ディランの動揺
ピクニック前日。
アンナさんから急遽呼ばれて、ディラン様と一緒にタジミール伯爵家を訪れていた。
「わざわざお越し頂いてすみません」
「いやそれはいいんだが、何か急用か?」
ディラン様がキョロキョロしながら言う。
「何だか邸内の様子がいつもと違いますね」
ミリエンヌも使用人達の浮き足立った様子に困惑して言った。
「隣国よりお帰りになったのです、伯爵様が」
アンナさんに案内されながら応接室へと向かう。
「ああ。話にあった弟さんがお帰りになったのか」
ディラン様の言葉にアンナさんが頷きながらソファーを勧める。
「ご紹介も兼ねてお茶でもどうかと思いまして」
アンナさんも上機嫌だ。
「あの、もう伯爵様と言われるって事は、ここをお継ぎになるの?」
「ええ。お返事を頂きまして、ここを継がれる事を了承されましたの」
「そう、意外とスムーズに決まって良かったな」
ディラン様が少々面食らって言った。
「それで明日の事もありますし、顔合わせしておいて頂こうかと思いまして。お二人には何かとお世話になっていますから」
トントントン。静かに扉が開き、執事と共に長身で逞しい男性が入って来た。
「失礼します」
ミリエンヌは目を見開いた。
黒い髪に青い目、背が高く筋肉がしっかりとついているのが服の上からも分かる。
そのオーラに圧倒される程、その男性は輝いていた。
何だか後光が差している。眩しい。
「ご紹介しますわ、主人の弟、ノア・タジミール伯爵です」
アンナさんが嬉しそうに紹介する。
「まだ、只のノアで良いのですが。初めまして、ノアと申します。お二人には義姉がお世話になっているそうで、有難う御座います」
耳障りの良い低音の響き。
使用人やアンナさんが浮き足立つのも頷ける。
ミリエンヌも思わずポーッとなって見惚れてしまった。
場の空気を察したのか、ディラン様が慌てて挨拶を返した。
「ディラン・ホワードです。お義姉さんとは幼馴染で仲良くして貰っています」
「そちらの方は」
「私の婚約者、ミリエンヌ・スペンサー嬢です」
「ミ、ミリエンヌ・スペンサーと申します。宜しくお願いします」
声がつい、上擦ってしまった。
ノア様はニコニコなさって、何故か私の方を凝視していらっしゃる。
そう、この場合いらっしゃるが正しい言葉だ、きっと。
その後の事はあんまり覚えていない。
この私が緊張で、声が上擦ったりしている内に、明日のピクニックも護衛の代わりをして下さるのだと聞かされて、喜びのあまりソファーの上で飛び上がってしまった。
腕には自信がおありとかで、隣国でもその腕一本で稼いだりもしたらしい。
カッコイイ上にお強いなんて!
アンナさん、ありがとうー!
恥ずかしいやら何やらでパニックに陥らなかっただけでも、褒めて欲しい位だ。
「明日の朝早くにそちらに向かいます」
と言われて、今夜は眠れないかもと思ったミリエンヌだった。
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帰りの馬車の中では微妙な空気が流れていた。
ディラン様は仏頂面でミリエンヌはもはや何も見ていない。
「ミリエンヌ嬢、心ここにあらずって感じだね」
「あーそうですかー」
「明日は大丈夫なの?そんな調子で」
「えーそうですねー」
「明日は私も駆け付ける予定だけど⋯⋯」
「いやーいりませんねー」
「心配だから、少し早めに私も行くよ」
「うーん、それはねー」
「何だその生返事は?」
「えー」
「何故語尾を伸ばす?」
「おー」
「ハァ?」
「あー」
「……」
「素敵過ぎー!」
私が狭い馬車の中で、足をバタバタさせたので、馬車が思った以上に揺れていた。
「お、おい!」
ディラン様が何か言っているが、耳に入ってこない。
ミリエンヌは夢見心地で、帰宅した。
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ディランは何故かムカムカしていた。
しかしその意味が分からない。
でもミリエンヌ嬢と話して、あんな態度を取られたのは初めてだった。
「一目惚れされたのですね」
ミリエンヌが降りた為、従者が馬車の中に戻っていた。
「そう見えたか?」
「はい、あの様な可愛らしいミリエンヌ様を初めて見ました」
「可愛らしい?」
「ええ。恋する乙女そのものですね」
「初めて会った奴にか?」
「ですから一目惚れと言うのでは?」
「婚約者が有りながら!」
「偽装だとノア様も知っておられますからね」
「何が言いたい?」
「あのご様子だとお互い一目惚れなのではないですか?」
「そんな……ん、んんっ、そうか」
ディランは意外にもショックを受けた自分に驚いた。
私はアンナが好きな筈で……そうずっと忘れられない筈で……。
ミリエンヌ嬢を好き?
いや、無い無い。それは絶対にない筈!
私達は仮の婚約者、この件が片付けば速やかに解消して……解消して……。
いや無理に解消せずとも、継続してもいいと言った筈だ!
ディランは動揺して思考がぐるぐる巡っていた。
「解決したら……どうしよう?」
従者に思わず尋ねてしまったディランだった。
「おかえりなさいませ」
それから自宅に帰り着いたディランは、不機嫌がますます顔に出ていた。
「ディラン様、どうなさったのですか?」
執事が心配して、従者に声を掛ける。
「ご本人にお聞き下さい。私からは何とも⋯⋯」
執事は従者の奥歯にものの挟まった様な物言いに、心配になって後を小走りで追った。
「入浴の準備を⋯⋯」
そうメイドに申し付けて、ディラン様の自室に入った。
「ディラン様、お加減でもお悪いのですか?」
「⋯⋯いや、何でも無い」
「お顔の色も優れませんが、入浴はお止めになりますか?」
「いや、入る」
「左様でございますか、すぐ準備致しますので」
いつに無くぶっきらぼうな物言いに、何かあったのだとすぐに気が付いた執事は、考え事の邪魔にならない様に部屋から音もなく去った。
「アンナ様に何かありましたか?」
従者に聞くが、
「あったと言えばそうですが、原因は別の方です」
「⋯⋯というと婚約者のミリエンヌ様ですか、成る程」
執事は頷いて、仕事に戻った。
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ディランは今まで感じたことのない様な、苛立ちを覚えた。
入浴後、ワインを嗜みながら夕食を摂るのだが、その日はそんな気分になれず、軽食を部屋まで持ってきて貰い早々に休む事にした。
しかし目が冴えて、眠れない。
あの情景が頭を巡り、苛立ちと共に頭に血が上る。
「チッ!」
ガバッと起き上がっては無理矢理眠るを繰り返して、眠れない事に苛ついて酒を煽る事にした。
足を忍ばせて、ワインセラーまで来るとお気に入りのワインを選び出し、グラスに注いで飲み始める。
「眠れませんか?」
いきなり後ろから声を掛けられて、ディランはビクッと大きく驚いた。
「まだ起きていたのか?」
執事がガウン姿で後ろに立っていた。
「今日はご様子がいつもと違われたので、心配で」
「そうか、済まないな。どうだ少し付き合ってくれないか?」
「はい。私で宜しければ」
それから暫くは、無言で酒を飲んでいた二人だったが、
「何か御座いましたか?宜しければ独り言を仰って下さい。私は居ないものとして」
「気を遣わせたな。⋯⋯何と言ったらいいのか、戸惑っている」
「⋯⋯」
「今日婚約者とタジミール氏の弟であるノア氏が、お互い一目惚れをしたらしいのだ」
「⋯⋯」
「別に気にする事も無いんだが、無いんだが⋯⋯」
「気になって仕方ないと」
「彼女はその⋯⋯何でこんなに気になるんだ」
「ディラン様、恋をしておられるのでは無いのですか?」
執事は私に衝撃を与えた。
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お待たせしましたが、今日から恋が動きます!
多分人気は一極集中すると予想しますが、もう片方の方もガッツリ反省しますので応援くださいませ。
さて、この三角関係、どうなっていくのか?
ではここで一曲「喧嘩を辞めてぇ〜二人を止めてぇ〜私の為に争わない〜でぇ、もうこれ以上ぉ〜♪」
どらどらとんとんの美声でお送りしました!Σ(゜д゜lll)




