二人の関係
「やっと終わりましたよね」
安堵とコルセットの圧から解放されて、ミリエンヌの声が弾む。
部屋着に着替えて胸部に集められていた贅肉は、それぞれに戻って行った……儚い一時の夢が終わった。
「ホントに夢だったね」
本当にデリカシーが欠如しているらしい。
レディーに言ってはいけない言葉だ!
「元はと言えばディラン様が悪いのですよ。ドレスのこの辺の⋯⋯胸部を大きめに作らせるから」
「スマン悪気は無い!普通このくらいだろうと言うのでな」
「急な事とはいえ、何ていうかもう少しささやかに……とか言いようがある筈です!」
「ぶはっ、ささやかねぇ。さ、ささやか……」
笑いのツボに入ったのか、げらげらよく笑う。
知り合うまで、澄ました顔しか知らなかったからミリエンヌは驚いていた。
「もう知りません!」
あまりに笑うので、真っ赤になって頬を膨らませると
「ふ、ふ……」
「ふ?」
「フグみたいだ!」
バン!テーブルに両手を打ちつけてしまった。
「あいたた……」
「ヒ―ッ」
ヒ―ヒ―げらげら笑って氷の貴公子が台無しだ!
「何々、随分楽しそうじゃない」
弟たちが部屋に入って来た。
「もう遅いからあなた達は休む時間よ」
「だって楽しそうなんだもん。何のお話?」
笑い過ぎて涙を滲ませたディラン様が口を開こうとするので遮った、何を言うか分かったもんじゃない。
「何でも無いのよ、気にしないで。さぁ、二人とも部屋へ……」
「まだ眠くないよ、気になるじゃないか」
「そうそう僕も仲間に入れてー」
「あのね、君達のお姉さんが……」
そこまで言うと、また思い出したのか、げらげら笑い始める。
「これが氷の貴公子様の正体です」
私が指を揃えた手のひらを上に向けて案内する様に真顔で言うと、弟達も目を丸くして笑い始めた。
いつの間にか釣られてミリエンヌも笑っていた。
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「君と居ると面白い事が一杯だ」
「それ、褒めていませんよね。何気にそう感じるんですけど!」
「退屈しない!今まで自分がこんなに笑うとは思ってもみなかった」
「感情の欠落ですか。宜しかったですね、私で笑えて!」
「気を悪くしないでくれ。嬉しいのだ」
「嬉しい?」
「あぁ。何だか気持ちがスッキリしている。今日はよく眠れそうだ」
「睡眠安定剤ですか!宜しかった事!」
「もう、笑わせないでくれ。腹筋が崩壊しそうだ!」
「運動不足と違いますか?婚約者様!」
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厄介な仮の婚約者がやっと帰ってくれた。
パーティーが終わって送って貰えたのまではいい。
すぐ帰ると思ったら上がり込んで来るではないか。
何か話があるのかと着替えだけを急いで済ませて会ってみると⋯⋯。
ゲラゲラヒーヒー笑って帰っただけ。
あの方何がしたかったのか?
婚約するってああいうものなの?
部屋に戻りながら、考え込んでしまったミリエンヌだった。
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「あー、楽しかった!」
ここはホワード家馬車の中、従者相手にディランは上機嫌だった。
「そうでございますか」
「もう、あの顔見たか?」
「いえ、私はその様な事は決して⋯⋯」
応接室の片隅に控えていた彼は一部始終を見聞きしていた。
だからこそ、そう言われて口では否定したが肩が小刻みに震えている。
「ささやかがツボに入っちゃって、止めようと⋯⋯ブハハ」
「そ、その様に笑われては⋯⋯お気を悪くなさいます」
「彼女はさぁ、他の令嬢とは何か違うんだよな」
「違うとはやはり婚約者ですし⋯⋯」
「気の置けない友人同士の様な⋯⋯なんて言ったらいいのかな?気の合う親友?」
「それは女性としては見ていらっしゃらないのですか?」
「うーん。残念ながら色恋とは違うかな」
「政略の婚約ですから、それだけ気が合うのも珍しいのではないでしょうか?」
「彼女自身が魅力的な人ではある。頭も良いし、機転も利く。話していて面白い」
「しかし恋愛感情はないと」
「そうだね、でも結婚したら楽しいだろうな」
それ以上ディランは何も言わなかった。
二人の利害が合っての婚約。
彼女は嫌がらせを仕掛けた相手を探したい、そして今後もその様なことが無い様にしたい。
ディランは鬱陶しいケイトリン嬢を何とかしたい。そして数年前の婚約破棄に関わる騒動の犯人が知りたい。
元婚約者はもう別の人の妻に収まった。
今更知ってもと思うが、あのケイトリン嬢が裏で糸を引き、何かしたとしか思えないのだ。
結局犯人は捕まらず、不安に押し潰された婚約者は体調を崩し、逃げることを選択した。
スッキリしない。小骨が喉に詰まった様な、そんな心持ち。
解決しないと前に進めないそんな心残り。
ミリエンヌ嬢には危険が迫るかもしれないが、そこは自分ががっちり守る!
そう思いながら、婚約パーティーの夜は更けていくのだった。
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