襲撃
ノア様の言葉に問いかけようとした時、弟達が剣術の指導をと押し掛けて来た。
二人に気に入られた彼は、引き摺られる様にして演習場に連れて行かれた。
彼は優しい笑顔で、ではまた後で⋯⋯と言って去って行った。
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その後、準備は淡々と続いた。
「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」
メイド達は心配して聞いて来た。
「何度もおさらいしたから大丈夫。安心して待ってて頂戴」
「はい、必ず無事にお戻り下さい」
そしてミリエンヌは、特注で作らせた革製の籠手を装着した。
これで頭や顔、首と胸辺りも防御出来る。
馬車には盾も積んである。
これはロレーヌ様が襲撃された様子を聞いた時から、用意させた物だった。
「では行って来ます」
「ノア様凄く強かったんだ。だから大丈夫!」
弟達も只ならぬ雰囲気を察して、神妙な顔つきになっていた。
馬車が静かに出発した。
「姉様ー!」
弟達の声が聞こえた。
私は大丈夫、震えそうになりながら、自分自身と戦った。
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森の小道に差し掛かり、御者席で遠眼鏡を使っていたメイドが小窓から声を掛けた。
「お嬢様。緩いカーブの先に倒木がありそうです。全容は見えませんが木らしきものが倒れているのが少し見えます。お気をつけ下さい!」
「カーブ手前で止めて頂戴」
「かしこまりました」
速度を徐々に落とした馬車は、カーブ手前でゆっくり止まった。
従者とメイドが先を覗くと、襲撃者達が4人様子を見る為にこちらにやって来るところだった。
「相手は4人、見張りが居るかも知れませんから5人かも知れません」
それを聞いて、ノア様も馬車を飛び出して行かれた。
人の怒号と剣を交える音が聞こえる。
もう一人のメイドは扉の外を守ってくれている。
そのうち辺りに、後から駆けつけた護衛が到着したが、襲撃者達は既に取り押さえられていた。
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「見張りが居る筈だ、探して捕まえろ」
ノアは指示を出して、皆が動き出したのを見て、ミリエンヌ嬢の元に駆けつけた。
その時、矢がミリエンヌ嬢を狙いすましたかの様に飛んできた。
咄嗟に庇ったが、彼女の肩を少し掠めた。
「大丈夫か?」
「少し掠めただけですわ。それよりこの矢を放った者を早く捕まえて下さい!」
「お嬢様、掠めたと言っても血が出ています。手当を⋯⋯」
その時、ミリエンヌはグラリと上半身を反らして倒れた。
「お嬢様!」
「しまった!毒か?」
私がミリエンヌ嬢のドレスの肩を大きく破っている所に、ディラン氏一行が到着された。
「貴様、ミリエンヌに何をしている!」
ディラン氏が慌てて駆け寄って来たらしい。
「矢に毒が塗られていたらしい。そこまでするとは、水を早く!」
そう言って私は彼女の肩に吸い付いて毒を吐き出した。
何度も何度も。
そして傷口を丁寧に洗い残りで自分もゆすいだ。
包帯を渡されたので、それを手早く巻いてミリエンヌ嬢を抱き上げて、馬車へと運んだ。
「すぐに医者を手配してくれー!ミリエンヌ、ミリエンヌー!」
婚約者のディラン氏が取り乱して叫んでいる。
「彼女は、私の婚約者は大丈夫なのか?」
「少し掠めた様だが、応急処置は済んだ。傷は小さかったからそう大量には入っていないだろう」
「医者はまだか!」
「今早馬で呼びに行っております。少々お待ちください」
「私は狙ったやつを追う。君は婚約者の側に居てやってくれ」
そう言うと、彼は一瞬キョトンとして、それから慌てて彼女の居る馬車へと駆け込んだ。
「逃げた奴はどうなった!」
私が聞くと
「今、追跡していると」
「絶対に逃すなよ!」
そう言うと馬に乗って街に急いだ。
奴は隠れ家に逃げ込む筈だ、その前に捕まえる。
ノアは凄いスピードで森の小道を駆け抜けた。
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ケイトリン親子は、隠れ家で朗報を待ち兼ねていた。
「遅いわね、まさかしくじったりしていないわよね?」
独り言の様にケイトリンが言うと、そっくりな顔をした実母が笑いながら言った。
「落ち着いて、あの者達は優秀なのよ。ロレーヌの時もやり遂げたでしょう?」
「それはそうだけど。真っ先に知らせに走っても良い筈なのに!気が利かないわね!」
そう言ってイライラと部屋を歩き回る。
「もう、ママの方が目が回っちゃうわ」
「ママはよく落ち着いて居られるわね。年の功?」
「なあに?トシノコウって?」
「年の功。そんなことも知らないの?」
「そんな難しい言葉、知らないわ」
「難しい?」
「貴方も私が平民だからって、馬鹿にするの?」
「あのね、年の功ってこう書いて、経験を積んだ力って意味よ!」
「そうなの?褒め言葉だったのね〜年の功か」
その位でキャッキャ喜ぶ単純な実母に、ケイトリンは少々幻滅した。
「さあ、計画に抜かりはないんだから安心しなさい。それにしても木を倒して足止めなんてよく考えたわね」
「倒木って言うのよ。道を塞げば、馬車が横転するでしょう?」
「その前に止まったらいいんじゃないの?」
「馬車はスピードが出てたら急には止まれないでしょう?それもカーブの先でって言ってたわ」
「ほら、成功しかないじゃないの。でも死んでたりして……」
ママが茶化す様に言う。
「そうかもね、でもそれならそれで良いわ。目障りですもの」
「あら怖ーい!」
なんだか養母と比べるからだろうか、最近話していてアレっと思う事が多々ある。
私は父親に頭脳が似て、良かった。
そう思ったケイトリンだった。
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