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襲撃

 ノア様の言葉に問いかけようとした時、弟達が剣術の指導をと押し掛けて来た。

 二人に気に入られた彼は、引き摺られる様にして演習場に連れて行かれた。

 彼は優しい笑顔で、ではまた後で⋯⋯と言って去って行った。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 その後、準備は淡々と続いた。

「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」

 メイド達は心配して聞いて来た。

「何度もおさらいしたから大丈夫。安心して待ってて頂戴」

「はい、必ず無事にお戻り下さい」

 そしてミリエンヌは、特注で作らせた革製の籠手(こて)を装着した。

 これで頭や顔、首と胸辺りも防御出来る。

 馬車には盾も積んである。

 これはロレーヌ様が襲撃された様子を聞いた時から、用意させた物だった。


「では行って来ます」

「ノア様凄く強かったんだ。だから大丈夫!」

 弟達も只ならぬ雰囲気を察して、神妙な顔つきになっていた。

 馬車が静かに出発した。

「姉様ー!」

 弟達の声が聞こえた。

 私は大丈夫、震えそうになりながら、自分自身と戦った。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


 森の小道に差し掛かり、御者席で遠眼鏡を使っていたメイドが小窓から声を掛けた。

「お嬢様。緩いカーブの先に倒木がありそうです。全容は見えませんが木らしきものが倒れているのが少し見えます。お気をつけ下さい!」

「カーブ手前で止めて頂戴」

「かしこまりました」


 速度を徐々に落とした馬車は、カーブ手前でゆっくり止まった。

 従者とメイドが先を(のぞ)くと、襲撃者達が4人様子を見る為にこちらにやって来るところだった。

「相手は4人、見張りが居るかも知れませんから5人かも知れません」

 それを聞いて、ノア様も馬車を飛び出して行かれた。


 人の怒号と剣を交える音が聞こえる。

 もう一人のメイドは扉の外を守ってくれている。

 そのうち辺りに、後から駆けつけた護衛が到着したが、襲撃者達は既に取り押さえられていた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「見張りが居る筈だ、探して捕まえろ」

 ノアは指示を出して、皆が動き出したのを見て、ミリエンヌ嬢の元に駆けつけた。

 その時、矢がミリエンヌ嬢を狙いすましたかの様に飛んできた。

 咄嗟(とっさ)に庇ったが、彼女の肩を少し(かす)めた。


「大丈夫か?」

「少し掠めただけですわ。それよりこの矢を放った者を早く捕まえて下さい!」

「お嬢様、掠めたと言っても血が出ています。手当を⋯⋯」


 その時、ミリエンヌはグラリと上半身を反らして倒れた。

「お嬢様!」

「しまった!毒か?」

 私がミリエンヌ嬢のドレスの肩を大きく破っている所に、ディラン氏一行が到着された。


「貴様、ミリエンヌに何をしている!」

 ディラン氏が慌てて駆け寄って来たらしい。


「矢に毒が塗られていたらしい。そこまでするとは、水を早く!」


 そう言って私は彼女の肩に吸い付いて毒を吐き出した。

 何度も何度も。

 そして傷口を丁寧に洗い残りで自分もゆすいだ。

 包帯を渡されたので、それを手早く巻いてミリエンヌ嬢を抱き上げて、馬車へと運んだ。


「すぐに医者を手配してくれー!ミリエンヌ、ミリエンヌー!」

 婚約者のディラン氏が取り乱して叫んでいる。

「彼女は、私の婚約者は大丈夫なのか?」

「少し掠めた様だが、応急処置は済んだ。傷は小さかったからそう大量には入っていないだろう」


「医者はまだか!」

「今早馬で呼びに行っております。少々お待ちください」

「私は狙ったやつを追う。君は婚約者の側に居てやってくれ」

 そう言うと、彼は一瞬キョトンとして、それから慌てて彼女の居る馬車へと駆け込んだ。


「逃げた奴はどうなった!」

 私が聞くと

「今、追跡していると」

「絶対に逃すなよ!」

 そう言うと馬に乗って街に急いだ。

 奴は隠れ家に逃げ込む筈だ、その前に捕まえる。

 ノアは凄いスピードで森の小道を駆け抜けた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 ケイトリン親子は、隠れ家で朗報を待ち兼ねていた。


「遅いわね、まさかしくじったりしていないわよね?」

 独り言の様にケイトリンが言うと、そっくりな顔をした実母が笑いながら言った。

「落ち着いて、あの者達は優秀なのよ。ロレーヌの時もやり遂げたでしょう?」

「それはそうだけど。真っ先に知らせに走っても良い筈なのに!気が利かないわね!」

 そう言ってイライラと部屋を歩き回る。


「もう、ママの方が目が回っちゃうわ」

「ママはよく落ち着いて居られるわね。年の功?」

「なあに?トシノコウって?」

「年の功。そんなことも知らないの?」

「そんな難しい言葉、知らないわ」

「難しい?」

「貴方も私が平民だからって、馬鹿にするの?」

「あのね、年の功ってこう書いて、経験を積んだ力って意味よ!」

「そうなの?褒め言葉だったのね〜年の功か」

 その位でキャッキャ喜ぶ単純な実母に、ケイトリンは少々幻滅した。


「さあ、計画に抜かりはないんだから安心しなさい。それにしても木を倒して足止めなんてよく考えたわね」

「倒木って言うのよ。道を塞げば、馬車が横転するでしょう?」

「その前に止まったらいいんじゃないの?」

「馬車はスピードが出てたら急には止まれないでしょう?それもカーブの先でって言ってたわ」

「ほら、成功しかないじゃないの。でも死んでたりして……」

 ママが茶化す様に言う。

「そうかもね、でもそれならそれで良いわ。目障りですもの」

「あら怖ーい!」


 なんだか養母と比べるからだろうか、最近話していてアレっと思う事が多々ある。

 私は父親に頭脳が似て、良かった。

 そう思ったケイトリンだった。



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