足掻き
「勿体付けてないで話しなさいよ、どうせ何処からか養子でも取ってって話でしょう?」
「まぁ、早い話がそうですがね」
「私しかあの家は維持出来無いわ。その為の教育を、長年受けてきたのよ。その辺を両親に思い出させて頂戴。あなた弁護士でしょう!」
「もう時既に遅し⋯⋯ですな。この一連の事件を起こす前に改心していれば、或いは⋯⋯だったのに残念ですな」
「どういう事よ」
「まず、侯爵家は今回の責任を取って、子爵位に降爵を申し出られました。領地も半分以上を国に返還されて、ようやく許される予定だそうです」
「そんな事、誰が許したの!」
「あなたの尻拭いですよ。苦渋の決断です。言葉に気をつけて下さい」
「そして遠縁から養子を?」
「いいえ、実は正当な血縁者が見つかりまして」
「そいつ偽物よ、どうせ!」
「いいえ。これも運命なんでしょうか?神様が引き合わせたか、それとも亡くなったお嬢様が⋯⋯」
「何が言いたいの?」
最後まで聞くに耐えず、遮ってやる。
「夫人が孤児院に定期的に慰問されていたのは、ご存知ですか?」
「⋯⋯」
「はぁ、本当にあのご立派な養母に、ご興味が無かったんですな」
「そんな話、初耳よ!」
ここ数年、母親とはまともに話したことが無かった。
「そこで夫人は偶然、ご主人そっくりの男の子を見つけられたのです」
「そっくりなだけでしょう?」
「いいえ、それで本当の娘のケイトリン様のお墓に、毎日掃除とお花を供える仕事に雇われて」
「⋯⋯」
「ね、演劇の運命みたいでしょう。正にそれです!夫人は知らずにされていたのですが、ご主人の落とし胤だったんですよー」
「⋯⋯」
「今回の事で慌てて領地から戻られた侯爵様が偶然居合わせて、あんまりにもご自分の子供時代にそっくりなので調べさせたら⋯⋯という訳です」
「何、その三文芝居」
「これを運命と言わずに何と言いましょうか?その子は花屋に勤めていた平民の母親を亡くして身寄りが無く、孤児院に引き取られて。子供が出来たことさえ、侯爵様には言わなかった。お一人でひっそりとお育てになるおつもりだった様です」
「⋯⋯」
「それはもう、侯爵いえ子爵様はご夫婦でお喜びになって、今その子の教育でお忙しいのです」
「わ、私の事はどうなるのよ!」
「どうとでもしろと、子爵様は仰っています。数年前から子爵様は、愛想が尽きていたと。夫人の方はそれでも矯正しようと努力されましたが、ここ数年の態度で母親を捨てたのは、あなた自身だと仰っていました」
「ハハハッ、捨てられたのね。私」
「そうですね、夫人はあなたの除籍の手続きを、前々から密かに進められていたそうですから。それで今回は、異例のスピードで承認されたと聞いております。大恩のある養母を蔑ろにした所為ですね、きっと」
「⋯⋯」
「ですからあなたは平民として、裁かれます。貴族令嬢お二人に酷い事をなさいました。その上反省も無く、罪を認めようともされません。それでは弁護のしようもありません。極刑は免れませんよ」
「極刑って、私は無実」
「もうそれも聞き飽きましたな。反省も見られないとは」
「事実はどうでもいいわ。兎に角、無実に持っていきなさい。成功報酬なら私の宝石でもあげるから」
「随分、侯爵家の財産を散財されていたんですな。それらあなたの持ち物は、全て子爵家が処分される予定と伺いました。ここに来た時にお持ちだった金貨や身に付けていた貴金属も返還されましたから」
「私無一文になるの?」
「その通りです、多分被害を受けられた方々に、慰謝料として支払われるのでしょう。私もその中から国選と言っても報酬はいただきますよ」
「⋯⋯」
「覚悟しておいて下さいね、死刑も有り得ますから。良くて炭鉱刑でしょうか。その場合、一生日の目を見る事は叶わないかもしれませんね」
「あの女はどうしてるの?私を唆したあの女よ」
「罪を素直に認めている様です。但し主犯では有りませんから、死刑は免れるかも。その場合、頬に焼印を入れて娼館復帰で一生終えるのでしょうかね」
この国では女性に炭鉱刑は過酷故に生存率が低い、その為救済処置として娼館行きも選択出来る。
でもその場合、他の娼婦と区別を付ける為頬に焼印が入れられる。
額だと前髪やバンダナ等で隠せるので、頬になった。
「娼婦に戻るの、あの女」
「あなたのお母様ですよ。それしか道がないのですから。あなたも炭鉱刑よりも娼館勤めがご希望ですか?」
「嫌よ、無実に持っていきなさい。主犯はデライラ、実行犯はデライラの雇った男達。私は騙されてその場に運悪く居合わせただけって。いいわね、それで裁判を進めなさい」
「そう言われても、他のメイドや従者があなたからの指示と証言していますから。例え天地がひっくり返っても無理でしょうな」
「そんな!」
「それと言い忘れていましたが、アンナ・タジミール伯爵夫人にやった事に関しても、自白が取れています。もういい加減諦めて下さい」
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
モナーク子爵夫人は神は居たのだと感謝していた。
あの日、偽のケイトリンが仕出かした凶悪犯罪で、私もこの家ももう終わりだと思った。
あそこまで腐った性根の怪物に目の前が真っ暗になった。
しかし本当の娘が引き合わせてくれた、あの子がいる。私の息子になった可愛いあの子。
あの日も変わらず訪ねて来たあの子に、今日はお花を摘む暇が無かったと言ったら、自分に摘ませてくれと言って来た。
「あの子がお墓で待ってるから」
と言ったあの子の優しさに触れて涙していたら、夫が帰って来た。
そして⋯⋯。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「⋯⋯お母様?」
「なあに、もうお勉強は済んだのかしら?」
「はい、済みました」
「早かったのね、じゃあ頑張ったご褒美にお菓子を食べましょう。あなたの好きなクッキーを焼いておいたのよ」
嬉しそうな息子の頭を撫でながら、孤児院の慰問に持って行っていたクッキーを食べさせる。
「あらあら、慌てないで。沢山あるから。ゆっくり良く噛んでね」
そう言って愛しんでいると、夫が帰ってきた。
「ただいま。おやクッキーかい?私も頂こうかな」
ここのところ、夫はこの子の顔を見る為に、いつも早くに帰ってくる。
今度領地にも連れて行きたいとも言っていた。
偽のケイトリンには言った事も無い事だ。
やはり血を分けたこの子が、何より愛おしいらしい。
「私が見つけたのよ。天国のケイトリンと一緒に」
小さな呟きは彼に届かなかった様だ。
不誠実だった夫。
でも私にはこの子が居る!
モナーク子爵夫人はそう心の中で思った。
立派に育ててみせる!
その使命感で今、心が満たされる夫人だった。
そして、歪ながらも家族の形を取り戻しつつある……と実感したのだった。
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