ミリエンヌの舌戦
「ほら、あの方が例の……」
わざと語尾を有耶無耶にして、人の興味を誘う。
今日はラッセル侯爵家主催のパーティー、ミリエンヌもご招待を受けていた。
「例のって?」
「世紀の大恋愛年の差カップルからの転落、素行不良で有名な……」
「あ、あぁ、あの有名なロザリンド様ね」
大人しそうな令嬢がポンとセンスを閉じる。
「そうそう!」
またこれ見よがしにわざと聞こえるように言う、あの技術。
絶妙な距離感、絶妙なタイミング。
待ち構えていたとしか、思えない。
「暇人なのね、そんな昔の事を持ち出して……」
わざわざ知らない人に吹聴するのだから、何か意図があっての事だろう。
あの方は……確かトリングル伯爵家の御令嬢よね。
私は最近母の影響で、ご令嬢の顔さえ見ればどこのご出身で、主要産業や特産品、ご兄弟の嫁ぎ先などが頭に浮かぶようになっていた。
母は、商会の会長職も務めているから、その影響で詳しくなる。
情報はより多い方が良い。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
私はミリエンヌ・スペンサー公爵家令嬢、17歳になった。
父はアイザック・スペンサー、母はパトリシア・スペンサー。
8歳の時養女になり、弟達が2人居る。
彼女が仄めかせたのは、実母の事だ。
実母は、修道院でその生涯を閉じた。
生前素行が誉められた物ではなかったにしても、もう故人だ。
人は触れられたくない過去をどれ程引き摺ればいいのか?
実母は少なくとも修道院で、その罪を償ったと思いたい。
それにしても本来であれば、彼女の言動はいただけない。
公爵家令嬢に表立って言ってはいけない事だ。
彼女は伯爵家令嬢、自分より高位令嬢に普通の神経ならあの態度は無いだろう。
彼女の意図は差し詰め、彼の事だろう。
最近やたらと絡んでくる男。
私の嫌いなタイプの男。
何故か付き纏われて迷惑していると言うのに。
私はツカツカと彼女達の輪に入って行き、
「何か私の事で仰いまして?トリングル伯爵家、ユミル様?」
彼女はまさか私がその様な行動に出るとは思ってもみなかったのだろう。
しどろもどろになりながら
「私は何も⋯⋯ねぇ」
隣で話していたモランボン伯爵家令嬢に相槌を求める。
「私は関係ありませんわ」
ほら、お友達に見捨てられてよ。
「昔のしかも故人の噂をされるとは、トリングル伯爵家ではその様な会話を、ご家族で常になさっているのね」
「いえ、そんな」
「だっておかしいでしょう?私達が生まれる前の事を、見てきたかの様にお話しなさるのね」
「風の噂で⋯⋯」
「あら、関係者を前にして、そんな当てにもならない話を裏付けも無く広めているの?」
「でもお母様が、あっ」
「ふーん、トリングル夫人はその様な事を平気でなさいますのね」
「⋯⋯」
「その当時、トリングル夫人は確かノールン子爵家長女として、ノールン地方にいらしたのでは無いかしら?ご年齢からして」
「えっ!」
「まぁ。ゴシップ新聞を読まれて、さも知ったかのように、お嬢様に話されるのですね」
「何故お母様が、ノールン子爵家出身だと知っているのですか?」
「私、母の影響で国の貴族なら何処の家の出か、暗記しておりますし地理も得意なんですよ」
「そ、そうなんですか」
「だからと言っては何ですけど、ちゃんとご自身で見聞きした事のみ仰ったら?」
その場が凍りつく。
「実母はね、修道院で亡くなったの。其れとも修道院如きでは、罪の償いは不十分だとお考えなのかしら?貴方のご家庭では」
「⋯⋯いえ、両親は関係ありません。申し訳ありませんでした」
ミリエンヌはニッコリ笑って
「分かって頂けたらいいのよ。わざわざ私に聞こえる様に仰るから、その意図をお聞きしようと思ったの」
青い顔色の彼女は、令嬢達に遠巻きにされていた。
隣にいた筈のご友人も一緒に。
「みなさん、私は実母とは別人格です!」
遠巻きに注目していた者達が目を見張る。
「どちらかと言うと今の母にそっくりだと言われますのよ。生まれは変えられませんけど」
「⋯⋯」
ミリエンヌはトリングル令嬢の耳元でこっそり言った。
「ご家庭の会話は自由ですけど、それを敢えてパーティーで広めるのは⋯⋯如何なものかしら?」
「わ、私はこれで失礼します」
そう言って彼女はそそくさと帰って行った。
そう、ミリエンヌは気が強い。
やられたら十倍ぐらいにしてお返しするのだ。
今日の所は控えめにお返しした。
パチパチパチパチ⋯⋯。
「お見事!」
私の頭痛の種、元々の元凶がやって来た。
「なにが、お見事ですの?」
「言われっぱなしにしないなんて、逞しいな」
妙に整った顔が、鼻につく。
煌めく銀髪に青い目、嫌味なぐらいに顔の整った優男。
私の好みじゃありませんけど。
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