ディラン・ホワードという男
「あなたに褒められても嬉しく無いのですが」
「そうなの?」
何時も何故そこにいるんだと言いたくなる様なタイミングで現れる、我が家のライバル。
ディラン・ホワード侯爵家令息。
現在この国の宰相をされているあちらも名門だ。
我が家の情報に聞き耳を立てているのかも知れない。
「これはディラン様、お久し振りでございます」
私は改めてきちんとご挨拶をした。
「そんな、つい先週も会ったじゃないか」
「見かけた⋯⋯の間違いですわね」
「そうだったかな?」
会話の内容はともかく、彼が首を傾げると周りの御令嬢から「はぁ〜」とか「キャー」とか声が上がる。
目がハートになっている、みなさんお気を確かに!
「私は影でこそこそ言われるのも嫌いですけど、目の前でこれ見よがしに言われると我慢出来ませんの」
「だろうね」
「自分の身は自分で守れますもの」
「そのようだね、ところで今日のエスコートは誰なんだい?」
「そうですわね、どこかに行ってしまっていますわ。又従兄弟のエスコートなんですが」
キョロキョロと見回して諦める。
又従兄弟はどこにも見当たらない。紳士同士で社交の部屋があるのでそこかもしれない。
煙草等を嗜みながら、政治経済の話等をするのだそうだ。
但しそこは女人禁制。
ファーストダンスまでに戻って来てくれれば良いのだが。
取り敢えず一曲でもダンスを踊らないと、また何を言われるか分かったもんじゃない。
「もし、それまでに戻らなかったら私と踊って頂けませんか?」
いやいや、これ以上注目は浴びたくない。
「戻らなかったらその時に考えますわ」
「ふふふ、約束だよ」
彼はそう言って手を後ろ手に振りながら人の波に消えた。
そして御令嬢等をパレードのように引き連れて去って行った。
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私はある意味有名な両親の元に生まれた。
当時実父は65歳、実母は21歳、祖父と孫の年齢差だった。
実父が実母の実家に滞在して、二人は恋に落ちたのだと言う。
当時婚約者の居た実母は直ぐに婚約破棄して実父と結婚した。
それが世紀の大恋愛として新聞各紙が書きたてた。
そして私を妊娠、幸せな結婚生活かと思いきや……。
実父の孫、今の父を罠にかけて責任を取らせようとしたらしい。
大恋愛のはずの実父をいとも簡単に捨てて。
今の父は陛下のお気に入りだったこともあり、そちらから情報が新聞社に漏れた。
それから後に実母の元婚約者にも、復縁を匂わせるような手紙を頻繁に送っている事も暴露された。
結果、実母は修道院送致。しかし実父は離婚しなかった。
まだ愛していたのか、それとも最後まで責任を取っただけか……。
二人とも故人なので今となっては分からない。
実母は修道院で私を産み、実父が直ぐに私を引き取った。
私は物心つく頃には実母は既に亡くなったと聞かされていたので、疑問にも思っていなかった。
それを今の父の離婚した前夫人が、修道院に居る事をご丁寧に教えてくれたのだ。
私が無邪気に懐いている事が、気に入らなかったのかも知れない。
そして実父は、私が8歳の時に亡くなった。
実父の遺言も有り、孫であるアイザックおじ様が私の父となった。
つまりは複雑怪奇な家族関係であったから、新聞にも面白おかしく書き立てられたのだと思う。
しかし今の両親は実子と分け隔て無く育ててくれた。
父は私がいたからこそ、母と結婚出来たのだと今でも言う。
長い片思いに終止符が打てたのは、私が縁結びしてくれたお蔭なのだと。
あれから9年、私もそろそろ延ばしに延ばした婚約者を決めなければならない歳になってきた。
それでせっせとパーティーに顔を出している。
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「あら、そんな事があったの?」
母が顔色を変えた。
「何だか騒がしいから来てみれば、そんな事をまだ言っている輩が居るのか」
父が周りに鋭い視線を向ける。
「エスコートは如何したの?見当たらない様だけど」
「そうなの。雲隠れしてその場に居なかったのよ!」
「アイツめ!」
この件は、養父母である両親の一番触れられたくない話題だ。
『ロザリンド』と言う名の実母は今の母の実姉にあたる。
サンチェス伯爵家の長女と次女だったのだ。
尤も母は成人後に実家と縁を切り、一旦平民になりそれから別の家の養女に入ったので、家名は違ったが。
「こんな所にいらしたんですか」
そう言って又従兄弟のアッシャーが飄々と現れる。
「エスコートを頼んだ筈だが」
父が厳しい目を向ける。
「済みませんー。同級生に会っちゃって、話し込んでました」
「何の為のエスコートだ」
「でもミリエンヌなら大丈夫でしょう。転んでもタダじゃ起きないし、踏まれたって踏み返せるから」
両親の前でそんな事を言うなんて、笑えない。全く笑えない!
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