アイザックの怒り
「ミリエンヌ、……起きて頂戴」
母であるパトリシアはミリエンヌの枕元でやつれ果てて、声にも力がない。
もう何日、この状態を続けているのか、アイザックを心配させていた。
「パトリシア、私が見ているから少し眠りなさい。君が倒れそうだ」
「あなたもずっと一緒に居るではないですか、私は大丈夫。もうそろそろ何時もの様に、おはようって目覚めると思うの」
「帰って来てから、ずっとその調子じゃないか。ミリエンヌが起きたら私が叱られる。少し寝たら私も交代するから、それなら良いだろう?」
「でも……ミリエンヌが起きた時に……」
「さぁ、起きたら直ぐに知らせるから。大丈夫、私が付いているから」
メイドに支えられてよろよろと、やっとパトリシアを寝室に連れて行かせた。
私達は帰って来て驚いた。
ミリエンヌは一度目を覚まして元気に会話した後、傷口が痛いと言い出して気を失ったらしい。
ベッドに寝ている娘は、肩の傷は赤いものの塞がっていて、顔色も良いのに意識だけが戻らない。
本当に眠っているだけの様だ。
護衛を申し出てくれたノア氏の、初動の応急処置も素早く的確で、毒の特定も出来て治療もしたのに。
医者によると、毒とカブレルーナの何らかの相互作用で予期せぬ事態に陥ったと見ている。
意識不明の事態になった原因究明の為、今急いで調べて貰っている。
アイザックは王族とも親しいので、王宮の医師団も協力してくれている。
「まさかうちの大事な娘を、危険な囮に使うとは」
思い付いたのはミリエンヌだとしても、十分危険と判っていながら止めもしないとは。
「数年前に元婚約者から捨てられたのも分かるな」
アイザックは絶対にディランを許せなかった。
そのディランはと言うと……。
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スペンサー家の庭先で、ミリエンヌの部屋の窓を見上げて、座り込んでいた正座をして。
顔には青あざが一つ、ミリエンヌの父であるアイザックから出会い頭に思いっきり殴られた。
ディランに常に随行している従者や護衛は、アタフタと取り乱すばかりだった。
「ディラン様、地面は堅く、冷とうございます。せめてこちらを……」
そう言って、従者がピクニック用のレジャーシートを差し出す。
「ミリエンヌが苦しい中で戦っているのだ。せめてその苦しみの百分の1でも……」
「ディラン様が倒れられては、ミリエンヌ様が目覚めた時に悲しまれます、きっと」
「目を覚ましてくれさえしたら、それでいいよ」
その時玄関ホールが何やら騒がしくなった。
「ディラン様、大変です!モナーク侯爵……子爵夫妻が謝罪にいらっしゃると先触れが来ました!」
トイレを借りに行っていた護衛の一人が慌てて来た。
「何?」
「どうされますか?やはり同席されますか?」
「ノア氏はどうするのだろうか?」
「使いの者を出す様です。状況を直に見られていますので」
「そうだな、こちらの不利になる事の無い様に同席させて貰おう。向こうは減刑を嘆願しに来るのかも知れないし」
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スペンサー家の応接室に、子爵に降爵したモナーク夫妻が弁護士を伴ってやって来た。
この二人が、あの怪物を生み育てたと思うと、アイザックは怒りで震えが止まらなかった。
「この度は、うちの娘だった者が多大なご迷惑をお掛けしました」
モナーク子爵は夫人と共に深く頭を下げた。
頭に血の上ったアイザックは、過去形になった部分を聞き逃した。
「娘は今意識が無く、妻も看病で疲弊していますので、今休んでおります」
それだけ言うとその3人を睨みつけた。
「お怒りはごもっともです。私達はあの様な娘を育ててしまいました。知らぬ事とはいえ、本当に申し訳ございませんでした」
その時パトリシアが部屋に入って来た。
「パトリシア、休んでいないとダメじゃ無いか」
それには答えず、パトリシアは夫妻に詰め寄った。
「何故こんな酷い事が出来るのですか?娘がお嬢さんに何をしたと言うのです!」
涙が溢れて、自分の事でも滅多に泣かないパトリシアは、ミリエンヌの母だった。
「申し訳ございません、あの娘は裁判を受けさせて、きっちり罪の償いをさせますので」
「あの娘?」
パトリシアは気が付いた、夫妻の目の中に愛情は皆無だと言う事に。
「はい。血の繋がりも有りませんので、除籍しました。平民のデライラの娘として裁判を受けさせます」
「お二人とは血の繋がりのない養女だったのですか?」
ディランが聞いた。
「はい、夫はデライラに騙されてしまいました。私が生死を彷徨っている内に、まんまと亡くなった子の代わりに収まってしまったのです」
「その辺の事情は、こちらの資料をご覧ください。今までの経緯等が記されています」
先程ケイトリンの弁護をすると紹介を受けた、ターナー・ウェイ氏が言った。
そこには驚くべき事が書かれていた。
「調べても分からなかった筈ですね、私は当時の婚約者と別れる事になりましたよ」
ディラン氏は、みんなで食い入る様に読んだ資料を見て、淡々と言った。
「まさか実母の隠れ家を、悪巧みの交渉場所にしていたとは」
彼は呆れて言った。
「あの二人は狡賢く、自分勝手で貪欲です。母親として何とかケイトリンを矯正しようと頑張りましたが、その気持ちも踏み躪られました」
「その様な事情を裁判前にお話になる意図が分かりませんな」
アイザックは無表情で言った。
「今日はお詫びと、私達がケイトリンに対して減刑を嘆願するなどと言う意思が無い事を、お伝えしに来たのです」
やっと書けました!
今日のは頭が働かず難しかったですーσ(^_^;)
疲れているのでしょうか。
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