様に掛かっている。


 私は息子に幸せを与えたい。

 そう強く思うモナーク子爵夫人だった。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ミリエンヌ!」

 パトリシアはアイザックに支えられながら、娘の部屋に入った。


「お父様、お母様お早うございます」

 ミリエンヌはやつれた顔で笑って言った。

「ミリエンヌー!」

 三人はひしと抱き合った。

 両親がワーワー泣くので、ミリエンヌは驚いていた。


 するとドアの方からその様子を、ディランがそっと覗くのだった。

 そしてそれを

「退いて、邪魔!」

 そう言って弟達も駆け付けて来た。

「姉様ー!」

 家族に笑顔が戻った瞬間だった。



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